食事と対策
冬川さんの状況を考え、調査続行にはストップをかけた。
未知との遭遇をした事で受けた、精神的なダメージが抜けているかどうか分からないからだ。最低でも一日以上は休ませる必要があると思う。
「……もふぅ」
「雪……私はもふじゃないよ? てか、少し離れようね」
彼女がダメージを負っているのは、この状況を見るに間違いのない話かな。きっと回復の為にも、母性? を他者に求めているのだろうね。
冬川さんは自分の話が終わると、すぐに春野さんへと引っ付き虫を再開していたから。
さて、そしたらここは、俺は違う方向で彼女の回復を補佐しようじゃないか。
「と言う事で、新型の塩とそれを使って作った串焼き。これでも食べて腹を満たしてくださいな」
「……くしやき!」
「あ、雪が離れた……うーん、やっぱり雪には食なのかぁ」
何んというか、冬川さんはものすごい勢いで春野さんから離れたな。そんなにお腹が空いていたのだろうか。
「味付けは変わらず塩オンリーだけどね」
「リンクでも言ってたけど、塩がグレードアップしたんだよね?」
「最低品質から低品質にね。だから味は上がっているかな」
「……おいひい」
モグモグと串焼きを齧り付く冬川さん。なんかとっても幸せそうな雰囲気を醸し出している。
「こっちがイノシシの肉でこっちがウサギかな。で、ボックスフィッシュも一緒に焼いたけど」
「うんうん! 塩に甘みが増えている感じがするよ! あ、後苦さも少し減ってる!!」
「……美味」
良かった良かった。
あぁ、やっぱりこういう感想を聞くとなぁ。もっと早くに塩は手を付けておくべきだったかな。低品質が作れるようになったのは旧拠点の時だったしね。ただ、あの時は武器やら道具やらを作る方で時間を使ってたけど。
「スキルポイントを振る前に、大量生産するのは止めておこうかなぁ」
「あー……大量生産しちゃったから塩は最低品質を?」
「そうそう。低品質が安定して作れるようになる前に、最低品質で量産しちゃってたから」
「一体どれだけ量産していたの?」
「んっと……アイテムボックスだと入りきらないぐらい?」
塩入の竹筒が99個以上あった時は吃驚したからね。だから、出発前に塩は作って無かったりする。
本当、どれだけ作っていたんだよ……って話なんだけど、毎日少しずつ備蓄して行っていたからね。とりあえず作っておけ! って感じで、どれだけ溜まっていたかなんて数えて無かったんだよね。
「……もっと作る?」
「いや、次の品質になるのがどのタイミングか分からないからなぁ。とりあえず99個で良いかな。まぁ最悪、塩は交易品として使えるだろうけど」
普通に生産したとしても、それは錬金術で作るよりも下のランク。そう、最低品質のもう一つ下なんだよな。だってそこにはスキルが介入されていないから。
だから、塩の味が全く違うんだ。うん、最初にこの島で作った塩は今思えば最悪だったな。あの時は塩だ! って思って美味しく食べていたんだけど。
ただ、だからこそ交易品になりえるんだよね。錬金製の塩は。
「ただまぁ、俺達側に欲しい物が有るのかな? って話ではあるんだけどね」
「んー……今の所、全て自作出来てるよね」
「そうなんだけど、圧倒的に生産職が足らないからなぁ。錬金術だけだと将来的には頭打ちになるかも」
ただ、こんな状況下でどれだけ生産職を選ぶ人間がいるんだろう? って疑問に思う。
身の安全を考えると、絶対に戦闘職を選んじゃうと思う。もし生産職を選ぶ人がいるとしたら、それは周りに絶対の信頼を置ける環境か、もしくは絶対君主制でも敷いている……いや、強いている人達ぐらい。
「ジョブ選択時に見たけど、結構な数の生産職が有ったんだよね。でも、人数に対してジョブの多さがね……」
「……足らない?」
「そうだね。人の数が全く足りていないよね。それに……問題を起こす人も居るから」
欲しいのは生産力。だけど、その生産力をアップさせるだけの状況下では無いと言う事になるかな。
「錬金術は結構オールマイティに物を作れるけど、それは特化に比べるとやっぱり劣るから……せめて、主要の生産職持ちとは知り合いになっておきたい感じかな……まぁ、俺は接する事が出来ないけど」
「あはは……確かに、対人交渉は難しいよね。そこらへんは委員長な桔梗に任せるのが一番かな? 望月君は交易品となりえる塩とかを大量に作って貰うのが良いかも」
実に申し訳ない話なんだけど、彼女達4人は別として、他の人達とまともに会話が出来るか? と聞かれたら、間違いなく厳しい。と言うより、無理かな。
寧ろ、叩き潰したホウガ……っと、アブナイアブナイ。なんか変な方向へと思考が引っ張られた気がした。
「あ、そうそう! 生産といえば、桃の枝とかも採取して来たよ。一応使えるかどうかわからないから、いくつか用意したけど」
「ありがとう。っと、一応鑑定してみるね……あー、うん。問題無く使えるよ」
「良かったぁ……枝ってどんなのが良いか分からないから」
「……桃の実は?」
「雪……残念だけど、桃はまだ収穫出来ないよ」
「……残念すぎる」
と、とりあえず。これで武器の強化も出来るって事だね。
最低品質だった杖が低品質になったら、一体どれだけの変化があるんだろうか。
「あ、そうそう。捕獲用のトラップも作っておいたから」
「ん? ってそっか! そっちも品質がアップするんだよね」
「そう言う事。だから、トラップの強度が上がるのか、獲れる魚が増えるのか分からないけど、前のよりは良くなると思う」
「……タイ?」
「鯛が獲れるかどうかは分からないなぁ……」
ボックスフィッシュなんて居た訳だし、もっと良く分からない魚が獲れてもおかしくはない。例えばスケスケな深海魚みたいな奴とか。
あ、深海魚なら鮟鱇とか獲れると良いんだけど。……居るのかな? 居たら良いなぁ。だって、錬金術を使えば解体がすっごく楽だしね。
「ウサギとイノシシ用のトラップも改良したけど、こっちはあまり使わなさそうかな」
「そうだね……レベリングとしても、もうイノシシって美味しくないよ」
「……肉は美味しい」
「お肉は燻製肉がまだまだ残っているから、現状狩る理由が余りないんだよね」
どうやら、狩る相手から入る経験値なんだけど、一定のレベルを超えると途端に入手量が減る。なので、経験値としてみるには凄く不味い存在になってしまう。
数を狩ってのレベリングは最後まで出来ないって事だね。お陰で俺のレベルはネズミでも上がらなくなり始めていた。
だからこそ、今回の調査を行う事にしたんだけどね。
島に居るだろうクラス皆のレベルだけど、イノシシによる狩りが主流だろうからまだ低いはず。だから敵対した相手ぐらいは、今のうちに調査をしておこうって。何せ、俺や女子達はネズミ狩りをしてレベルが結構上がっているから余裕があるしね。
そしてその予想は間違いが無い様で、不気味と言える相手だけどレベリングのメインはイノシシが相手。しかも、パーティー設定をしている為に一人に入る経験値はさらに下がる。
まだまだ彼等はイノシシで経験値が入るレベルと言う事になるんだよね。
ここらで一気に力を見せつける……なんて真似をしたくなるんだろうなぁ。普通の人なら。
ただ、そんな事をした処で、後から問題が生じるからなるべく穏便に済ませたい。……まぁ、既に刃を交えた相手ではあったけど。一応、違う人からとは言え謝罪は受けた訳だし。
「塩で殴るのが良いかな?」
「塩で殴るの!? 撒くんじゃなくて!」
「……勿体ない」
「いやいや! 直接殴る訳じゃないから。こう、札束でビンタ的な感じ? これが欲しければーって」
「あぁなるほど。吃驚したよぉ」
今ならとても強いカードがある訳だし、今のうちに物で心を殴りつけておくと言うのが一番良いかもしれない。
どれだけ相手に響くか分からないけど、この塩を一口舐めたら相手の精神もノーダメージと言う訳にはいかないはずだよね。
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札束でペチペチされたら、「ハハー」って頭を下げちゃいますよね。プライド? そんなもの金の魔力に比べたら!! なんて人多いと思います。
で、この状況だと塩やら水やらは札束代わりになるかと。えぇ、竹筒に入っていますから物理ビンタも合わさって、心身共にダメージが与えられるはず!




