咲かせるのは?
今俺の目の前では、一匹の子ウサギがプルプルと震えながら春野さんに抱き着いている。
……いや、ウサギと一緒にするのは彼女に失礼か。この島にいるウサギは全てウザい存在だからね。とまぁ、冬川さんが春野さんに対して引っ付き虫をしていると言う訳なんだけど。一体どうしてこうなった? とりあえず、あのリンクの会話の事も有るから、ここはそっと目を逸らして少しずつ下がっておくのが吉だと思う。
もしかしたら、彼女達はそう言う花の世界な人達かもしれないしね。
「も、望月君! 何か勘違いしてないかな!?」
「いえいえ、えっと、ごゆっくり?」
「違うからね!!」
「……うぅ、やわかい」
あーあーきーこーえーなーいー。
うん、俺は理解がある人のつもりだから、そんな事で非難したり否定したりはしないよ。ただちょっと、時と場所を考えて欲しいなと思う程度で。
「あぁもう! 雪一体どうしちゃったのよ……望月君に変な誤解されてるよ?」
「……あうあう」
「あうあうじゃわからないよ。うーん、本当に雪はどうし……ってこら! 揉むな!」
「……ましゅー」
うん、聞こえないったら聞こえない。
しかし、確かに冬川さんの行動がおかしい。もし百合な花畑の人ならば、もっとこう前からアクションが有っても良かったはずだよね。
やっぱりここは最初のイメージ通りで、〝ぷるぷると震えていた小動物〟と言うのが正しいのかもしれない。
でも一体彼女の身に何があったんだ? 先ほどちらりと見た感じでは、何かと戦闘をしたとか、怪我をしたなんて様子は見られなかった。
となると、何か精神的にショックを受けてしまうモノを地精霊越しに見てしまったとか。とりあえず、彼女が落ち着いてからゆっくりと話を聞くとしよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数十分間、春野さんを堪能した冬川さんは、いつもの〝無〟と言った雰囲気に戻っていた。なので、彼女から色々と話を聞こうと会話を試みてみる。
「と、その前に! 望月君、誤解は解けた?」
「うん大丈夫だよ。僕は否定も肯定もしないからね」
グッと親指を立ててサムズアップ。まぁ、既に彼女達がそっち側の花園に住む住人でない事は分かっているけど、面白いからこのままネタにしてしまおう。
「それ、誤解したままだからね! わ、私は普通なんだから!!」
「……遊んでる」
「え? 遊んでる?」
「……うん、ねぇもっちー」
冬川さんに呼ばれたので、顔は見ないようにしつつ其方へと視線を向けると、冬川さんは俺に向かってグッと親指を立てた。……うん、此処は返礼しておこう。俺も冬川さんに向けてサムズアップ。
「……なんで二人でわかり合っているのかな? えっと、どういう事?」
「……秘密」
「そうだね。それじゃ、冬川さんには何を見たか説明して貰えるかな」
「……おけ」
「ねぇ、どういう事!?」
春野さんにはこのまま生贄になって貰おう。
きっとこれから話をする内容は、冬川さんにとって心にダメージが入った内容。なので、ここぞと言う時に春野さんには柱となって貰う。だからネタばらしは申し訳ないけどもう少し後で。
と言う事で、春野さんの訴えをスルーし、俺は冬川さんから話を聞いていった。少し春野さんからとげとげしい視線を感じるモノの、それは甘んじて受け入れておこう。
冬川さんから語られた内容。それは、相手のトップに精霊の召喚がばれたと言う事。そして、その精霊に対して色々と語りかけて来たと言う事。
「で、その内容が、「こっちはお前たちの事をお見通しだぞ」と言われているような感じだったって事で良いかな?」
「……うんそう」
ふーん……なるほどね。それが冬川さんにとって、とても未知の領域だった為に恐怖を感じてしまったって事か。
しかしそのやり口。なんだかとっても身に覚えがある内容だな。ただ、俺が知るやり方はもっとこう毒があるやり方だったけど。
「その相手がやった方法なんだけど、それってただ自分を大きく見せてマウントを取りに来ているだけだと思う」
「……マウント?」
「えっと、なんで望月君はそう思ったの? マウントを取るにしても、相手は何も要求して来ていないよ」
「えっとそれは……」
きょとんとしている二人に、俺はどういう行動心理なのかをゆっくり説明していった。
まず「可愛いネズミちゃん」と言う言葉を使った事。それは、聞いている側に小さいとかとるに足らないというイメージを植え付ける為。もしくは、自分ならどうにでも出来ると自分へ暗示をかける為。
そうして、話をするのに自分に有利な流れを作るのが目的。
続けて言った「隠れて」と「恥ずかしがり屋」も、その効果を高める為のワード。そして追い打ちとして「のぞきは良くない」これで罪悪感を植え付ける。
「……ほぇ」
「良くもまぁそれだけのワードでそこまで……でもそれって望月君の考えすぎじゃないの?」
「どうだろうね。ただ、後々に続けた会話の内容からも、8割以上の確率で合っていると思う」
どういう会話だったか。ソレを振り返ると分かりやすい。
「獲って食べない」と言うワードで、自分は敵対しませんよとアピール。
そして、自分達の元仲間がやった行為に対して謝罪しつつ報復をしたと言った。これは、彼女が自分のやった事では無い事に対して誠意をみせつつ、それでも敵対するなら容赦しないと言った事になる。
ちょっとした脅しが入っているんだよね。だって、別に俺達は彼等を無傷で撃退したんだから、謝意を見せる必要も無ければ、報復したなんて言う必要も無いから。
「えっと、ただ誠実な人なんじゃないの?」
「だったら良いけどね」
そして情報公開。
自分が鑑定士と言う事を教えつつ、鑑定した内容を冬川さんに伝える。普通に考えたら、信用して欲しいから伝えて来たとなるんだけど。
「自分の能力を態と教えて、相手にその有能さをアピール。これまた自分を大きく見せつつ相手を萎縮させる行為かな。冬川さんも感じたんじゃない? 自分の内側が丸裸にされる! って」
「……うん」
「なんだか望月君の話を聞いていると、とっても人が怖くなりそうだよ……」
「少しは疑った方が良いよ。特にこんな状況だから。彼女はさらに冬川さんへ追い打ちも掛けているしね。立ち去る背中に「行ってしまった」と聞こえる様に言っているんだから」
「……怖かった」
冬川さんが撤退する行為を選んだのは正解だろうね。あのまま話を聞いていたら、どんどん術中にはまっていた可能性がある。
ただ、相手は敵対するつもりはないのは正しいと思う。だって毒はそこまで含まれていなかったから。
「きっと、交渉をするとなった時に有利な立場を取りたかったんだろうね。まぁ、話し合いをするかどうかは別だけど」
「避けた方が良いかな。でも……」
あぁ、やっぱり春野さんも術にかかってしまうタイプだ。
と言うよりも、春野さん達には自分達が先に逃げたと言う負い目が、心のどこかに潜んでいるみたいだしね。……ぶっちゃけ、機を見る事が出来なかった人達が悪いと俺は思うんだけど。でもそれは彼女達には関係のない話で、心の問題だし。
だからこそ、今回の調査を行った訳だ。少しでも彼女達の心が楽になる様にって、俺もやるべきだと考えたしね。まぁ、それが今回の相手と対峙するにはマイナス要因になる訳だけど。
「そもそも、既に彼女達は解放された。そして、その要因の一つに俺達の防衛が関わっている。間接的に春野さんや冬川さんは彼女達を助けたって事になると思うよ」
「うーん……そうなのかなぁ」
「……わからない」
とりあえず、少しでも春野さん達の気が軽くなるように会話をしつつ。地雷だけは踏まない様にして……。
それにしても、今回の相手は前回と違う意味で厄介な相手になりそうだね。まさか、精神的なマウントを取って来るとか。
まぁ、俺の兄に比べたら可愛いレベルだったけどね。
あの糞兄……自分を上げつつ、俺を下げまくるなんて行為を数年単位で攻めて来ていたからな。それで、絶対に兄には勝てないってイメージを植え付けて来ていた。絶対に逆らえないようにって。
一種の洗脳だったんだよなぁ。実際に俺は何か行動をしようとすら思えなかったし、それこそ嵐が過ぎるのを待つ動物みたいに静かにしていた。そして、そう言うモノだと全てを諦めていた。
この島に来て、解放されたと思いながら1人で色々やってみて、そこに女子4人組が来た事で沢山の事が理解出来てしまったんだよな。
やさしさとか、毒とか、それはもう本当に色々なモノが。何といえば良いんだろう、知識と状況がようやく繋がったって感じかな。
以前は頭で知っていたけど理解出来ていなかったんだよな。なのでこれは、彼女達のお陰と言ったところかな。
まぁだから、ある意味恩返しと言った感じ。とりあえず、相手が言葉を使ってマウントを取って来るなら、上手くかわす事にしよう。
もしそこへ毒が含まれるような事が有れば……あの糞兄を見習うのは嫌だけど、色々と知っているんだから利用させて貰うとしようかな。
ブックマークに評価などなど、(人´∀`)アリガトー♪
と言う事で、実は一方的ではありましたがマウント合戦を仕掛けられていました。雪ちゃん涙目。
そしてタイトルの咲かせたと言うのは、百合ではありません。えぇ、言葉による毒の花が咲くかどうかという瀬戸際だったと言うお話。
ただ、こればかりは何方にも非が無いと思います。だってこんな状況、疑心暗鬼になってしまうのも仕方が無いので。相手の女王様も生き残りに必死と言う訳ですね。やり口は女王様らしいやり方だっただけで。




