思ってたけど、思ってたんとちゃう
拠点を出発してから2日目の昼過ぎ。実は既に旧拠点の近くまでたどり着いていたりする。
以前は出発してから3日目の夜に現在の拠点へとたどり着いた事を考えると、これは相当なスピードで移動して来たと言う事になるかな。
「レベルアップと支援魔法のお陰かな」
「……ボク達優秀」
「あはは……以前は私のレベルが低くて皆に合わせて貰っていたところもあったしね」
強行すると言っても、パーティーの移動速度は基本的に一番足が遅い人に合わせるんだよね。
だから、春野さんが言う様に、彼女のスピードに合わせての移動だったのは事実なんだけど、実はその事はそこまで問題ではなかったりするんだ。
「大丈夫かな。だって、その分は警戒に意識を割けていたからね」
「……今は地精霊も居る」
そう、今は地精霊のネズミがいるお陰で、周囲への警戒に割く意識は薄くしても問題が無かったりする。だからこそ、移動に力を入れる事も可能になったんだ。
正直、このネズミがかなり優秀。一足先にかけて行ったかと思うと、その周囲を一気に調査して来てくれる。なので、俺達は後方からの奇襲にだけ気を付ければ良かったりする。
「チゥ!」
「……ドヤ」
合流する度に召喚者の冬川さんと召喚された側のネズミが自慢してくるけどね。
そんなネズミの調査力もあって、俺達は一気に歩を進める事ができ、旧拠点跡地近くに到着した訳だけども……。
「跡地より少し離れた場所にテントを張って簡易拠点にするとして、海水から塩を作りつつ魚の調達かな」
「あ、魚の方は私がやるよ。えっと、罠もあるよね?」
「確か罠は持って行ってなかったはず。引き上げた後に何処かへ隠したと思うけど……」
「じゃぁトラップを探してくるね。多分だけど物を隠した場所はだいたい覚えているし、それに目印もつけてたと思う」
「それじゃ、そっちは春野さんに任せるよ」
そしたら、その間に俺はしっかりとテントを張っておくとして。
「……ボクは調査に出ていい?」
「そうだね。冬川さんはネズミと一緒に周囲の脅威を調査して貰うのが良いかな」
「……ん。がんばる」
「ちぅっちー!」
ね、ネズミが敬礼をしている。しかも、その手を額に当てて……一体誰が仕込んだんだ。てか、と言う事は、この鳴き声って「イエッサー」とでも言いたかったのかな。
げ、芸が細かい事で……なんて思いながら一瞬フリーズしている間に、冬川さんとネズミは颯爽と調査へ向かって行った。
まぁ、脅威の調査と言っても、彼女達は彼女達元々いた人達の場所を調べに行くんだろうけどね。……だってこの周囲、そこまで脅威がある訳じゃないし。なんなら、一番の脅威は人な訳だから。
「とりあえず、テントを張るか……あぁ、後は調理用の焚火も用意しないとか」
とりあえず、色々と素材集めや塩作りをするのも事実だから、俺達はこの場に2~3日留まる事になる。なので、しっかりとキャンプの準備はしておかないとだな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
日が暮れる少し前。俺達は自分達のやるべき事をやり終え、テントの前に用意した焚火を囲んでいる。
「報告かーい! って事で、えっと、トラップと釣り竿は発見出来たよ。で、海にトラップを仕掛けておきました! 後、ついでに釣りをしたんだけど……前と違ってボックスフィッシュが数匹釣れたよ」
「え、マジか」
「……マ?」
「本当に本当。ほら! これ見てよ」
春野さんが持ち帰って来た魚を入れるバケツには、ボックスフィッシュが数匹確かに居た。
これは海の状況が変わったのだろうか? あ、もしかしたら雨季に入ったから、生息地が少しずれた可能性もあるかも?
「何はともあれ、素材が増えるのは有難いかな。ボックスフィッシュが大量に獲れたら、それだけアイテムボックスが量産出来るし」
「だね! だから、トラップにも期待かなぁ」
彼女の成果はかなり大きなものだったって事だね。
「そしたら俺の方だけど、テントは他よりも高い場所に建てたよ。勿論、更に盛ったけどね。で、簡易の水路みたいなのも作ったから、雨が降ってもテント内が浸水するなんて事は無いと思う」
「……おー」
「以前はちょっと危険だったもんね。もう少し降り続いていたら間違いなく部屋の中に水が入ってたよ」
「だね。だからこそ、今回はしっかりと建てる場所を考えたよ」
今回はハンモックを寝床にと言う訳にはいかない。テント内だしね。
なので、今回はしっかりと雨対策をしておいたと言う訳だ。多分だけど、屋根を付けたから焚火も濡れて使えなくなるって事はほぼほぼ無いと思う。まぁ、横から殴る様に雨が降って来たらアウトだろうけど。
「と言う事で、2~3日過ごすだけなら問題無いと思う。で、集めるべき素材なんだけど……今の拠点だと数が少ない物が優先かな」
「んー……となると、ボムベリーとか? でも一応栽培は試みているんだよね」
「栽培は成功するかどうかもまだ分からないからね。まぁ、失敗しても成功するまでやるんだけど。っと、それは良いとして、色々と道具を作るには必要だからやっぱり足らなくなるんだけど」
今の拠点だと植生が少し変わる為に、ボムベリーが生えている部分は少ない。なので、此処に居る内に沢山採取しておこうって事。
「カエンタケもかな。あっちだと麻痺系が多いし」
「言われて見ればそうかも。栽培が成功しないことも考えて少し余分に集めておく?」
「一応カンストの99までは欲しいかなぁ」
「了解。ここら辺には沢山生えているから、直ぐに99個集められるよ」
「俺はその間に塩作りかな。後は獲ってきてもらったボックスフィッシュの解体作業とかも」
さて、俺の報告と集めて欲しいモノも一通り伝えたので……ここからが今回のメインとも言っていい内容。そう、冬川さんの報告だ。
「……ボクの報告。……たぶんクーデター?」
冬川さんの言葉に春野さんは「え?」と言った雰囲気になった。
逆に俺はと言うと、予想の一つが当たったかぁなんて、少し遠い目になりかけてしまった。
うんまぁそうだよねぇって思う。だって、蔑まれてきた人たちが弱った馬鹿をみて動かないと思う? って話だよ。そりゃ、動くに決まってるでしょう。多分俺だって動く。ここが復讐のチャンスだ! って。……いや、以前の自分だったらどうかな? もしかしたら、仕方ないと考えて諦めつつ、頭痛に吐き気と戦闘していたかも。
うん、動くと言えるのは、今の自分だからかもしれないね。
そうそう、今は自分の事は良いや。
で、その彼等の状況。だけど、クーデターっぽい事が起きたのだとか。とりあえず、冬川さんの目にはそう見えたらしい。
「理由は?」
「……最後に解放したのが慌てていた。……他の人は焦って仕事をしていた」
どっちみちてんやわんやとしていたと言う事なのかな?
「えっと雪、最初の人はどんな感じで慌てていたの?」
「……んー。人が居ない?」
「人が居ない……なんだろう。誰か探しているんだろうけど一体誰を? てか、その人は拠点に居たの?」
「……んーん。拠点外でうろうろ」
春野さんと冬川さんが「誰だろう?」と言いながら顔を突き合わせている。なにこのピュアピュアな子達。
普通に考えればすぐに思いつくと思うんだけど……だってそれ、俺達が解毒剤を渡した人。その彼が慌てて人を探しながら彷徨っているって事だよね。 しかも、彼が所属していた拠点ではクーデターっぽい事が起きた。恐らくその時に、解毒剤は破棄されたか違う人が飲んじゃったか。
となったら、探しているだろう人って俺達じゃないのかな。探している理由も恐らく、新しい解毒剤を求めてとかそんな感じ。
「後者は?」
「……青い顔をしながら食料調達」
あぁ、これは脅されたか? 食料持ってこないと解毒剤が来てもまた破棄をするぞ! とか、今までの様な楽しみなんて無いぞ! とか。……まぁ、楽しむことなんてさせないだろうけど。
「これはまた、近寄りがたい人達の可能性も高いなぁ。ただ、前よりは気にしなくても良いのかな? とりあえず、敵対さえしてこなければいいし」
「……ペット? も居た」
「え、もしかして相手にはテイマーがいるのかな?」
「……んん。人がペット」
……一体どんな状況なんだ。なんというか、以前とは違う意味で恐ろしさを感じるような気もするけど。
兎に角、素材やら塩やらを集めつつ様子見かな? 恐らく相手も俺達が此処に居るなんて思っていないだろうしね。
そもそも、確認するなら直ぐに来ているだろうし、そしてその時に拠点が崩壊しているのを見ているはずだから。
とりあえず、接触は控えて、バレないようにこそこそと戦力調査をさせて貰うとしよう。
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一体雪ちゃんの目(地精霊を通して)には何が見えたのでしょうね。
てか、このおしゃべりが苦手な子に、調査させつつその内容を語らせると言う所業。一体誰がこんなひどい事を……。