閑話・女王様
男が三人横になって唸っている。
それ横目にしながら、私は私の表情を凍らせる。感情を出してはいけない。何故なら私は……。
「はぁはぁ……鏡花様……く、薬を……」
男子が一人遅れて戻って来た。どうやら彼は、解毒剤を運ぶためにと一人敵陣に残されていたらしい。
そう……解毒剤ね。
「その薬を渡しなさい。貴方達にやらせたら失敗する未来しか見えないわ」
「え、あ、はい」
私はその男子から解毒剤を取り上げた。
今では誰も私の言う事を疑う人なんていないのだから当然なのだけど。本当、簡単に解毒剤を渡してくれるのね。
ちらりと私の横に居る女子達に目を配る。すると彼女達は、何も言わないままただこくりと首を縦に振った。
以心伝心。
彼女達もすっかりと私の右腕と左腕になってくれているわね。……後は、足元に居る雌犬かしら。
正直、こいつの所為で!! と何度も思って殺してしまった方が良いのでは? と考えた事もあるのだけど、こうして犬として扱えている事を考えれば、まだまだ使い道があるわ。
こうして偶に、優しく上から踏んであげるだけで……。
「きゃん!」
「貴女も……ほら行くわよ」
ふふ……良い声で鳴く。本当に従順な子になったわ。お陰で私達の負担も随分と減っているのだから……。
「さて、解毒剤を貴方達も持ってね。丁度3つあるのだから」
「「はい」」
私は左右に居る二人に解毒剤を一つ持たせて、毒で唸っている男達の元へと移動をした。
そして、そんな彼等を解毒剤片手に見下ろす。
「せんせ、彼が解毒剤を持ってきてくれましたよ」
「そ、それを……はやく……」
「えぇ、ご心配なさらずとも、今直ぐこの解毒剤を……あなた達、良いわね?」
こくりと頷く二人と一緒に、私は解毒剤の蓋を開け、竹筒を唸っている男達の前にもっていく……。
「な、何を!?」
背後で男子が一人叫んだ。何を? 当然の事でしょう。
「何を言っているのかしら。貴方達が私達にした事を考えれば当然の結果でしょう?」
「そ、そんな! 命が、人の命の問題なんだぞ!!」
「そうね? だから何? 私達の事を〝人〟として扱わなかったのはどこの誰かしら」
そう言いながら、私達は解毒剤の中身を全て地面へ撒き、更に足でその解毒剤の液を踏みつけ引き伸ばした。
「ふふ……あは、あはははははは! これではもう飲むことなど不可能よね。舐めるのも無理があるわね!」
絶望の色をみせる先生とその金魚の糞。
「ねぇ? どうして素直に飲ませて貰えると思ったのかしら? ねぇ? どうして? 私達の事を蹂躙した貴方達が! どうして! 命を救ってもらえると勘違いしたのかしら!! ねぇ、今どんな気持ち?」
あぁ、愉快。とっても愉快。ずっとこの表情を見たかった。
我慢して、我慢して、我慢して……ずっと、耐えながら、仮面を被って媚びへつらえながら。どこの誰か知らないけど、本当に感謝しているわ。私達にこの様なチャンスをくれたのだから。
私の隣でも実に楽しそうに笑みを見せている女子2人。ただ、足元では雌犬がちょっと驚いたような表情を見せている。
当然よね。この雌犬には私達の計画なんて一切話をしていなかったのだから。……ただ、その計画も、こんなに早く実行できるとは思っていなかったのだけど。
「あ、あ、あぁぁ……そんな、これでは、うちの戦力が……」
「何か問題でも? 確かにこの3人は私達の中では一番強かったのは間違いないわ。でも、それは皆の獲物を横取りしていたからでしょう?」
「だけど! どうするんだ……あいつ等がこちらに攻めてきたら……勝てないじゃないか!!」
「あらぁ? それの何が問題なのかしら。私達はその相手に保護を求めるだけで済むもの。それに……他の男子も被害者と言う事でお願いしてあげても良いのよ? まぁ、攻めてくる事があればだけど」
良い、実に良い。なんて良い顔をするのかしら。さぁ、もっと絶望した表情を私達に見せて。
ただ、こんな事を言っているけど、恐らくその相手と言うのは攻めてこないでしょうね。
もし攻めて来るなら、こんな風に解毒剤を渡してこないと思うわ。……そうね、もし私が彼等なら、拠点が割れたのだから、移転する事を選ぶでしょう。
私達にとっては少し残念ではあるけど、それで文句は言えないわ。そんな事で文句を言おうものなら、ただの恥知らずでしょうし。……ただ、この雌犬が以前の吠えるだけの状態のままだったら、きっとその相手に「なんですぐ助けてくれないのよ!!」と噛みついていたでしょうけど。
「……それは」
「勿論! 私達が、誰を保護して欲しいか選ぶ身ですけどね? えぇ、私達に非道な事をした相手は当然そのリストから排除させてもらいます」
みるみるうちに顔が青くなって行く男子数名。
それもそのはず。今顔を真っ青にした人達は、先生に感化されて私達に手を出した人達なのだから。そしてまた、その頼みの綱であった先生達はもう……。
「く、くす……りを……」
「あぁ……」
「い、いた……い……くる……し……」
薬を使えなくしたことから来る絶望からか、先生達は気力がどんどん失われているみたいね。
私が薬を捨てる前にくらべて、随分と肌の色も悪くなっている様に見えるわ。
「良い事? 私が口添えをするのは、私達に貢献した者のみよ。さて、貴方達は今後どうするつもりかしら?」
ちらりと青ざめた男子たちをみてから、次に先生達を見下ろす。
すると、「はっ!?」と何か気が付いたのか、青ざめた男子たちは颯爽とこの室内から飛び出して行った。……ただ一人を除いて。
「先生……俺、もう一度彼等に会ってきます! そして、解毒剤を!!」
そう告げた男子は、勢いよく室内から飛び出して行ったわ。まぁでも、無駄な努力ご苦労様と言ったところかしらね。
どうせ、その相手は既に移動を開始しているはずよ。もし移動していないとしても、交渉は没になるでしょうし、攻めて来ているのであれば……それこそ、その交渉は無意味。
「ふふ……せんせ、彼は健気ですねぇ。でぇもぉ、無駄な努力だって気が付いていないみたいで実に滑稽。せんせぇはどう思います?」
そう先生へ語りかけながら、私は先生を踏みつけながらぐりぐりと足を動かした。
「う、うぐ……き、きさま……おぼえて……おけ……」
あぁ! どうやら先生は彼が駆けて行ったのを見て希望を持ったみたい。
いいわね。まだまだ先生の事を嬲る事が出来る。えぇ、もっと、もっと絶望して貰わないと。
「雌犬。この先生に向かってマーキングしなさい。そう……顔に向かってね」
「くぅん!?」
「あら? ご主人様の言う事が聞けないのかしら? そうなると罰が必要になるわね」
「キャン!!」
私が罰をと言うと、雌犬はいそいそと先生に向かってマーキングを開始。
うんうん、それで良いのよ。それが貴女への罰なのだから。
「ふふ……うふふふ……あははははははは! 茜さん、皐月さん、外にでましょう。生産職の男子の元へ」
「はい! 彼等にもこの状況を説明しないといけませんね」
「喜んでくれるかなぁ? 喜んでくれるよね!」
「えぇ、不遇の扱いをしていた同胞ですから。それに、私や彼等はここからが忙しくなります。今まで以上に仕事をしないと」
クーデターが成功したのだから、次からは生存戦争が始まる。
食料・対動物やモンスター・雨などの天災に対抗。それらを今度は私達が主導で行わなければならない。
「甘い汁を吸っていた男子たちは、これから馬車馬の如く扱えるのだから労働力は問題無いはず」
「そうですね。彼等も口添えが欲しくて仕方がないでしょうし」
「あの倒れてる三人はどうするの? 生かしておく? やっちゃう?」
「もう少し様子を見ましょう。大丈夫、彼等はもう動く事すら不可能よ、縛り上げているしね。それに、最悪の事を考えて、今から男子に色々と作って貰うわよ」
もう二度と、不遇な扱いなんて受けるモノですか。漸くつかんだこのチャンス。絶対に生かさないといけないわね。
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と言う事で、女王様の独壇場です。
「ざまぁ」のタグが無いのは、主人公達が表立って何かをすると言う訳では無かったからです。
賛否両論ありますでしょうが、個人的には〝やられた人がやり返す〟がベストだと思いますので。
それと、彼女達の苦しみを知らぬ主人公と、その仲間となったエリカ達が何かすると言うのも……ね。
実際に大きな被害を受けている訳でもないのに行動したら、それってただの〝サイコパス〟ですし。一応、拠点から撤退している等の被害は受けていますけど、それでは相手を攻める理由としては微妙ですしね。あくまで、彼等はまだ現代的な考え方を残していますので。
てなわけで、クーデターを成功させた女王様こと鏡花さん。彼女達の今後は彼女が言っている様に生存戦略へとシフトしていくでしょう。




