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閑話・保護されていた帰還者達は今……

 ――深夜。


 壁に向かい〝ウッー〟と唸る犬や〝シャー!〟と毛を逆立てる猫の数が増えて来た。

 しかし、そのような場所を人が探ってみても何かが発見されたという事が無い。これはいったい何が起きているのだろう? と、夜中になると不安を怯える人々が増えて来た。


 もしかしたら、人の気配には敏感な動物が現れているのでは? と思い、犬猫が警戒する場所が映るようカメラを設置した。だが、結果としては全く何の影も形も映像に残す事が叶わなかった。

 何か音が拾えないだろうか? と思い高性能マイクを向けるも、マイクに録音されるのは動物や虫などの鳴き声のみ。

 であれば、温度の変化はどうだ! とサーモグラフィーまで持ち出すものの……コレといった異常が見つかる事も無かった。


 では、いったいこの犬猫達は何に向かって吠えているのか? 今までであれば、この様な事など無かったと言うのに……と謎は深まるばかり。

 しかも、沢山の犬猫が同じ反応をするものだから、夜に全く寝られないという人まで出て来ている。


 奥様方が行われる最近の井戸端会議では、話題の内容が〝うちの犬猫が~〟と始まり〝いえいえ、家の子が~〟などと返すのがすでにデフォルトとなっている。


 はっきり言って、発情期の猫ですらまだかわいいレベルの唸りや鳴き声なモノであり、飼われている子から野良まで問わず連鎖しているのか? と思ってしまう共鳴っぷり。

 何処かの誰かがノイローゼになるのも時間の問題では? などと思われていたりもする。




 その様な怪奇現象の中。問題解決の為にと白羽の矢が立ったのが異世界から帰還した者達。

 というのも、この問題が起きている場所が割りとモンスターが出たとされる自然に近いというのも有り、それならもしかしたらモンスターか魔法的な要素で問題が起きているのでは? などと考えた者が居たらしい。


 そう判断するのは安直すぎやしないか? などと発言する者もいたそうだが、決定権を持つ者は……もうすでに疲れ切っていたのだろうか? 昆虫の巨大化・モンスターの出現・人々への説明・そして一定数の何故か自分達は大丈夫だと思っている住民達。問題に問題がその肩へと伸し掛かり、更には国と住民達との板挟みという……実に胃痛ポジションという立場。

 そう……彼は疲れ切ってしまっていた。全てを〝天狗の仕業じゃ〟ではなく、〝モンスターや魔法の仕業だ〟などと言いたくなるぐらいに。



 しかし、このやり投げな発想が良かったのだろうか。偶然? いや、奇跡だろうか。彼の行動は上手く歯車が噛み合ったようで……。


「えっと、正体はスライムですね。どうやら壁の隙間に潜んで居たみたいです」

「正体が分かって何より……とは言い切れなさそうな内容になります」


 調査に当たった帰還者が、依頼をして来た者に対して答えを告げる。すると依頼者は少々驚いてみせた後、何処かホッとしたような表情に変わった。

 どうやら、報告の内容をしっかりと聞く前に〝スライム〟というワードで何かしら自己解決でもしたかのよう。



 だが決してホッとしていい内容ではない。そもそも、壁にスライムが潜んでいたと言うことは、それすなわち〝人の居住区にモンスターが出た〟という事だ。

 しかも、厄介な事に出てきたモンスターがスライムというのも大問題である。


 一般的に〝スライムと言えば?〟と質問をされた時、殆どの者が〝最初にレベル上げを行うために殴る雑魚モンスター〟と答える。


「ですが、たかがスライムですよね?」

「はぁ? 今、何と、言いました?」


 思わず言葉が強くなる帰還者。そんな帰還者の様子に、依頼主は何でそんなに怒るのか分からないといった様子。


 異世界で実際のスライムに遭遇した彼らだからこそ分かる話なのだが、スライムはネズミと並んで実に面倒な存在である。確かに弱い個体も居るのだが、奴らはただ弱いだけではない。


 数が多い場所は恐ろしい程の群れをなしている。何でも取り込んで溶かしてしまう能力を持っている。無形が故に何処にでも入り込む事が出来る。コアを破壊しない限り、奴らは何度でも蘇る。

 これだけの能力を持っているというのに、スライムの事を〝ただの雑魚〟と侮って良いはずも無く……。


「私達も異世界に居た時、同じように〝たかがスライム〟と言ってとても痛い目を見た子がいます」

「え、ですがスライムですよね?」

「……とある夜の事です。私達はどうしても1夜キャンプする必要が出来てしまいました。そして寝ている間にスライムがテントに侵入して来たらしく、朝にはその顔にべったりと張り付かれていました」

「そ、それは息苦しそうですね」


 息苦しいで済む話ではない。〝何でも溶かすスライム〟が〝顔に張り付いていた〟のだ。


「朝、私達はその子の断末魔で目を覚ましました。そして……その子の顔は……」


 暗い表情で俯いてしまった帰還者。

 当然だろう。一歩間違えていたら自分の顔が溶けていた可能性だってある。そしてまた、夜営に選んだ場所の選択をミスしたという負い目もあった。

 現地の者には言われていたのだ。〝此処にはスライムが出るから夜営をするには要注意だ〟と。しかし帰還者達はその時思ってしまった。


 たかがスライムだろう? そんなの適当に叩けば倒せるだろう……と。


「事が起きたのは異世界です。異世界では、溶けた顔を治す為の魔法やポーションがありました。ですので、その子はなんとか元の顔へと戻せましたが……痛い思いをしたのは事実ですし、そういったポーションはかなり高価なモノになります。……そして、地球ではその様なポーションなど現状では手にはいらないと思われ」

「もし作られていたとしても、薬機法などで使えないでしょうね」


 帰還者の話を聞き、顔を青くしていく依頼主。自分の顔にスライムが張り付いてしまった時の事でも想像してしまったのだろう。


「ス、スライムの駆除は可能ですか?」

「ドレだけ居るかも分かりませんが……やれるだけはやってみます。後、どうやらこの地域の犬猫はスライムに対しての反応が良いようなので、彼らを使うのも良いかもしれません」


 日本にある、とある村で起きた怪奇現象。これは、奇跡的にも初動が良かった為なのか、被害者は〝寝不足を起こした人達〟だけですんだ。

 だが、これは大きな変化の始まりに過ぎない。そしてまた、保護されていた帰還者達にスポットライトが当たる、最初の事件でもあったりする。

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