歪
ソレが起きたのは、拠点の開発を順調に進めている最中だった。
女子の二人……春野さんと夏目さんが素材や食材の採取に森へ入った時、夏目さんが怪我をしてしまったらしい。という話し声が聞こえて来た。
思わず心臓に負担がかかる。
怪我は大丈夫なのか!? と思いつつ、俺は彼女達の元へポーションを持って行った。
「怪我は? ポーションは足りてるかな? 毒持ちだった場合は解毒剤か、もし何か病気持ちだったとしたら薬も作らないと……」
「あ、大丈夫かな。一応エリカにクリーンとヒールを掛けて貰ったよ」
「クリーンで除菌もばっちりだけど、念のために解毒薬と解熱剤は欲しいかも。既に体内に入ってた場合は、全てをクリーンで取り除けたかどうかわからないし」
「了解。それだけで大丈夫? ポーションのストックとかはどうだろう」
「常備している分は大丈夫。ストックも拠点に戻ればあるしね」
なら良かった。
「しかし、一体何があった?」
「あー……こう、頭上から手が鎌みたいなネズミ? に襲われたんだ」
「頭上も注意していたんだけどね……やっぱりあの〝ヘビイチゴモドキ〟が居たせいなのかな、足元の方へ注意がいっちゃってて……油断しちゃった」
手が鎌なネズミと……イタチではないのか。
しかし、そんな生物は地上に存在していないよね。となると、モンスターの可能性が高いかもしれない。いやまって、この島は普通じゃないから……爪が変に環境適応したネズミって可能性も。
とりあえず、森の中は以前よりも注意しなくてはいけないみたいだ。
前の拠点であれば、アクティブに攻撃してくるのが兎とイノシシぐらいだったけど……どうやら、こっちでは少しその種類が増えている。……その分経験値は稼ぎやすいのかもしれないけど。
しかし、何だったんだろうか、あの時の心臓へ来た負担は。痛いという訳でもなかったんだけど……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――深夜。
ハンモックの上からむくりと起き上がり地面へと足をつける。そして、肩と首を回して動く為の準備をした。
「よし、それじゃぁ……行こうか」
そう口にし、ログハウスから出て森の方へと向かう。目的は一つ……ネズミの殲滅だ。
「クフッ。僕の協力者に手を出したんだから当然の報いだよねぇ」
今からやる行動に気分が高揚する。ネズミに対して何に手を出したのか、それを徹底的に叩き込まなくては。そのような思考に脳内が支配されていく。
夜の森という事もあって辺りは一面真っ暗だ。
そしてまた、鳥の鳴き声がその暗闇と合わさり不気味さを増している。……が、そんな事は関係ない。不気味だからと足を止める気はさらさらない。
五感の内、聴覚と嗅覚に意識を集中する。視覚は不要だ。これだけ暗かったら、視覚では相手を捕捉など出来ない。なので気にしない。なんなら、確認をするとき以外は目を閉じておく。
――ガサッ
右前方にて、何か小動物の動く様な音が聞こえた。触覚からして風が音を立てた訳でない事は分かる。
ならばと、その音がした方向へ向け、風魔法を撃ちこんだ。
放たれた〝ウインド〟は、生い茂る草をかき分け、音を立てただろう相手に命中。
グシャと何かを潰した音が周囲に響いたかと思うと……スマホからレベルアップ音が。
「……音が邪魔だな。スマホの通知音を切っておくか」
何かを風魔法で潰してレベルアップをした。ただ、そのお陰で僕が此処に居ると辺りに伝えてしまった事になる。
痛恨のミスととらえれば良いのだろうか? それとも、コレはチャンスだろうか。何せ、この通知音が響いた事で、何やら蠢く存在達があちらこちらでその気配をまき散らし始めたのだから。
「いやはや、自分の居場所を知らせたら、相手も知らせてくれましたって事か。これはフィーバータイム突入という奴か」
スッっと杖を構え、音のする方向へ向かって魔法を乱射していく。
「〝サンダー〟〝アイス〟〝ロック〟〝ウォーター〟っと、火無しだから、光と闇……これは効果があるのか?」
折角だからと、色々な魔法も試していく。
雷魔法は、杖から真っ直ぐではない軌道ではあったものの、狙った場所へはしっかりと到達する様だ。「ギャピ!」と言う鳴き声が聞こえたかと思ったが、何やらプスプスとした煙を出しつつその鳴き声の主は動く事を止めてしまった。
氷魔法だと、一直線に冷やりとした弾が飛んで行った。
そして、狙った場所へ着弾したかと思うとその場に氷の塊が出来上がっていた。いや、氷柱と言った方が良いか? なるほど、これは色々な意味で使えそうな魔法だ。
因みに、その氷柱の中にはしっかりと爪が異常発達したネズミが捉えられていた。動く気配も無いので、完全に凍結してしまったのだろう。
光魔法と闇魔法は……今の所使えないな。
辺りを明るくするか暗くするかしか現状は出来ないみたいだ。……いま光魔法の〝ライト〟は使いどころかもしれないが、現状隠れている奴を相手に対して音を頼りに狩りをしている。なので逆に邪魔になりかねない。
闇魔法の〝ダーク〟は、相手の視覚をシャットダウンすると考えたら使えなくも無いが、それは今じゃない。昼間にやるべき魔法だろう。
「ハハハ! いやぁ、魔法使えるじゃないか。特にサンダーとアイスは良い」
そんな事を口にしながら、僕は夜の狩りを大いに楽しんだ。
とは言え、魔力切れの可能性もあるので、ある程度したら切り上げハンモックにダイブしておくとしよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
朝起きると……何やら気怠い気分に襲われた。なんだろうこれ? こう、魔力切れを起こした後の回復中みたいな感覚なんだけど。
なんだかなぁなんて思っていると、脳内で悪魔がブスッとしたふくれっ面。何やら気分が悪い様だ。逆に天使は満面の笑顔。
『ふふふ……景よ、それで良いのです。えぇそれで』
『……まぁ良いけどよ。とりあえず、スマホチェックだけは忘れんな』
そう告げると、天使と悪魔はスっとその姿を消していった。……一体本当に何なんだ。
ただ、悪魔に言われたからという訳では無いけど、スマホのチェックはしておくべきだろう。という事で、目覚めと言う状況ではあるけど、俺はスマホの電源を入れ……そしてその光景に驚愕した。
「えぇっと……何があった?」
スマホのステータスアプリを開いたら、何かとっても違和感! と言わざるを得ない状況に。因みにその画面と言うのが……。
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ステータスだよ!
ジョブ
アルケミスト:Lv19
スキル
錬金術(初級・カンスト)
鑑定(初級)
魔法(全属性・初級)
残りSP7
称号
ジャイアントキリング
追記
ちょっとちょっと! 何やってるの? レベルアップをしたなら確認しなさいよ! まったく……本当に抜けている部分があるんだから。
良い事? スキルポイントを振るのはそのまま生存確率に直結するんだからね! はい、理解したらさっさと何に振るか考える事!!
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なんだろう。身に覚えのないレベルアップなんだけど、しかもその事でシステムさんに怒られてしまった。
てか何だろう? この良く分からない空白は。以前より隙間が大きいような気がするんだよね。
でもまぁ、とりあえずスキルポイントは振っておかないとか。でも何に振ったらいいんだろう? 今の所、魔法か鑑定にしか振れない。
普通に考えたら魔法一択なんだろうけど……もしかして、鑑定に振っていなかったから、素材になりえるモノを今までスルーしていたなんて事も有るかもしれない。
悩む……これは非常に頭が痛い問題だ。
火力は欲しい。何かあった時の為に武器となりえるから。
今のところまだ新しい魔法は生き物を相手に試してないからその威力はわからないのだけど、それでも雷とか氷だから期待は出来ると思う。光と闇はどうなんだろうね? 明るくしたり暗くしたりだから……使い道次第かな。
だから、思い切って魔法に全振りってのも良いんだよね。でも……素材も気になるからなぁ。ここは一気に全部と言うより、半分とかちょこっと試しにって感じでやるのも良いかもしれないね。
ブックマークに評価等、ありがとうございます!!ヾ(*´∀`*)ノ
さて、少しだけネタバレはいりまーす。ですので、見たくない人はスルーしてください。
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ステータスだよ!
ジョブ
アルケミスト:Lv19
スキル
錬金術(初級・カンスト)
鑑定(初級)
魔法(全属性・初級)
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≪この情報を見るにはクリアランスレベルが足りていません。その為、この情報はスマホの画面に映る事は有りません≫
ユニークスキル
反転:バサーク(カンスト)
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残りSP7
称号
ジャイアントキリング
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≪この情報を見るにはクリアランスレベルが足りていません。その為、この情報はスマホの画面に映る事は有りません≫
称号
バーサーカー
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追記
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本来のステータス画面はこんな感じです。ただ、景にはクリアランスのレベルが足らず見る事が出来ませんでした。
次に、ユニークスキルの詳細。
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反転:バサーク
力・魔力・素早さを一時的に数倍高める。その代わりに素の防御力は1に。
発動条件
反転している事。
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となります。
そして、称号もまたこのスキルに由来するもの。何故取得出来たのかはその内本編で。てか、ある程度分かってしまう気もしますが(-_-;)
とりあえず、景の歪みはスキルに現れたと言う事になります。修復中の心というのは、どう頑張っても歪な形になってしまっていますから仕方ないのかもしれませんが。