少しづつ進んで行く
ちょこっとだけ、そう、ちょこっとだけ女子との距離が縮まった気がする。
夜中に春野さんと会話をした後、何というか少しだけ心が軽くなった。だから、他の女子とも少しだけ会話をした。
で、その時にしっかりと自己紹介を済ませた。……本当、普通に考えたら今更の行為なんだろうけどね。
俺が認識している女子+アルファベットなんだけど、Aの彼女が春野 エリカさん。Bさんが夏目 七海さん。Cさんが秋山 桔梗さん。Dさんが冬川 雪さん。
えっと、春夏秋冬で覚えたら楽かなって口にしたらアウトだよね。あ、もしかして本人達も、春夏秋冬だって思ったから付き合い始めたのかもしれないね。
ただ、俺自身はよくある恋愛ものの主人公とかみたいな、名前呼びなんてハードルが高すぎる。だから、やっぱりここは苗字にさん付けで呼ぶのが良いかな。まぁ、セオリーと言うかマナー的にもそっちの方が良いと思う。
許可されてもいないのに名前呼びとか……どう考えても駄目だと思うし。
しかしそこで思うのが、Dさ……っと、冬川さんの「もっちー」呼びは何なのだろうか。確かに俺は望月だから、そう呼ばれても問題は無いと思うんだけど。これはあれか? 彼女の性格なのかなぁ。きっとそうなんだろうな。そう言えば彼女って突然「もちゃー!」って言いながら威嚇……威嚇なのか? まぁ、そんな事をして来ていたし。その時は思わず吹いちゃったけど。
うん、彼女は天然娘という認識をしておこう。
Dさんこと冬川さんをそう認識してから、俺は他の女子達も少しずつ理解しようとしてみた。
春野さん。
正直びっくりしたんだけど、あの焚火の会話で初めて知ったんだけど彼女ってハーフだったんだね。もう、目は少し青いし、髪の色も……染めた訳じゃ無いよね? うちの学校基本的には染めるの禁止だったし。
話をした感じ、どちらかと言えばおっとりとした感じで、ヒーラーを選んだ事を考えると支援をしたり誰かの為になる事をするのが好きなのかな?
夏目さん。
彼女があの狙撃を行ったんだって。お陰で奴等との距離が保てたから感謝しかない。
日焼けとショートカットで、如何にもスポーツをやっていますと言う見た目。……以前の俺なら絶対にお近づきになりたくない、陽キャ系に属する感じがする子。笑顔が眩しいと言っても良いかな。よく楽しそうに笑っている。
なので少し……脳筋っぽさがちらほら。とりあえず射貫けば良いんじゃね? みたいな事を言ってる。
秋山さん。
なんかとっても図書委員長ぽい感じ。もしくは生徒会長。本を片手に眼鏡をクイッとやっていそうな雰囲気がするんだよね。
そんな秋山さんだけど、彼女があの石壁を作る魔法を使ってくれた人。彼女はどうやら土魔法の使い方を良く知っている気がする。……ちょっと話が合うかも? と思ってしまった。ただ、やっぱり委員長なので少し話がしにくい雰囲気はあるかな。
そんな感じで、ちらっと彼女達の姿を確認した後に、彼女達の会話を聞きながら感じたのがそういった事。
まぁ、まだまだこの後に修正されるだろうイメージではあるけど、最初の印象としては十分な情報を収集出来たんじゃないかな? ……いや、これ最初の印象と言っても良いのだろうか。
「あ、えっとDs……冬川さん、そこに居るの〝ヘビイチゴモドキ〟だから、採取しにいかないようにね」
「……美味しそうなのに」
前にやらかしているから、一応声を掛けておく。
するとやっぱり彼女は、あのイチゴに見える蛇を採りに行こうと考えていたようだった。
「雪……貴女って子は……」
「……ボクは悪くない」
「悪いのはそんな見た目をしている蛇だって? 前にも間違えているんだから雪も今回はアウトだよ」
「……ななみんが酷い」
「なんでいきなりななみん呼び?」
「……もっちーがもっちーだから」
やばい。俺には解読不可能過ぎる。
てかなんで女子は冬川さんの言いたい事が分かるんだ。そして、「もっちーがもっちー」ってどういう事なんだ。
そんな風に頭を悩ませていると、長年付き添った友情と言うのはやはり大きいモノがあるらしい。この「もっちーがもっちー」は彼女達には通じている様だ。
「望月君をもっちー呼びする事にしたから皆の呼び方も変えるって……今まで通りでも良いんじゃないかなぁ」
「……公平。ん、きーたん」
「桔梗の事をきーたんって……何かお菓子みたいな呼び方じゃない」
「わ、私が……お菓子……」
こ、これは笑っても良いのだろうか? 女子達は秋山さんはショックを覚えているし、冬川さんは当然と言った顔をしているけど、それ以外の二人はクスクスと笑っている。
それにしてもお菓子って……あれかな? 幸せになれる粉が振りかけられているお菓子とか? 流石に、ある国の卵で作ったモノじゃないよね。
因みに、これは休憩時の会話だったりする。
移動中に笑いそうになる会話とかをしていたら不味いからね。なので、基本休憩中は結構おしゃべりを皆していたりする。……お陰で、どういった人かと言うのを少しずつ理解出来ていたりする。
ただ、俺から何かを聞いたりするなんて事は無い。そんな真似が出来る訳も無い。やるとしたら、さっきみたいな報告が必要な事を話す事ぐらい。
とは言え、今までの様な居心地の悪さは少し減ってるかな。やっぱり、春野さんはヒーラーと言う事なのだろう。あの時の会話は間違いなく、俺にとって変化がある出来事だった。
「そう言えば望月君。貴方は拠点として選ぶならどんな場所が良いと考えているのかしら?」
突然話題を振られた。
話しかけて来たのは秋山さんで、どうやら拠点選びについての意見が欲しいらしい。
「拠点として選ぶなら、周りより少し高い位置が良い」
「それは雨季対策かしら?」
「それもあるけど、敵が来た時高い位置の方がアドバンテージが取れる」
「でもそうなると水を手に入れるのが大変ではないかしら?」
「確かにそうだね。一応川が見える位置が良いけど川に近すぎても駄目だから、出来るなら井戸を掘りたいかな」
ただ、井戸を掘るとなるとかなりの労力が必要になる。
とりあえず、その為には何かしら道具を作らないといけないと思うし、その道具が出来るまで水の確保は川まで取りに行かないといけない。
「水車を作って上まで引き上げるのは?」
「水車の場合はメンテが必要というのもだけど、水車が破壊される可能性もあるかな」
因みに、他の女子は俺と秋山さんの会話をうんうんと首を縦に振ったりしながら聞いている。……若干一名、リズムをとっているようなメトロノーム的動きをしているけど、あれは会話の内容が分かっているのだろうか?
「あぁ、動物にモンスターも居たわね。となると、今までみたいな水の確保は出来ず、使うのも制限する必要があるかしら」
「井戸が出来るまではそうなるかな。地下水が走っている場所は、マップアプリで確認できるみたいだから探すのは楽だけどね」
「え、あ……本当だ。地下に何があるか設定で分かるようになっているわね」
そう、実はこのマップアプリはかなり便利な機能がついている。
地下水の位置もなんだけど、実はガス・地下鉱脈・洞窟の状況などなど、それらのチェックが可能だったんだ。とは言え、この機能に気が付いたのは少し前だったりする。うん、拠点を移そうと考えて、その候補地をマップで探していたら見つけた機能なんだよね。
そして嬉しい事に、井戸が簡単に掘れるのかどうかも分かる仕様になっている。
「あぁ、闇雲に歩いていた訳では無かったのね。なるほど……この地下水が確保出来る上に少し高い場所を目指していたと」
「そう言う事かな。ごめん、しっかりと伝えておくべきだったね」
「いやいや! 私の方こそ申し訳なかったわ。これ、マップアプリを見たら情報の共有で直ぐに理解出来たはずなのに……マップアプリの事をすっかり忘れていたのよね」
あぁなるほど。だから拠点の質問をして来たのか。
俺はマップアプリを共有する様にしていたから、伝わっているものだと思っていた。うん、これは誰か一人が悪いという訳でもないな。お互いがお互いにやらかしてしまったというだけだ。
「もう少し、会話をした方が良いって事だね」
「伝わっている〝だろう〟は駄目って事ね……これは注意しないといけないわね」
「……当然」
「雪が一番微妙だって気が付いている?」
「……遺憾」
本当に気を付けないとな。
しかし、申し訳ないけど、俺には冬川さんの言葉が一番伝わらないんだ。だから、遺憾と言われてもなぁと思ってしまう。
ただコレばかりは彼女の性格と言うか特性だから、解読班にがんばってもらうしかないのかな。……俺が解読出来るようになる日は来るのだろうか。
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景が彼女達を〝認識〟しました。いや、出来ましたが正しいのかな。
恐らく、出会った当初に自己紹介をされても〝認識〟する事は無かったでしょう。……そしてその場合、彼女達との関係はもっと事務的? もしくは亀裂がビシッと入っていたかもですね。
ですので、お互い距離をとって様子見をするという判断が功をなしたという事になりますかね。