どうする?
主力を無効化した事で、交渉はスムーズに進んだかな。
先ずは、残っている4人の内3人に無効化した奴等を担いで元居た場所へと戻って貰う。
そして解毒剤はと言うと、この場に一人残って貰い、ある程度時間が過ぎてからその解毒剤を持って行って貰う。当然だけど、抵抗が出来ないようにと、その一人にはロープでぐるぐる巻きにして行動を封じておいた。
ギャーギャーと毒で倒れながらも文句を言う糞教師とそのお供だったが、俺が「毒の回りが早くなるぞ?」と言うと、シーンとなるぐらい大人しくなった。
そして、そんな彼等を撃退した俺達は何をしているのかと言うと……。
「今後どうするかなんだけど」
「拠点の強化をするって話じゃなかったっけ?」
「……雨季対策」
「それ以外にも防衛力の強化が必要なのよね」
女子達と共に今後についてどうするかの対策を練っている。
実は、今リンクを使わず直接やり取りが出来ている。とは言え、まだまだ彼女達を直視出来る訳ではない。
俺は少し視線を逸らしながら、ほんの少し距離を取ってその会話を聞いているという状況。ただ、少し前はこの状況でもかなり苦しんでいたはずだった。
これは、魔法が凄いのだろうか? それとも……っと、今はその事は良いとして。
「……リンクでも話していた、最悪の手段を俺はとるべきだと思う」
最悪の手段。それは、この拠点を放棄する事。
リンクで会話をしていた時もだが、最悪の手段と言う事もあって本来は却下に近い案であったのは間違いない。とは言え、万が一の事を考えて頭の片隅にでもと、選択肢の一つとして挙げていただけなんだけどね。
「ただ、状況は変化したから……俺達に敵意を持つ相手に俺達の拠点が知られてしまった。となると、今後は雨季やモンスター以外にも、人に対してもっと警戒しないといけなくなる」
昼夜問わず、見張りを立て警戒しながらの生活になってしまう。そうなると、当然だけど今までの様なスピードで作業は出来なくなる。
そうなると、農業だの畜産だのと言っていられない。寧ろそんな事をしていれば、相手は隙を見て奪いに来る。
作った拠点を後生大事にし、警戒と防衛に労力を割り振るか。この拠点を捨て新天地を目指すか。
「もちろん。新天地を目指すと言う事にもデメリットはある」
何処に拠点を作るのか。水場はあるのか? 拠点となりえる場所が見つかるまで、一体どれだけ時間が掛かるのかなどなど。
勿論だけど、移動している最中に危険なモンスターに遭遇する可能性だってある。
ただ、そんなデメリットを取ってでも、拠点は放棄して移動した方が良いと思うんだ。……折角皆で頑張って作った場所だけど。
「相手にどれだけの人数が居るか分からない。だけどこっちは最大で5人……圧倒的に人数が足りない。もし夜襲でも仕掛けられでもしたら対処のしようがない」
俺の言葉に対して「うーん……」と唸りながら思案する女子達。
分からなくもない。この場所は雨季について問題はあるとしても、生活するにはかなりいい場所なんだ。
肉の確保は出来る、ココヤシなどの実もある、海が傍にある為に魚や塩には困らない。最近芋系も確保出来た……そして、今までは凶悪な敵がいなかった。
此処までの立地は他に在るだろうか? そう不安になるのは、当然だけど俺も感じている。
心の中で天秤がぐらぐらと、どちらが良いのか測りかねるのは当然なんだ。
「一つ、嬉しい情報。雨が上がった後に確認して貰った魚用のトラップだけど、中にボックスフィッシュがいた。実はこれで、アイテムボックスが作れるようになった」
「え? それって……」
「荷物をアイテムボックスに入れてしまえば動きやすくなるね」
「……輸送には困らない」
「サイズはソコソコ大きいけど、背負えるようにしたら問題無いと思う。ゲームとかでよくある宝箱型のチェストっぽいし」
素材やら食料はアイテムボックスに入れて行けば良い。それでも入りきらない分は、しっかりと持っていくモノを選択して鞄なりなんなりに入れて行けば問題無いと思う。
「それと、俺達に出来た時間もそう多くはないかな。あの毒は解毒剤を飲んでも数日は苦しむだろうけど、それでも稼げる日数は微妙……早くて3日後には動けるようになる。3日で拠点の防衛力を増やすのはちょっと大変だと思う」
3日で移動出来る距離も限られているかもしれないけど、森の中を突き進めば俺達が何処へ行ったか隠す事だって出来るハズだ。
海辺を渡ったら……足跡が残りそうだから、そっちを移動する事は出来ないけど。
ただ、森の中を移動する場合。問題はやっぱり強敵が出るかもしれないと言う事かな。
「今日一日で移動する準備をする。そして、移動する前に解毒剤を持たせた奴を解放する。で、解放した奴の姿が見えなくなったら、俺達も移動を開始が良いと思うんだ」
一応だけど、その解毒剤を持たせた奴には此方の会話が聞こえない様にしている。なので、俺がこの拠点を放棄すると言った話をしているなんて思ってもいないはずだ。
「とは言え、他に問題があるんだよな……」
「……どういう?」
「あー……そのなんだ。用意出来た簡易のテントが一つしかない」
みんな揃って「あっ」と声を出した。うん、そうなんだよね……テントの骨組みは竹で、テントのシートは錬金術で作った。シートの素材なんだけど、イノシシや兎とかの皮を錬金術で鞣して、一つに纏めて、大きな一枚のシートにしたんだよね。
万が一の事を考えて作ったテントだけど、まさか活躍の場が来るとは。
とは言え、そう……一つしかないんだ。一応中の空間は広いから、1人用とかそう言ったことはないけど。
問題は、俺と言う存在。それと、この場に居るのが男子1人と女子4人って事なんだよね。
俺と言う存在については言わずもがな。トラウマ持ちで、同じ空間に人がいたらどんどん俺のSAN値が削れていく。
彼女達に対して、今は随分とマシになったものの、ソコソコ狭い空間で一緒に居るとなると……まだまだ厳しい物があるかな。
次に男子1人に女子4人について。
こっちは俺よりも女子側の問題。さっきの奴等に対する反応を見る限り、彼女達は元居た拠点で男女トラブルに遭遇した。彼女達が被害にあったのか、そんな被害が合った状況を目視してしまったのかは分からないけど。
……恐らく後者な予感はしている。何せ、もし被害にあったのなら、先ほどみたいな態度をとる事は出来ないと思うから。
と、それは今は良い。
言ってしまえば、彼女達も心にダメージを負っている。それも男に対して。
如何にテントとしては広いと言えど、やはり狭い空間ではあるのだから、そんな空間に男子が一緒に居るとなると……彼女達も心が休まらないだろう。
「残念な事に、今からもう一つテントを用意するのは無理が有る……だからこそ、これもまた問題だと思う」
当然だけど、安全ではない場所を進むのだから、休むためにテントを張るとしても夜番は用意する必要がある。……俺が外で待機をずっとしていても良いのだけど、それだと俺が休む暇など無くなってしまう。
なので、夜番のサイクルもしっかりと考えなければいけないと言う事になる。
「ほかにも水の問題もあるな。今ある水筒だと……全員が節約しても二日で無くなってしまう。これが、拠点での生活をしているのであれば、毎日生産していればよかったけど……」
「移動するとなればそうも言っていられないと言う事ね。水場を探すのは大変なのかしら?」
「……川を見た事が無い」
今まで森の中を探索している時に、水場を発見した事は一度も無かった。
探索をした範囲が狭いと言えばそうかもしれないが、現状は水の確保が出来るか不安を覚えてしまう。
「念の為に今から生産するけどね」
「足らなくなったら海側に出るのは?」
「……見晴らしが良い」
「そうだよね。見晴らしが良いともし相手が私達を血眼になって探していたら見つかってしまうかも」
拠点を放棄したらしたで、かなり問題があるのも事実なんだ。
だけど、俺は拠点を捨てる方が良いと考えている。後は、女子達がどんな選択をするかなんだけど……なんか、会話の内容が既に放棄で決定している気がするのはなんでだろうね?
ブックマークや評価などなど、ありがとうございます!!(o*。_。)oペコッ
判断が難しい内容です。
ただ、今回の事で景のSAN値が少し回復している模様。女子達のおかげ! と言ったところなのでしょうか? もしくは、より面倒な相手が敵として出たから? ともあれ、顔を逸らしてではありますが、会話が出来るぐらいにはなったようです。