望まぬ邂逅
異変が起きたのは太陽の位置からして大体3時ぐらいになった時。いつもは意識していない場所……砂浜側からソレはやって来た。
ザシュザシュと水を含んだ砂を踏みながら移動してくる足音。ソレを確認出来た時はもう遅く、かなりの人数が移動して来ているのを目視。
グッと心臓の辺りが締め付けられる感覚に襲われる。とは言え、まだ何もされていないのだからと、深呼吸をして自分のリズムを整え、相手がどう出るかと警戒。それと一緒に、女子へ「接近者有り」とリンクで通達。
それにしても予想外過ぎる。
まさか、海側からの来訪者があるなんて……何せ砂浜は進んで行くと不可視の壁があった。だからこそ、警戒が薄れていたと言うのも有ったし、対策を後回しにしてしまっていた。
しかし、いつの間にかにその壁は解除されてしまっていたらしい。……これは、確認を怠った俺のミスだ。
実際には、もし雨さえ降っていなければ問題は無かった。何せ砂浜は地雷原だったのだから。殺傷能力こそ低いが、此処から先に進むのは危険だと警告にはなったはず。そしてその警告を受けたのなら、今すぐ進もうとは思わず引き返しもしたと思う。……俺達に時間の余裕が出来たハズだったんだ。
しかし現実は? 雨天により全ての地雷が機能不全となってしまった。だから、来訪者さんどうぞご自由にと言う状態だ。
そして、どうやらその来訪者と言うのは思った以上に最悪な存在だったらしい。
『確認したよ……あいつ等はダメ。絶対に』
『私達が此処に来た理由だよ……何とかしてスルー出来ないかな?』
女子からの連絡にはそう書かれていて、予想以上に最悪な状況らしい。
そう理解すると、更に心臓と頭に重い物を感じてしまう。……そんな時。
『景よ……アレは害悪なのです。徹底的に排除しましょう』
『ケッケッケ! 戦うのは厳しいモノが有るだろう? ここは何とかやり過ごして、時間を作るのが吉だ』
『またアナタは! しかし、そうですね。地雷も無くなってしまい武器として使える物は少ない……全てを排除するには少々厳しいモノがありますね』
『必要なのは時間だ。いいか? お前は錬金術師なんだ。時間さえあれば物が用意出来る』
『しかし、その為にも数人には犠牲になってもらう必要があるでしょう』
『馬鹿か? 今相手をやっちまえば、奴等も必死になって襲ってくるぞ?』
あぁ、こんなに頭が重い状況だというのに、天使と悪魔がキーキーと言い争っている。
でも……そうだよな? こんな苦しい思いをする状況。しかも奴等は、女子にとって最悪と言える相手みたいだ。……なら、やっちまった方が楽なのでは?
『おいおいまてまて! そう短絡的になるな! 不用意な排除は自分達の首を絞めるぞ!』
はっ!? 思わず思考が天使側へと傾いていた。
確かに、後々の事を考えると……ってか、何時もながら言っている事がおかしくないか? この天使と悪魔は。
ただ、そんな事を考えている間にも、相手はこちらの拠点を発見していたのか、真っ直ぐに俺達の方へと向かって来ていて……遂には、お互いしっかりと顔が認識できる距離に。
お陰で俺は、思わず片膝をついてしまう感じで地面へと崩れてしまった。
しかし、相手にとっては俺の状況など関係が無い。一方的に俺の事を見ながら……。
「おいおい、中々良い家をつくってるじゃねーか」
ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながらそう口を開いた男……あぁ、この人も問題を起こす人になってしまったのか。と落胆する。あぁ、余計に頭と吐き気が増して来た。
「……先生ですか」
「おう。お前たちの担任様だ。なぁ……物は相談だが、この家を俺達にも使わせてくれねーか? ちょっと今こっちも大変でな? 食べ物は無いわ、雨で病気になりそうだわ、糞野郎のせいで女子が減ってるわで、とっても悩んでいるんだ。シクシク、こんな先生を助けてくれやしねーか?」
先生が告げる。そして、後ろにいる男たちもニヤニヤとした笑みを浮かべながら俺の方を見ていた。
クワンクワンと視界が回り始める。気持ち悪い……。
そんな時、ヒュン! と一本の矢が先生の足元へと突き刺さった。
それに驚いたのか、先生たちは少し後ろへと下がりながら怒りに任せて叫んだ。あぁ、頭に響く。
「誰だ! こんな真似をしたのは!!」
「それ以上近づかないでください。私達にはアナタ方を受け入れるつもりなどありません」
「おいおい……俺はお前たちの担任だぞ。た・ん・に・ん。分かるか?」
「……糞が付く」
「……おい、糞とはなんだ? それでもお前は俺の生徒か! これはお仕置きが必要だなぁ?」
お仕置きと言う言葉を言いながら気持ちの悪い笑みを浮かべる先生。そして、その言葉を聞いて楽し気に会話をする背後のクラスメイトだったモノ達。
思わず口を手で押さえる。……あの目は、あの笑みは覚えがある。あぁ、確かに糞じゃないか。
俺の前に現れたら、徹底的に、その顔が崩れるまで殴りたいと思っていた奴等にそっくりな。……だというのに、頭痛と吐き気がして、体も思うように動かない。
声を聞けばわかる。彼女達も恐怖で心が支配されているはずだ。だというのに……それでもと気丈に振舞っているじゃないか。
「うぷっ……」
なのに、吐き気が収まらない。
「……なぁ? 物は相談だが、そこの家と女どもを譲ってくれたら、お前には手を出さないでやるぞ?」
俺が弱っている様子を見て、この糞教師はターゲットを此方へ絞ったらしい。
相手との距離はある。それに、何回か矢が地面へと突き刺さり奴等の動きを抑制しているので、直ぐに何かが出来るとは思えない。
でも、言葉なら届く。なので、相手は俺の精神を揺さぶりに来た。
「〝ヒール〟」
反応しない俺に対して、女子からヒールが飛んできた。少し楽になる。
「〝ストーンウォール〟」
次の瞬間、俺の前には小さな石達がズズズと音を立てつつ地面から隆起し、俺と糞教師たちとの間に壁を作った。
「〝リカバー〟……大丈夫。大丈夫だからね。今なら距離をとれるから」
二度目の回復魔法……恐らく、精神に作用するものを掛けたのかな。
そして……あぁ、なんでその言葉を知っているのだろう? でも、お陰で、随分と気分が楽に……寧ろ、すっきりとした頭で思考が出来るようになって来た。
「……逃げても意味がない。だから、一旦ここは奴等を追い返す」
「そんな事できるの?」
「あぁ、秘策ありだ」
実験で作った一つのアイテム。だけどそれは結構凶悪なモノで取扱注意と考えていた。寧ろ、倉庫に永眠させる事も視野にいれていた代物。
とは言え、この場であれば使っても問題は無いし、念のためにと間違って自分達に使っても問題が無いようにと対策も用意していた。
それをここで使う。
背中に隠してある竹筒を手にし、俺はその竹筒を相手に向かって投擲した。
「筒を矢で射貫いてくれ!」
そう叫ぶと、何処から狙っているのか分からなかったが、飛んできた矢はしっかりとその竹筒を射貫き……竹筒の中に有った物が周囲へとまき散らされた。
「な、なんだ!?」
奴等は叫ぶがもう遅い。
中にあった物は一気に周囲へと拡散され、更に球体状に形を形成しながら空中へと浮いた。
「……シャボン玉?」
「おいおい……こんなもんで如何にかしようって? 馬鹿にしているのか」
やれやれと言わんばかりの糞野郎たち。だけどそのシャボン玉は錬金術による特別製だ。
「クク……それ、触れない方が良いですよ? まぁ、触れないようにしたら、俺達の方へは来ることが出来ませんけど」
結構な広範囲で広がったシャボン玉。これは全て、猛毒性によって出来たシャボン玉だ。
触れたら即死と言う事は無いが……数日間苦しみ抜いてしまう。そして、運が悪かったら死ぬんじゃないかな。そんな物なので、一応解毒薬は準備してある。
だけど……彼等は馬鹿なのかな? 馬鹿なんだろうな。
俺の忠告はただの脅しと考えたのか彼等のリーダーである先生は、何の警戒も無しにシャボン玉を割るかのように腕を振るいながら前へと進んで来た。
そして、一気に毒が先生の体内に侵入し……ガクリと膝を地面へ着いてしまう。
「だから言わんこっちゃない。俺は警告しましたよね? こっちに来るなって」
「……貴様……何を……した……」
「さて? でも、まだ人が少し多いですね。と言う事で〝ウインド〟」
風を起こしてシャボン玉を移動させる。
先生に一番近かった二人に対して、シャボン玉が当たるように風を送り付けた。
「ぎゃぁぁぁぁ!」「やめ、やめろおおおおお!」
叫ぶがもう遅い。彼等もまたシャボン玉に触れてしまい、地面へと崩れ落ちてしまう。
「さて、これで動けないのが3人。残りは……良い感じで4人かな。さて、そしたら交渉をしようか?」
「な、何を……」
青ざめて崩れ落ちる先生と他2名をみて、もはやどうしようもないと悟ったのか。彼等は震えながらも俺の話に耳を傾ける事にしたみたい。
はぁ……良かった。これ、正直相手が戦闘職で無理やり押し切られていたら、間違いなくこっちも被害を受けていたから。
最初に行動を起こした先生がダウンして、その後直ぐに動きそうな相手を毒まみれにしておいて良かった。
まぁ、相手を殺すなんて気は現状ないから、後は交渉してから解毒剤を渡せば良いかな。……とりあえずそれで、悪魔の言う時間稼ぎは出来るだろうしね。
ブックマークに評価、いつもありがとうございますm(__)mペコーヌ
と言う事で! 初邂逅は勝ち星です。
この後も有るのか? と問われたら、今はわかりませんと。どうなるかは彼等次第。
魔法について。
ヒール=癒す。なので怪我や体調を癒すもの。
リカバー=修復や状態を元に戻す。なので主に精神異常(SAN値など)を回復するのに使う感じ。
回復魔法についての設定はこんな感じです。
ストーンウォール。
これについてですが、景は使えません。何故ならジョブとして一つ上のランクによる魔法のため。土術師である桔梗だからこそ、今の状態でも使えたという事になります。




