急いで作る必要があるモノとノイズ
島では開発と同時進行に、結婚と出産の準備を行っている。
今回のおめでたラッシュは全員にとって予定外だったからね。だから大急ぎで施設の建設や設備の開発をしている。
ただ、島には医者らしい医者は居ない。産婦人科ともなればなおさらだ。なので回復魔法を使える人と本土で漁ってきてもらった情報を使い、無事に出産が出来る場所を作るといった感じかな。
後、錬金術師や薬師は協力して乳幼児でも使えるポーションの開発中。普通のポーションでは、乳幼児には強すぎるからね……それこそ魔力過多でショック症状を起こしかねないから。
そんなこんなで、これまでとは全く違った戦いに皆へとへとだ。そして、そんな状態だからこそ厄介事というのは余計に煩わしく聞こえる。それがたとえ、直接島にアクションをしてこれないような話だとしても。
「鈴木さんは島の現状を理解してますよね? 今、他の事に手を回すのは不可能ですよ。ましてや島外用の輸出強化とか……馬鹿ですか?」
「俺もそう思うんだがな。予想以上に本土側が騒いでいるんだと。そこで少しでも島で作ったものを流通させれば……とお国は考えているらしい。あと、今回は〝おみやげ〟ではなく〝売買〟だそうだ」
モンスターしか居ない島なんて有っても意味がない。それなら島を破壊してしまったほうが良いのでは? なんて言い出す人も出てきているのだとか。
多分だけどその人達って、例の〝足を引っ張ろうとしている人達〟の一味だよね。本当に、馬鹿みたいな思考や行動を簡単に取れるのはある意味才能なのではないだろうか。
ともあれ、そもそもの話。島に攻撃なんて出来ないから意味のない論争なんだけどね? でも、こういったノイズはあながち馬鹿には出来ない。
そもそも、何とも思っていない人や、やっている事が正しいと思っている人達って基本的に口を開かないからね。だからノイズと言うのはとてもよく響く。そして、その響く声に流されてしまう人も多数居るわけで。
「ただ、結局はそっちで何とかしてって話なんだけどね。こんな事でぎゃあぎゃあ言っているようじゃ、異世界と融合した後はどうするんだよって話だし」
「騒いでいる奴らは異世界がどうのとかってのは知らないからな。とは言え、モンスターが居る島が現れたって時点で色々と察しろという話なんだが……」
察しが悪いというか、その場しのぎの事しか考えてないんだろうなぁ。あ、それすらも考えてないかも? どれだけ自分達の私腹を肥やす事が出来るかとか、そんな事しか考えてなかったりして。
それにしてもだ。離島を一般人に開放しろと言ったり、破壊しろと言ったり……コロコロと主張が変わりすぎだろう。
「自分達の物にならないのなら破壊してしまえ! とか、子供ですかね?」
「アダルトチルドレンというやつだろうな。おもちゃ売り場で大の字に倒れてジタバタしているのと大差が無い」
ただ、やっているのが大人な分、より性質が悪いというかなんというか。周りへの被害が馬鹿にならないんだよなぁ。扇動をしている奴らは、何気に権力や資金を持っていたりする奴も居るし。
もう、さっさと確保して隔離でもしてしまえば良いのにとすら思えてくる。……こちとら、島内の事でかなり忙しいから、外の事まで気にしている余裕は殆どないんだよ。
と言うのも、この産婦人科を作る計画とか結婚式の事とかだけど、ついさっき慌ててどうするんだ!? って話になったからね。
コレに関しては、島民全員が気が付かなかったと言うか……レベリングの事や、突然のおめでた報告の事で頭がパンクしていたから仕方がないって事で。うん、冷静になった所で漸く思い出したって感じかな。
後、回復魔法の存在が有るってのも大きいよね。何せ病院と言うものが殆ど必要無い訳だし。……更には、俺達錬金術師や薬師さん達のポーションもあるからってのも付け加えておく。
ともあれ、そんな魔法やポーションを頼れるのはある程度育った子以上だからだ。魔力過多と言うのは大人よりも子供の方が起きやすい。これは体のサイズ的に当然といえば当然の事。
後、子供は吸収率が違うからね。それこそスポンジが水を吸い込むかのようなレベルで、成長の為にと色々と取り込んでいく。魔力もまた同じ様に次々と吸い込んでしまう。
許容量が少ないのに、吸収率が凄まじいとか……注意して見ていればオッケーなんて話じゃない。しっかりとした施設を作り、常時観察しておく必要がある。
何せ、島での出産は初めての事だからね。何が起こるか分からない。なので万全を期しておかないと。
「だと言うのに、外のノイズがウザすぎる」
「だな。でも、何が起きているのかは知る必要があるだろう? とりあえず畠山氏には〝無理が有る〟とだけは伝えてあるが……」
「畠山さんも頭が痛いだろうなぁ。上からは島のメリットを示せと言われ、島側からは忙しすぎてソレどころじゃないと……板挟み過ぎるね」
「実に損な役回りというやつだな。ま、そういったモノも含めての肩書なんだがな」
重要なポストに就いているってのは、それだけ厄介事も増えるって事だからね。なるべく倒れる事無く頑張って貰いたいね。
「ま、頭痛薬や胃薬のポーションはかなり量産してあるから。後で適当に鈴木さんが持っていって上げてよ」
「俺の分も欲しいんだが? 俺も畠山氏と君達による板挟み状態で胃が……」
胃の辺りをゆっくりと擦る鈴木さん。
これは決してポーズなどではないだろうね。本気で胃がキリキリとしているのだろう。なので、鈴木さん用にと特別に調合したお薬を出しておくとする。
「これ、他の人に飲ませたらダメなやつですから。容量と用法をしっかりと守って全部飲みきって下さい」
「了解。っと、畠山氏用の薬を作って貰うのは可能か? 今まで渡していたのって、ぶっちゃけ市販薬みたいなポーションだよな」
「専用の薬をとなると、本人の毛や血が必要になりますよ」
後、出来れば姫ちゃんに鑑定して貰いたい。彼女の鑑定結果が有れば、更に性能を上げる事が可能だからね。
「本人に負担が無く、更に効いて欲しい場所に対しては高性能と言える能力を発揮するポーションですからね。それだけ本人の体に合ったモノとなると……」
「準備やデータが大切って事か」
鈴木さんの……と言うか、島民のデータは嫌ってほど大量に確保してあるからね。なのでどれだけ強力なポーションを作っても、本人には問題なく使える代物。……ただ、他人が飲んだらどうなるかは不明。
「気が狂うとか、余計胃痛を酷くするなんて事も有ると言えば有るかな」
「ポーションはポーションでも毒ポーションじゃねーか」
薬と毒は表裏一体だから。だからこそ、容量と用法を守って下さいって事で。
「そんな訳で、今直ぐに専用のポーションをってのは無理です。てかそもそも、産婦人科や乳幼児用のポーションの開発で忙しいんですって」
「だったな。畠山氏には今しばらく我慢して貰うとするか」
さてさて、休憩時間だというのに鈴木さんと話し込んでしまった。この後はネズミを使って乳幼児用ポーションの実験とかが有るってのにね。
一応、鑑定では問題無いって出ているけどさ……やっぱり直接大丈夫なのかを目で確認したい。
なぜかと言えば、何かが原因で鑑定とは違った結果になる可能性もあるしね。ほら、食い合わせとかそういった感じのパターンで。なのでこういった実験は必要なんだよね。
ブックマークに評価ありがとうございます!((*_ _))ペコリ
因みに、今回の鈴木さんはただのメッセンジャーです。




