選択するべきは
昼まではしっかりと装備などの準備をしたので、昼からは行動を開始する事とした。
魚用のトラップは沈めたし、ウサギの通り道にトラップも仕掛けたので、後は結果待ちといった状態。なので食料調達の問題は植物の採取を行うべきだろうが……問題は毒性があるかどうかが分からないことだ。
ベリー系にも見た目が似ていて毒性を持っている物もあるし、キノコもまた判断するのが難しい。
知識が無いのなら余計に手を出すべきでは無い。だがしかし食べ物の収集は必要なわけで、とは言え食べる事が出来るモノを俺が判断出来るのか? と問われれば難しい話。
ならば食べられる物と言う事で、採取できそうなのがタケノコやらココナッツと言う事になる。
なら海産物は? となると、貝もまた……大丈夫なのだろうか? となる。シジミや浅利でも獲る事が出来れば良いのだけど、浜辺を掘れば出て来るだろうか。
いや、貝も毒性があるパターンもあるからな。安全に潮干狩りが出来る場所なんて、それが行われる前に調査が入っているからこそ出来る訳で……こんな場所でそんな調査が出来ている訳も無く、ぶっちゃけ食べ物の殆どが現状ギャンブルでは無いか? と思えてしまう。
「サツマイモとかジャガイモでもあればなぁ……」
ジャガイモなら毒を排除する方法が分かっているからな。まだマシと言えるレベル。サツマイモは石焼などにしてホクホクと頂きたい。
だがしかし、この地にそんな芋があるのかどうか……探しに行くにも木々の隙間を縫って探索を行わねばならない。そしてそれは、どう考えてもリスクが高い。
「とりあえず松明でもあればまだマシなんだけどな」
火を使う事で大抵の危険を排除する。……下手をしたら火事になりかねない。だけど、その分メリットも多く、その一番と言えるものが動物は火に恐怖を覚えるモノだからな。……中にはあの灯りは何ぞや? と、興味本位で近寄って来るモノも居るらしいけど。
ついでと言う訳では無いが虫よけになる草、ヨモギなどだが、それを持っておけば松明の火で燃やす事も出来る。
それによって、ある程度保険にもなるはず。お守り程度ではあると思うが。
しかし、そんな松明を作るには全く素材が足らない。
棒はあるけど、布がないんだよなぁ……一応、枯れ草を用意する事は出来るだろうし、松があるから松脂も手に入るだろうけど、布が無いから巻き付ける事が出来ない。
現状だと、ただの薪の先端などに松脂などを塗ったくって、其処に火をつけるぐらいしか出来ないんだよな。
あ! 武器に松脂を塗って燃える武器を……いやいや、石斧ではそれをやったらまずいか。やるなら竹槍かな。燃える槍と言うか燃える長い竿になるけど、これはこれで使える。
「っと、まぁまだお菓子やらココナッツもあるから、生活水準を上げる方向で行くか?」
とは言え、皿や箸は竹で代用が出来る。ヤカンにもなるから、竹のお陰で随分と楽が出来てはいる。となると、食では無く屋根や壁があるホームを作るか? いやいや、それどんな労力が必要になるよ……こんな、学生かつ腕力に自信がある訳でも無い人間が建築を行うとか。
とは言え、樵もどきな仕事はせねばならないだろうか? この石斧でか? 無茶が過ぎるな。もう少しまともな斧であれば別だが、こんな即製斧でどうにか出来るような事では無い。
ただちょっとだけ気になったので、少しこの斧で木を殴ってみる事にした。
ガン! と、木など伐る事が出来ない様な音が響いた。これはどう見ても、軽く木の表皮を削っただけで終わってしまった。このダメージ量を見る限り、一体どれだけこの斧で叩けば良いのだろうな。
兎に角、どう考えても腕力不足か道具の質が不足している。そう判断するには一撃で十分だと言える結果だ。
そんな訳で、木材はおりやすい枝やら朽ちた木を利用するしかないだろうな。太さも質も足らないから壁に等使えないけど。
「やばいなぁ……これは存外に出来る事が少ないぞ? 探索しろって事だろうか」
直ぐに救助が来るのであれば、此処でじっと待っているのが吉だろう。
しかし、スマホの電波は届いていない。というよりも、この地に来た状況を考えれば、救助など当てにする方が間違っている。
生き残る為には何等かの行動を起こす事が大切だ。そうである以上、やはり探索に出る必要が出て来る。
探索に出てどうするんだ? って言われそうだけど、此処よりも安全と言える場所や雨風が凌げる洞窟などが有るかもしれないからな。
食料だって、もしかしたら良く知る食べる事の出来るモノが有るかもしれない訳だし。
「とは言え、怖い物は怖いからな……この森の中を行くとか」
自然の脅威に立ち向かう。一体どれだけの人間が、こんな装備など無い状態かつ全く知らぬ土地で勇気を振り絞れるだろうか。
生死でも掛かって無い限り出来ないだろう。いや、生死が掛かっていたとしても「俺は部屋に籠るぞ!」なんて、死亡フラグを立てるような者だって居る訳で。
今この状態で、森を前にして足が竦んでいたとしても、それはごく自然の事のハズだ。うん、絶対にこれは誰しも起こりえる当然の事だから、何一つ恥ずかしいなんて事は無い。