ただ搭乗している訳ではないのよね~桔梗視点~
全く……なんでこんなにも潜水艦の中を快適に過ごせるようにしているのかしら。これでは、下手をしたら潜水艦の中にずっと居たいと思ってしまう程じゃないかしら。
そんな疑問を覚えながらも、私は操舵室にある椅子に座りながらモニター越しに戦闘を眺めている。
モニターの中では、あちらこちらで魚介類型のモンスターが錬金人魚達と戦闘を繰り広げていて、潜水艦からはそんな錬金人魚達をFFしないようにしながら援護射撃をしていた。
「囮の右側なのだけど、人魚達の層が薄いわね。このままだと其処から突破されるわ」
「了解。アル、魚雷の3番と4番を」
「了解しました」
私達の役割は、こうしてモニターをチェックしながらモンスター達が突破して来そうな場所を探す事。
モニターには種類があって、潜水艦の周辺をチェック出来るモノ。錬金人魚達の目から送られてくる情報があった。なので、それら全てをチェックする事が出来れば、ある意味では神様視点というモノで戦場を見る事が出来る。
なのだけども、残念ながら人である以上はチェック出来る数に限りが有る。だから私達は見るモニターを分けているのだけど……それでもやはりチェックするべき場所は多い。これでは見逃しが出来ても可笑しくない。
「本当なら、拠点にあるモニタールームみたいに監視用の錬金人形を用意するつもりだったんだけどね……残念ながら素材と時間が足らなかったんだ。一応アルが居るからある程度は大丈夫なんだけど」
「艦の全てのコントロールを行っていますから、こうして監視して頂けると随分と楽ではあります」
自分達の目とアルくんが居るからって事で、潜水艦のモニターに関しては後回しにしてしまったらしい。でもソレは仕方のない判断よね。彼にはまだまだ沢山の造るべきものが有るもの。
それに、この潜水艦に使った素材だって馬鹿に出来ないのよね。こんな大きな潜水艦を造ったんだもの、当然と言えば当然なのだけど……ただ、その為にこの艦の監視モニターは手動になってしまったと言っても良いかもしれないわね。
「それに、錬金人魚達の数も多いのよね……モニターを切り替えるのも大変だわ」
「あの幾つか有る部屋を監視するモニターを切り替えつつ、間違い探しをやるゲームみたいじゃん」
「そんなゲームが有ったの? なんかとっても大変そうなんだけど」
「……あ、エリカ見落とし。艦後方にイカ」
雪に指摘されて「え!? ほ、本当だ……」と驚くエリカ。
正直、最初に見落としをするのは雪だと思っていたのだけど、まさかその雪が見落としを指摘するだなんて。
「……舐めないで。ボクには沢山の〝目〟が有る」
そう言った雪はドヤ顔をしながら、召喚した精霊達にモニターをチェックさせていた。……な、なるほど。そんな使い方をしていたのね。それなら確かに見落としをする可能性も減るというものだわ。
「しっかし、潜水艦の中がいくら快適だとしてもさぁ。このエンドレスな戦闘じゃ、その快適さを味わう事も出来ないじゃんか!」
「まぁまぁ……今は潜入した錬金人形達の報告が上がるまで、こうして迎撃するしかないよ」
「……ん。ボク達のやるべき事は船とサメを守ること。……今度はサメが狙われてる」
報告が上がる度に、魚雷か機雷が潜水艦から発射される。そして、報告が有った場所に居るモンスターを的確に撃墜していく。
でもこれは、七海の言い分通りと言うべきかしら? 本当に、直接戦闘とは違った疲労をどんどんと蓄積していっている気分ね。魔力は消費していないし、体力だって直接戦闘をするのに比べたらといった感じでは有るのだけど、やはり精神的な疲労が比じゃないわ。
見落としたらいけない。そんな気持ちでモニターを凝視するものだから、目にもかなりのダメージが入っていく。そして、その目のダメージがまた脳を酷使している訳で。
「慣れないからなのか、思った以上に消耗していくわね」
「……ボクは平気」
「あぁ! そっかぁ。雪は精霊の視界を共有したりしているから慣れているって感じなのかな」
「……ん」
なるほど。雪は普段から精霊の視覚……勿論、視覚以外も共有する事で沢山の情報を収集していたわね。であれば、幾つかのモニターを眺めるぐらいなら全く苦にもならないのだろう。
「それにしても、なんで水中だってのにこんなにも視界が開けてるんだ? もっと暗いイメージなんだけどなぁ」
「そういえばそうだよね。でも別にライトとかで照らしているって訳じゃないみたいだけど……」
「あー……それは簡単な話だよ。これ、人間の視覚みたいに光をベースとしている訳じゃないんだ。どちらかというと魔力で見る視界を映し出しているって感じかなぁ」
「……それにしては、人が見ているモノみたいに映ってる」
どんな原理なのかしらね。ともあれ、魔力を取り込んで映像にしているだなんてとても不思議ね。
「ぶっちゃけ、原理とかは分かってない。ただ、素材に色々試したら出来たって感じ。アレかな? 暗闇で自由に動き回ることが出来るモンスターの目と同じって感じかなぁ。材料にはその手のモンスターの目を使ってるし」
わ、割りと強引な方法だったのね。なんだかエラーが起きないか不安ではあるのだけど、現にこうして使えているのだし材料が材料だもの、きっと大丈夫よね。
「錬金人形達の目は全てソレで作ってあるから、実績自体は十分だよ」
「そ、そうなのね」
「はい。自分のこのアイセンサーも同じ物を使ってます」
「そっかぁ。アル君達にも使われているのなら問題が無さそうだね!」
何時の間にかに錬金人形達も細かいパワーアップが施されているようね。たしか最初に作った錬金人形には、そんな目ではなかったと思うのだけど。
ともあれ、全く問題が無いのであれば私が気にするような事ではないわね。えぇ、此処は技術職である彼を信じましょう。
「あ、錬金人魚達が1匹のマグロ? を捕まえてるよ」
「あっちはカツオっぽいのを確保したみたいだな。後はあの魚達を姫ちゃんに鑑定して貰えば、食べても大丈夫か判断出来るじゃん」
「……一応、俺も鑑定スキルは持っているんだけどね」
「……スキルレベルが違うから信用度が違う」
そうね。もし生食をするのであれば、やはりそこは〝女王〟から〝姫〟へとジョブチェンジした鏡花さんに見て貰うべきよね。
彼女も随分とご老輩の方々から受けが良いのよね。だからこそ〝姫ちゃん〟なんて呼ばれるようになってしまったのだけど。
ともあれ、そんな彼女に魚を鑑定して貰い何の問題もないとお墨付きが出れば、魚達は今後も食料として狙うのも有りよね。
「……ん。生食もだけど炙りも可」
「お寿司を食べたくなってくる話ね……っと、景くん。艦の左舷からモンスター」
「了解! アル、側面の武装で迎撃!」
「フィンブレード展開します」
てっきり前方の魚雷と後方の機雷しか武装は積んでいないと思ったわ。でもそうね、それだと両側面はがら空きになってしまうものね。そりゃ、彼がソレを放置する訳がないわ。
それにしても〝フィンブレード〟って……潜水艦にヒレを生やしてしまうとか、それはどうなのかしら。それもブレードって。
「そこはほら、海中を進む訳だしね。それならあちこちにヒレを用意しても問題ないでしょ」
「もしかして背ビレとかもあるのかしら?」
「当然ブレードとして展開出来るよ」
尾びれまでありそうね。あ、でも其処にヒレがあるとちょっと構造上無理があるかしら? だって後ろと言えばスクリューが有る場所だもの。
「……最初からX字になっている」
「そういえば、アレもヒレと言えばヒレかしら」
もしかして、それらもブレードとか言わないわよね。あぁでも、スクリューが既にブレードみたいな物かしら。
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