錬金人形という名の特殊部隊
人魚達が動かぬ船にこっそりと近づき、ゆっくりと仕込みをしていく。
気が付かれてしまえば、船は一気に浮上するだろう。だから、先ずはその船を動けないようにする必要があった。
「それで人魚達はチームを組んで巨大な網を張っているんだ」
「網も虹魔鉄製じゃんか……随分とコストが掛かる方法だなぁ」
何が有るか分からないからね。だから、現状だと網が破られない一番良い材料を使わせてもらった。そしてそんな網が、船を上からゆっくりと絡め取るような動きを見せ始めた。
「網班の人魚達がゆっくりと海底に向かって動き始めたから、後は時間の問題かな」
「周囲にもワイヤーが付いた銛を持っている子もいるよね」
「……漁?」
船を捕る為の漁ってのもなんか変な感じだけど……ま、ソレに近いだろうか。
本来ならクラーケンとかあの巨大サメ相手にやる方法なんだけどね。今回はソレが応用出来る相手だったって事で。
もしこの船が常に海上に存在していたのなら、また話は別だったけどね。海中に居たのが運の尽きというやつだ。
「問題があるとしたら、あの網が1つしか無いって事と……やっぱり来たか」
時間と素材が無かったから、網は1つしか用意出来なかった。なので、この後やって来るだろう相手には網が使えないんだ。
そして、そのやって来る……いや、既にやって来ている相手と言うのが……。
「あぁ! 船と一緒に並走していたっていうサメ!! って、アレってメガシャークじゃんか!!」
「並走していたってのは、もしかしてサメが船を仲間とかそんな感じに思ってたって事なの!?」
多分そうなんだろうなぁ。
サイズ的にいえば、船の方が大きいんだけどね。でもモンスターなサメだとすると、もしかしたら船ほどまでに成長する可能性だってあるわけで……だからひょっとしたらあのサメは、船の事を親兄弟とでも思っていた可能性だってなきにしもあらず。
そして今、そんな船が襲撃されている訳で……サメからしてみれば、何してくれてんだ!! と言いたくなる話だろう。だからこそ、こうして急いで船を助けに来た。
「もしかしたら親兄弟じゃなくて親友とか恋人って思っていたかもしれないけどね」
「何か昔テレビで見たことが有るような気がするわ……ぬいぐるみだったと思うのだけど、ソレに恋しちゃった犬か猫の話。こう、甲斐甲斐しくぬいぐるみに世話をしようとする仕草を見せてたのよね」
「む……報われなさすぎるじゃん」
「……可愛いは正義」
傍から見れば可愛いよなぁ。もふもふとした犬とか猫が丸っこいぬいぐるみを可愛がる姿。うん、でもそれは絶対に報われない恋愛だ。
ただただ、一方的に奉仕した気分になっているだけの行為……いったいその犬か猫か分からないけど、彼の過去には何があったんだろうね。
ともあれ、このサメもそんな報われない情を船に感じている。と言われたら、それはYESとは言い難い。
それは何故かって? そんなの、船もモンスターだったら種族が違うだけって話になるよね。無機質な相手に対して一方的に情を与えているだけではない。そう、例えただのゴーレムや人形でも、愛情を持って接していけば何時かは魂が宿るものだから。
「実例として、アル達が居るからね」
「恐縮です」
「そこは普通に〝ありがとう〟で良いんじゃないかなぁ」
今では1つのコアになってしまっているけど、元々は彼女達と居た錬金人形達のコアも今のアルには含まれている。
そしてそんなコア達は、彼女達の愛情をたっぷりと受けて色々と学んできた。……うん、お陰で余計なワードもたっぷりと覚えたみたいだけどね。それもまた一興というやつで。
そして何時の間にかに、アル達には自我が芽生えていた。その流れは、まるで赤子が次々と色々なモノを吸収して、成長していく感じで学び自分というモノを形成していったんだよね。
であれば! 船のゴーレムとか幽霊船であれば、決して報われない相手……という話では無い。
「そして、もし俺達がサメを傷つけようとすれば……下手をしたら覚醒するかもなぁ」
「でもそれって、中に人が居ないモンスターだったらってパターンだよね」
「特に海の中のモンスターだからね。島で管理された存在じゃないモンスターも居て、あのサメも恐らくそのタイプだから。で、船も同じように異世界から渡ってきた時に巻き込まれた口か、それとも後から追加されたか……ともあれ、島のシステムでは登録されていない存在なのは間違いない」
なので、下手に傷をつけたらどうなるか……はぁ。本当に厄介な話だよ。
「網が用意出来なかったのが悔やまれるな。無傷で捕らえるのは無理だろうなぁ」
下手に刺激して暴れられないようにする為にも、どちらも無傷で捕らえたいんだけどね。ま、それは厳しいから、まだ何とかなるかも? って方法で行くとしよう。
「虹魔鉄製の網はなくても魔鉄製の網はあるし、それでサメの突進を防げるか試すのが良いかな。後はワイヤーでぐるぐる巻にして、人魚部隊に引っ張って行ってもらうとか」
「……ボク達は?」
「現状は人魚部隊の指揮官。全てのモニターをチェックして即対応が出来るようにするって感じかな。何せこの海中には他にもモンスターが居るしね」
「見る場所が多すぎるじゃん……」
何のために皆をこの潜水艦に乗せたと思っているんだ。それは、監視する目を増やす為に決まってるじゃないか。
「そもそも、潜水艦に乗る俺達が直接戦闘に参加するのは無理だからね。戦闘はやったとしても魚雷を撃ったり、機雷をバラ撒いたり、後は〝もりづつ〟を撃ち込んだりするぐらいしか出来ないから」
「ちょっと殺傷能力が高すぎるわね」
「そういう事。だから万が一の事が起こらない限り、この潜水艦が戦闘をする事は無いよ」
人魚部隊が壊滅的なダメージを受けるとかね。まぁでも、そうなる前に介入はするつもりだ。だからこそ、こうして潜水艦に搭乗して出撃した訳だしね。
さて、船を覆う網は……と、良い感じに船体を全て覆ったようだ。そして、船自体も現状は暴れる様子が無い。
そしてサメはと言うと、どうやら魔鉄製の網に突っ込んだみたい。ただそっちは網の強度に難ありって感じだなぁ。サメが暴れる度に、嫌な感じで軋んでいるみたい。網の一部には何やら小さい亀裂が入り始めてもいるみたいだし。
「このまま大人しい状態なら、可変式の人魚部隊を船内に突撃させても良いかもしれないな」
「可変式って……もしかして前のアル達みたいに、人型やケンタウロス型とかにパーツをチェンジ出来る感じなの?」
「そうそう。そんな特殊人形部隊もこっそりと用意しておいたんだよね」
ただ、換装型は強度とかの問題もあるからか、純粋な人魚型とかケンタウロス型に比べるとその形態でのスペックは落ちるんだよね。
でも何処にでも行けるし、どんな状況でも対応出来るというのは強みだ。決して器用貧乏などでは無い。
「強襲からのスニーキングミッションとかも可能だからね。特に今回みたいな状況には持って来いの存在なんだよね」
「確かに人魚タイプオンリーでは船内への潜入は出来ないわね」
さてさて、そしたら錬金人形達は船内からいったいどんな情報を手に入れてくれるだろうか。
とりあえず。この船がただの幽霊船とかゴーレム船だというのなら、爆発物でも仕掛けて脱出してもらおうかな。
そして脱出後には一気に爆破してしまうのも有りだろう。……あ、でも何か貴重そうな物がアレば回収してきて貰おう。異世界との交渉材料になりそうだしね。
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