女子は見てしまった~女子生徒B(七海)視点~
私達は日課の採取とかを済ませた後、その採取物をしっかりとしまいこんだ。
そして、一日の仕事の終了だ! と、出来上がった女子の部屋でまったりとしていた。
「さて! エリカ……ヒーラーとしてのお仕事をお願いしようかな?」
「はいはい……えっと〝ヒール〟っと、これで良いかな」
「うむーくるしゅうない」
「一体どこのお代官様よ」
「……七海、おばさん臭い」
「ガーン!? 雪、あんたなんて事を!! 今日は中腰で芋を掘ったりして結構ダメージだったんだから!!」
「七海が進んでやった事でしょう? 私は釣りでまったりと過ごさせてもらったわよ」
「桔梗……釣りは蛇に注意しないと」
こんな感じで会話をしているけど、決して険悪な雰囲気になる訳じゃない。
この程度はノリと言うやつかな。雪だって本気で言っている訳じゃないしね……だよね?
「でも中腰での作業って辛いよね。私も芋堀りはつらかったかなぁ……その度ヒールを使ってたけどね」
「……ヒーラーずるい」
「あはは……でも、自分からの戦闘が出来ないからレベルアップが大変だよ」
ウサギを自分で狩らないといけない。あ、今はイノシシもだけど、ヒーラーだと決定力不足というか攻撃スキルが無いから、ウサギはまだ良かったけどイノシシともなると倒すのが大変だ。
罠にかかったイノシシを相手にするからマシで、エリカは遠くから弓を使いペチペチと小さいダメージを与えて行く事で何とかやっているって感じ。これ、もっと大変な敵が出てきたらどうするんだろう。
「……パーティーシステム」
「そう言えば、今の所そういったシステムが無いわね。でも、ヒーラーと言うジョブが有ると言う事を考えると、もしかしたら何処かにパーティーが組めるシステムがあるのかもしれないわよ」
雪の言葉に桔梗が続いた。
確かに、これだけ色々とゲームっぽさが有るのに、パーティー編成が無いと言うのもおかしな話だよね。うーん、もしかして私達は何かを見落としている?
「パーティーを編成出来たら、経験値の分配も可能になるのかな」
「絶対そうだよ! だってこのままだとエリカだけレベルが低いって事になっちゃう」
今はまだ動物が弱いからこそヒーラーのエリカでもなんとかなっている。けど、この先も同じように出来るとは限らない。と言うより、絶対にヒーラーだと倒せない敵が出て来るよね。
そんなの、黙って放置なんてできない! だって、エリカは私達の事を考えて〝ヒーラー〟ってジョブを選んでくれたんだよ? それなら、私達もこの問題は何とかフォローしなきゃいけない。
「……一度スマホをチェックする」
「それならステータスアプリかな?」
「私はマップアプリを確認するわよ。もしかしたら、石碑みたいな物がどこかに有るかもしれないわ」
「もしかしたらリンクかも。私はそっちをチェックするね」
「……ボクはアプリ以外を見る」
こうして、私達はハンモックに寝ころびながらスマホをチェック開始……しようと思ったその時に、大きな物音が外から響いて来て慌てて外へと飛び出した。
「なに!? 何かあったの!!」
「急に外へ出たら危険よ! 化物でも居たらどうするのよ!!」
「……外は大丈夫。……何か来た時の音は何もなかった」
「それなら何の音? えっと、外には何も無いよね」
間違いなく何かが落ちたような音。ドサと言うかズサというか……ただ、ヤシの実が落ちたとしてもこんな音にはならない。だから、間違いなく大きな何かなんだけど。
「木から猿が落ちて来たとかそんな感じもないね……となると、何もなかった?」
そう四人で顔を合わせながら疑問に思っていると、なにやら呻く様な声が……。
「え、ちょっと……ホラー展開?」
「ま、魔法が有るし……お化けが居てもおかしくは……無い?」
「……非科学的」
「いや、魔法がある時点で非科学なのよ。とりあえず、この声って……室内から?」
声の発生源を桔梗が突き止めたみたいで、桔梗はつかつかと望月君の部屋へと近づいていった。
「ちょっと、大丈夫? 彼との接触は限りなく避けるって話じゃん」
「そうね。でも、これが病気とか怪我とかだったらかなりの問題よ? だから安否の確認だけはしておかないといけないわ」
確かにその通りかな。
私達は協力して生活しているとは言っても、その殆どの基礎を作ったのは彼だ。そして、そんな彼が居無くなれば……今後の生活は停滞してしまう。
何かと新しい物を作っているのって望月君だからね。
と、そんな妥協をするような内容を盾にしつつ、私達は彼の部屋へと近づいていった。……だって、ただ心配しているというだけだと、彼の領域に近づく理由にならない気がしたから。
――コンコン。
扉を叩いてみるも中から何の反応も無く、聞こえて来たのは「う……うぅ……」などと言った声のみ。
「やっぱり彼が原因ね……もしかして食あたりとか?」
「何か食べちゃいけない物でも食べたって事? でも、彼って鑑定持ちだから……事前に察知出来るんじゃないかな」
「……病気?」
「それなら私のヒールで少しでも楽にできるかも」
何時もならば絶対に近づかない相手。
お互いがお互いに抱えて居るモノがあるのだろうとお互いに配慮して、ストレスが最小限になる様にと注意している。
だけど今は……そんな事を言っている余裕がない。そんな気がした。
――ギィィィ。
扉を開けて中の様子を見ると、そこにはハンモックから落ちたのか蹲っている望月君の姿。そして彼のいる地面には……。
「……吐き出したのね。とりあえず、このまま放置はちょっとまずいかもしれないわ」
「吐瀉物の上に転がるのは衛生的にも……」
「それもあるけど、口や喉に溜まっている状態だったら窒息死もあるから。とにかく、彼をまずあそこから避難させないと」
そんな訳で、私達四人は急いで望月君の救助を行った。
倒れて半分気を失っているような状況だから、私達も怖いと言った感情は湧いてこない。なので、作業はスムーズに進んで行き……。
「……地面を掃除」
「水は何処? とりあえず、色々な物を洗い流すわよ」
「えっと、着替えって何処かな? 上着は悲惨な事になっているし……」
と、私達が慌ただしく動いている最中。エリカは彼にヒールを掛けていた訳なんだけど、そのエリカの様子が何やらおかしな気配になっていったのが感じ取れた。
「あれ? エリカどうしたの?」
「え、あ、うん……そのね……あの……とりあえず、こっちは大丈夫だから作業をお願い」
歯切れの悪い感じでエリカは私の質問に答えようとしない。寧ろ、なるべく私達をエリカが居る方へと近づけようとしない様にしている? なんで?
そう感じた私は、エリカの言葉を無視して近づいて行き……そして後悔した。
……ナニコレ。ナニコレ。
一瞬、何かに引き込まれるような感覚を覚えた後、私は自分の頬を叩いて気をしっかりと持つ。
「なんで来たの?」
「あー……うん、エリカごめん。これは確かに話しにくいよね……」
私が見たもの。それは望月君の〝目〟だ。
彼の目は何というか……全てを飲み込むような、引き込んで……いや引きずり込んで行くような、暗い暗い井戸の底とでも言えば良いのかな? こう、正気を奪っていくような濁った光。
全てを拒絶し、全てを黒へと変えてしまうような……見てはいけないモノ。そう感じてしまった。
「一体何が……」
「もしかして、望月君が人を寄せ付けないのって?」
こんな目をするようになった理由が何かあるとしたら、それはとっても……。
今、彼の目には私達など映っていない。一体何を見ているのか、そもそも見えているのかすら分からない。
そして、私達には何も出来る事が無くて……。
「とりあえず、今は場所を綺麗にしてから彼を休ませてあげましょう。目を覚ました時に、私達がいたらまた何が起こるかわからないわよ」
「そうだよね」
「……地面は掃除終わった」
……こんな時にもマイペースな雪が羨ましい。
はぁ……これって、私達が見て良かったものなのかな? 彼の知らない間に、彼の秘密に少しだけ踏み込んでしまったのでは? なんて思えてきてしまう。
暴くつもりは無いけども、そして凄く気にはなるんだけど……これより先はあの目の事を考えると不味い気がする。
「本人が語るのを待ちましょうね。そもそも、私達はこの地を彼から借りているようなモノなのよ……下手に追い出されるような真似はしないほうが良いわ」
桔梗の言うとおりかな。ちょっと怖いとかそう言うのもあるけど、今日見たものは私とエリカの胸の奥にしまっておこう。
あ、でもこれ、私があの時エリカの意思を無視して覗きに行って良かったかも? これ、一人で抱えろとか……ちょっと厳しいと思うし。
それだけあの目は……拒絶と引きずり込む力が凄かったから。
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と言う事で、エリカと七海にSANチェックが入りました。
えぇ、景の目は深淵を孕んでいたようです。
本人のターンである前話だと、普通に思考していたように見えたのですがねぇ。どうやら外側では問題が起こっていたようで。
ただこういう状況って、トラウマ発症中はあるあるだったり。あ、でも人によるかな。
自分は普通に物事を考えていたとしても、人から「お前、何見ていたんだ?」とか「ブツブツと狂ったような表情をしながらつぶやいていたぞ」なんて事も。
と言う訳で、外からみた景の様子はこんな感じでした。
もしかして……景のSAN値って実は……げふんげふん。と言いつつ、0ではありませんから大丈夫ですよ。