皆開き直るのが早すぎない!?~エリカ視点~
吸って吐いて、また吸って吐いて。ゆっくりと深呼吸をして精神を落ち着かせる。
「……ひっひっふー?」
「雪……それはもう使い古されたネタよ」
「〝●●の呼吸〟とか〝コォォォォォォ〟が主流じゃん」
「七海、それももう古の作品だよ」
ただ歴史に残る作品と言うのは何度も再放送されているんだよね。今だと確か、何度目かのボ●ムズとかメ●ゾーンやパト●イバーが放映されてた! って望月くんと鈴木さんが話していた。
そして後で画像を見せてもらったんだけど……望月くんってロボットを作った時にボ●ムズって作品に引っ張られたでしょ。と思うようなシルエットだったんだよね。
「いや、アレはソレ以外にも蒸気で動くロボットのゲームにも引っ張られてるわよ」
……なぜ桔梗はその事が分かるんだろうね。でも今その事は良いとして。
パン! と頬を両手で挟み込む様な感じで叩き気合いを入れる。大丈夫、今からある意味で決戦を行う訳だけど、けっしてとちる事などせずに会話をする事が出来る。そう自分に言い聞かせていく。
そしてそんな私の様子を見た皆も、顔を合わせながら頷いたかと思うと……何故か私の背中をバシッ! と叩いてきた。
「いっ!? ちょっと痛いんだけど!!」
「少し落ち着きなさい。なんかエリカだけ無駄に力が入ってたからちょっと緊張を解しただけよ」
「そうそう。それにさ! 別にそこまで気合いを入れなくてもな。ほら、システムさんの部屋に居た時は普通に会話が出来てたじゃん」
「……ん。今までが考え過ぎ。空回りしてた」
でもほら、内容が内容だからね? 未だに私達の家族も答えが出せずに頭を抱えているし。
「女子会にシステムさんを混ぜて話をした内容を覚えているわよね? 正直に言って、なるようになるしかないのよ。それに今までの事を考えれば、望月くんとの関係って簡単に壊れると思う?」
「壊れるとかなんてのはあり得ないじゃん! それにさぁ……今更な話だけど、私達が他の男子に惚れるって事あるのかねぇ。ぶっちゃけ、島での2年間を考えたらなぁ」
「……内容が濃すぎて、他の男子は存在が薄い」
確かにソレを言ったらそうなのかもしれないけど。ほら、未来のことは分からないしね?
「エリカ。自分で言ってて虚しくならないかしら? 先ず第一に、私達と同じ境遇になり得る人は異世界側にも居ないとシステムさんが言っていたのよ? であれば、最低条件をクリア出来る人が先ず居ないのよ……それに、そもそもの話。私達自身が他の男子を受け入れられるのかって問題もあるのよね」
「〝あの事件〟を目撃したからな。全員が全員そうだとは言わないけど、ちょっと思う部分があるじゃん」
もうトラウマでは無くなっているんだけどね。でも、一度刺さった棘と言うのは抜けても痕が残っている。そしてその痕から来る精神的障害とか色眼鏡などをスルーするのが……。
「……もっちー、ぶらっちー、鈴木さん」
「で、ブラスミさんはブラスミさんで抱え込んじゃってるし、鈴木さんは最近なんだか山田さんと良い感じじゃん」
「そもそも、マスター権限を手に出来る男子は望月くんとブラスミさんだけよ?」
異世界側にもダンジョンはあるらしい。でもそのダンジョンのマスター権限を人が持っている事は無いらしい。
ではなんで私達は? って話になるんだけど、これはシステムさん達がこちらの世界と人々のモニタリングをする為の特例なんだとか。
そしてこれ以上は島みたいな施設も、ソレに付属するマスター権限を持つ者も増やすつもりが無いらしい。なので、結局の所……。
「システムさんに抜け道が無いか聞いたけど無いって言われたわよね。私達から権限を取り上げるってのも、出来ないと断言されてしまったものね」
「ま、それでも未来がどうなるか分かんねーけどな! もしかしたら、あちらさん側の判断が変わって本島みたいなのを増やす可能性だって有るしな!」
「……時間はある。だから急ぐ必要は無い」
なんで3人はそんなにドーンと構えていられるのだろう。少し前までは私と一緒でアワアワと慌てふためいていたのに。
「そんなの、最終的には望月に責任を取ってもらう! って考えたらな。ま、良いか! って思えるようになったじゃん」
「ある意味では私達も責任を取る形になるのだけどね」
「……もふもふが有れば良い」
3人が口を揃えて言った。「別に嫌いとかそう言う訳じゃないし、そもそも信頼関係で言うなら数値的にMAXだから。それに、望月くんなら浮気とかの心配も無いし」と。言い方はそれぞれ違っていたけども、ほぼほぼは似た感じだ。
言われてみればそうなのかもしれない。そう思う部分はある。
信用とか信頼というのは、この2年間で十分に築き上げてきた。好きとか嫌いとかそう言う感情は、そもそもそういうのを考えられる時間が無かった。ただ、どっちだ? と問われたら好きの部類だろうね。ただそれは、恋愛的な意味じゃなくて、信頼とか信用から来るもの。人としてとか、仲間としてとかそういう感じ。
で、そもそも人を信用しない望月くんが他の人に目移りするかどうかと言えば……しないだろうなぁ。そもそも、今でも人付き合いは最低限にしているし。何かあっても鈴木さんにブラスミさんや桔梗を通している。
男子に関しては、男子チャットでのやり取りはしているみたいだけどね。でもそれでもチャット上が殆ど。
トラウマを乗り越えたとは言え、未だに望月くんは人に対して警戒をしているんだよね。そしてそうである以上、彼に新たな出会いがあるかどうかなんだけど……うん、どう考えても無いよね。
「だからさ。今後は余裕もある程度出来たって事で! 少しずつそっちの話も向き合っていけば良いんじゃね?」
「他の可能性が微妙に存在するかもしれない異世界との融合も、何時起こるか分からないもの。それこそ、私達が死んだ後かもしれないのよね」
そう言われると……開き直っちゃった方が気が楽なのかな。と思えてくる。
だけど、私達が開き直った所で、私達の親は簡単に開き直る事が出来る訳じゃない。
「……もっちーとの話し合いは前哨戦」
「両親の説得の方が厳しいでしょうね……他に道がないとは言え、そうですかと納得出来る話では無いもの」
なんだろう。どう望月くんと会話をしたら良いんだろう? と考えていたのに、なんだか一気にハードルが下がった気がする。
ただ、それでも彼とは一度真剣に向き合う必要は有る。そしてそれは……。
「今でも後でも同じだよね。それなら早い方が良いって事で、やっぱり今から気合いを入れて話し合いをしようと思うんだけど」
「そうね。システムさんの部屋で普通に会話をすることが出来た。その流れを維持出来る今だからこそではあるわね」
「鈴木さんに話をしに行った後は、望月と鈴木さんの2人で盛り上がってたけどな……」
そうなんだよね。望月くんと一緒にシステムさんのお部屋で前みたいに会話をする事が出来ていたんだよね。それで、その流れのまま鈴木さんの所へ皆で訪問したんだけど……何だか私達を置いてけぼりにした状態で、2人が盛り上がってたんだよね。
ただそれでも、私達が望月くんと普通に会話をしている流れは途切れていない。なので今がチャンスと言えるんだよ。
「鈴木さんとの会話も終わったみたいだし、拠点に戻った後に食堂でゆっくりとしながらが良いかもしれないわね」
お茶を飲みながらリラックスしつつかな。先ずはジャブとして今日あった事を以前みたいな感じで会話して行くと良いかもしれない。
それで後は彼がどう考えているか次第かな。最低でも、システムさんの爆弾発言がある前みたいな感じには戻したいかな。




