お主も生産職者よのう
笑っていいだろか? それはもう、盛大に大声をあげて。
きっと誰も邪魔をしないはず。むしろ、俺と一緒に歓喜してくれるのではないだろうかとすら思う。
それに、丁度いいと言って良いのかな? タイミングよく、ブラックスミスさんが錬金工房へと来てくれたようだし。
「お邪魔しまーっすっと……おー、工房の中ってこんな感じなんだ」
「いらっしゃい。ま、ごちゃごちゃしているけど適当に座ってて。あ、他の皆も一緒に……えっと、椅子足りるかな?」
「あ、もしかして何か新作でも出来た? それなら適当に椅子を取ってくるよ」
流石春野さんと言えばいいのかな? 俺が新しく作った義手をお披露目しようというのが感じ取れたみたい。
そんな訳で、彼女は足早に食堂の方へと駆けていった。食堂なら椅子がいっぱい有るしね。
「それで、何を作ったのかはエリカが戻ってきてから聞くけど、良いのかしら? 私達とブラ……高田くんが一緒に居る状態でソレについて話をしても」
あー……基本的に開発したものって、チームで使う物、オーダーメイドで頼まれた物、全てのチームで共有する物と、だいたいこの3つに分かれる事になる。
なので秋山さんが気にしてしまうのは当然で、大体どこか別のチームやパーティーには秘匿する。そんなパターンが多かったりするんだよね。
特にオーダーメイド品で、ロマン満載な物とかはね。
後は俺たちチームで使う物も基本的には秘匿事項が多い。そりゃそうだ、こんな錬金人形の亜種がいっぱいだなんて他の人が知ったら……ねぇ。
いずれかは知られてしまうだろうけど、だからといってまだまだ色々と実験段階の人形たちを公にする訳にはいかないんだ。
下手に色々な人に知られてしまい、自分達にも! なんて言われてもね。
だって、何処で不具合が起こるかわからないし、その際のメンテだって無理としか言いようがない。だから、頼まれて作った所でというのが割と多いんだよね。
なら船は良いのか? って話もあるんだけど。その船に関していえば、全ての船はこの島の港で管理されるからね。だから何ら問題など無い。
そんな感じで、外部に出してはいけない話というのは結構ある。なので秋山さんは俺に聞いてきたわけなんだけど……。
「ソレについては問題ないかな。むしろブラックスミスさんには色々と説明をする必要がある物でもあるしね」
「ん? それってやっぱり新しい金属を使ってるからかしら」
「そうなるかな。この新素材はマジで世界が変わるから」
お、ブラックスミスさんの目の色が変わった。
そりゃそうか。新素材で武器を作る事ができるかもしれないともなれば、そりゃ前傾姿勢になってしまうのも当然だ。あぁブラックスミスさんが、もうウズウズして仕方がないって体全体で訴えているね。
そんな会話をしていると、食堂の方から春野さんと夏目さんが戻ってきた。
そして椅子を丁寧に並べて、皆で行儀よく着席。……うん、なんか本当に教室で何かの発表会デモをしている気分になるな。
「こほん、では皆が揃った所で……先ずは見てもらうのが一番早いかな」
説明をする前に物を直接見せる。
実はこうするのが、新しく作った義手については説明するのが楽なんだよね。何せこの義手……いくら説明を口でしても、おそらくイメージすることすら難しいから。
はっきり言って、それほど新しい義手と言うのは突拍子もないと言うか、現実味が無い義手なんだよね。
なので、先ずは作った義手を皆の前にドーン! と取り出す。そして、今つけている義手と交換し……そこで新機能をいきなり使ってみせた。
「え?」
「は?」
「んん!?」
「ほぇ?」
「……ん。素晴らしい」
皆の目が点になった。うんうん、俺はその顔が見たかった。
ただ、開発中ずっと側に居た冬川さんだけはその機能を知っているために反応が他とは違う。とはいえ、こうして何度も見ているはずなのに、真っ直ぐな言葉で褒めてくれるのは嬉しいものだね。
さて、ではどんな機能を彼らに見せたのかというと……それは、スライムの素材から受け継いだ能力を使ってみせたんだ。
そしてその機能を使ったことで、メタリックな義手が、なんと普通の腕に早変わり!!
「驚いてる驚いてる。ま、これって義手ってか、素材に追加されてる機能の〝擬態〟ってやつなんだ」
そう。スライムの素材というだけあって、使える能力の1つは〝擬態〟なんだよね。
この機能を使う事で、錬金術の時に混ぜ込んだ〝素材〟などを再現することが可能なんだ。
そして、俺は一体何を素材にしたでしょうか?
そう、自分の腕を素材に使った。なので、これはその〝腕〟を〝擬態〟で〝再現〟している物だったりする。
「腕が生えた!?」
「いやいや、義手をつけていたわよね? だとすると、アレは生身ではないはずよ!!」
「あ、触ってみる? 触感も再現されているよ」
触り心地も肌となんら遜色がなかったりするから。だから誰がどうみても、これは義手には見えない。
そして、見えないからこそ! という秘密があったりする。
「あ、なんか僕分かったかも。望月くん、君さ……かなりその義手にロマンを詰め込んだでしょ」
「おー! 流石ブラスミさん。やっぱり分かっちゃうよね」
「ブラスミって……変な略を。っと、そりゃ分からないわけがないよ。で、何を仕込んだの? 刃? コブラ? ロケットアーム?」
「ふっふっふ……だがブラスミさんもまだまだなようだね。そんなの……全部に決まってるじゃないか」
「な、なんだって!!」
うんうん。やっぱりブラックスミスさんとは会話が弾むね。
あ、でもその代わりに女子たちが全員置いてけぼり状態だ。俺たちのやり取りを聞いて、なにやらポカーンとした表情を見せているよ。
「えっと、皆にも分かりやすく説明すると……」
なんてことはない。この生身に見える腕は義手だ。しかも擬態が可能な義手。そしてその擬態と言うのは、丸々全てを擬態するだけではなく、部分だけの擬態も可能。
となれば、ロマンに走るのは当然の話で。この擬態する機能を使い、大量の道具を仕込んだと言う訳だ。
「ただ、使う時に生身のままだったら見た目的にあれだから……ってことで、一応機械化な状態の腕で使う物もあるけどね」
仕込んだ道具の内、ワイヤーフックなどは完全に擬態を解いて使ったほうが良い。何せ生身のままだとねぇ……ワイヤーをはやした手が飛んでいくとか、かなりホラーだし。
「他にもこんな事もできるよ」
そう言いながら、手の一部を変形させて腕から刀身を出してみたり、その刀身を伸ばしてみたりしてみせた。
「生身の状態でやると、青種とか寄生とかの作品を思い出すなぁ」
「青種は古すぎやしませんかね。ブラスミさん。っと、他にも義手に杖も取り込んでるから、腕そのものが杖と同じ効果を発揮出来たりするよ」
義手をブラックスミスさんに向けながら、なんとなく「我は放つ」とか言ってみる。
「ちょ! 今こっちに向かって〝白刃〟を撃つなよ!?」
「いや、冗談だから。てか、そもそもその魔法はこの島の魔法には無いでしょ……」
「なんだかできちゃいそうで怖いんだよ……」
ともあれ、義手の機能はかなり万能になりましたっと。そんなお披露目を皆にしてみせた。
「なんだろう……これ、生身よりかなり良いんじゃない?」
「いやまってエリカ。義手の為に腕を落とすとか、ソレはどうかと思うわ」
「……でも便利」
「便利だからって、あえてソレをやるのは人としては間違ってるじゃん」
万能ツール化が出来ちゃったからね。でもそれなら、別に義手じゃなくてもいいんだよなって話ではある。
ただ、人が常に使う手だからこそ、他のツールとして使うよりも使いやすいと言うのは多少だけど有るけどね。
「うーん……これは装備にサブアームとかを付けるとか?」
「あー……それ、実際やったけどかなりきついよ? ぶっちゃけ腕が増えると脳がパンクする」
「脳の処理落ちかぁ。確かに腕が3とか4本あればって考えたことは有るけど、実際にそれだけ腕があったら、全てを同時に使いこなせる様になるためには時間がかかりそうだ」
「しかもなれるまでは常に頭痛がするというおまけ付き」
あれやこれやと同時に全てをこなす必要があるからね。副脳でもない限りは、全ての腕を制御するのはかなり難しいんじゃないかなぁ。
まぁそこらへんは、錬金人形にやらせたら良いって話になるんだけど問題がないわけではない。なにせ俺自身で動かすのと錬金人形が動かすのだと、錬金人形がやるほうがやっぱりワンテンポは遅れちゃうからね。
「とは言え、この新素材で作った義手の性能は見てもらってわかったと思う。で、この性能は〝義手〟の性能じゃなくて〝素材〟の性能なんだ」
「ほうほう……それは心が踊りますなぁ」
「でしょう? ただ、この素材を用意するのはチョット大変で……えぇ、ブラックスミスさん達にも協力を。あ、勿論、作った素材の幾つかはお譲りいたしますよ?」
お互いに顔を見合わせながら、「フッフッフ」と笑みを浮かべる。いやいや、お互いこんなの創作意欲が湧いちゃうから仕方ないよね。
ただ、そんな笑いが女子に対してどう思われたかは……お察しである。
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