出口への道
黒が白になり、白がまた黒くなる。まるでオセロの様にくるくるくるくると。
ただオセロと違うのは、この反転がゲームなどではなく精神的なモノという事。
沈んでは浮いて、のまれそうになっては這い上がる。そんな繰り返しな状態だから、もの凄く気持ちが悪い。
「きゅ?」
「あぁ、何とか大丈夫」
本当に、はちゅがここに居ることが唯一の救いだ。もしこの子が居なければ、今頃どうなっていたのだろう。
浮上している最中ならまだ良いけど、沈んでいる最中の状態は本当に良くないから。
足元から黒い何かが這い上がってくると同時に、気分は急降下していく。そして、その時によって違う考えに頭も心も支配されかける。
とは言えソレらがマイナスのモノな点は同じだ。ただそれが外向きの破壊衝動なのか、それとも内向きなのか。
今は浮きの状態だからこうして色々と思考出来るけど、また黒いヤツが這い上がってきたらと思うと……。
ブルリと思わず身震いをしてしまう。
外向きの事に関して言えば問題は無い。だってここに破壊出来るようなモノは特に無いから。唯一気がかりなのははちゅだけど、この子の素早さを考えたら大丈夫だろう。
逆に内向きの方が大問題だな。だって内向きで一番重いものといえば自殺願望だ。何が何でも死にたくなってしまう。そんな気持ちに支配されてしまう。
「きゅん!」
「あー……そうなったら助けてくれるのか」
あれかな? こう、ぎゅっと優しく絞め落としてくれるのだろうか。
意識さえ失ってしまえば、このリバーシな精神状態もなんとかなるだろうしね。……とは言え、ここで気を失った所で、この状態が解決するわけじゃない。だから俺がはちゅに落とされたとしても、それは問題を先延ばしにするだけ。
だから今直ぐに俺の意識を落とせとはならない。
「とは言え、このままだとどんどん病んでいってしまうからな。何か手があれば良いんだけど……はちゅ、何かないかな?」
「きゅーん……」
さて、本当にどうしようか? なんて事をはちゅに聞いてみた。
勿論だけど、はちゅがそれに対して答えを持っているわけではない。だからこの子も俺と同じ様に悩んでしまう。
ただ、そんな質問を口にしたのが良かったのか、テレビに入るノイズに変化が起き始めた。
――ザザ……ザザザ……ザーーーーーー
まるでラジオのチャンネルを変えるかのような反応をするテレビ。
ビリッと一瞬だけ映像が入っては直ぐに砂嵐になる。しかし、先程まで流れていた、過去の糞みたいな映像は映らなくなっていて……そのことだけで、ほんの少しだけ心に余裕が出来た。
そして心に少しだけでも余裕ができると、見えてくるモノや聞こえてくるモノに変化が現れてくるもので……。
先程までお化け屋敷と化していた部屋だけど、これは廃墟といった感じのままだけど、ほんの少しだけ明るさ? が戻ってきた。
そして一番の変化はやはりテレビだろうか。
ノイズの合間合間に入ってくる映像。それは何種類かあるものの、その映像はこれまで映し出されていたモノとは全く別のモノ。
「きゅ!」
「え? これって……」
一瞬だけ映った映像の中には、俺がネタとして作った大きなドリルみたいなモノが何か掘削しているシーンだったり、水の中で巨大なワームを追いかけるモノの視点だったり、空の上から水面とそこを走る船だったり。
本当に一瞬だけど、そんな映像が映し出されるようになった。
そんな映像と同時に、聴こえてくる声。これにも変化が。
マイナスの感情を思いっきりぶつけてくるような、それでいて闇落ちへと誘うような囁き。それ自体はまだまだ聞こえてくる。
だけど、そんな声に遮られていた何者かの声が、かなりクリアになり始めてきた。そして理解した。うん、この声の主は敵ではないと。
とは言え……声の主が言っている内容だけど、かなりの賭けだよね。何せこの負の感情を受け入れろだなんて。
受け止める事すら厳しいのに、出来れば目を逸らして拒絶したいというのに……でもそうしないと、きっと前に進めないんだろうってことは、なんとなくだけど理解は出来る。出来るけども! ってヤツなんだよね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おっと、漸く少し声が届いたみたいだぞ」
「それはそれは。ギリギリセーフと言った所でしょうか?」
「ケッケッケ。ま、俺様は大丈夫だと思ってたけどな!」
正直、ギリギリだったとは思うけどな。
何せあのまま浮き沈みを繰り返していたら、それだけ心の消耗は激しくなっていったはずだ。……特に浮いた分だけ、沈んだ時のダメージは大きかった。
考えられるからこそ、その考えが及ばない状況になる。その繰り返しだなんて発狂しない方が可怪しい。
「さて、どうやらあちらさんはテレビを通して外の様子をみれるみたいだぞ?」
「1つは私達の視点でしょうか」
「他は……あぁ! そういう事か! 俺様ピーンときたぜ! 他のは、はちゅがあの場に居るからこそ起きている現象だな!!」
はちゅは雪の精霊だ。そして、そんな精霊が俺達の精神的な領域に入り込んでしまっている。
そう……入り込んでしまっているんだよな。という事はだ、あの空間にも影響が当然あるという事。
「はちゅを媒体に、他の精霊達の視線をジャックしているんだろうな」
「あの小娘が持っているスキルにありましたよね。接続でしたっけ? それを逆に利用しているといった感じでしょうか」
「多分そうじゃねーか? はちゅとテレビを使ってスキルが悪戯してるんだろーなぁ」
ゲーム的に言うのであれば、バグ技とでも言ったところだろうか。
スキルやら不測の事態が合わさって出来てしまった状況なのだろうな。ま、そのお陰で表のヤツの精神が回復したと言える部分があるからな。ナイスバグとも言えるが。
「さて、テレビを通して見えているんだろう? ま、お前はお前で〝ソレ〟を調伏でもしてろ。そんでもって、外と言うか僕達の戦いをよく見ておくんだな」
「ケッケッケ! 俺様達の実力。その目でしかと見るが良いんだぜ! テレビ越しだけどな」
「丁度良いと言って良いのでしょうか? 何やら面白い場所に出てきましたしね」
硬い硬い。それこそ岩盤でも削っているのか? と思うような状態を抜けると、そこには赤だったり桃色だったりする空間。
そしてそんな色の壁やら地面やらと、その全てがドクンドクンと波打っている。
「ケッケッケ……ちょーっとグロすぎるんだぜ」
「これこそ正に内臓といった感じですね。さしずめ正面に見えるのは心臓みたいなものでしょうか」
肉の壁・肉の地面・肉の天井。そして正面には巨大な心臓。
なるほどなるほど。だからこそあの削ってきた場所はかなり硬かったのか。そして、こんな大切な場所を守るためになのだろうな。
俺達が見ていた空や大地は、この部分から目を逸らさせる為のカモフラージュ。幻覚みたいなものだった可能性が高い。……もしくは、本当にその場所だけ異空間だったとかか。
ともあれ、どうやらあの空間で出て来たモンスター達というのは……。
「この心臓っぽいのが生み出してたみたいだな」
「さしずめ白血球的なモンスターなんですかね?」
心臓が脈打つ度に1体、また1体と生み出されるモンスター達。ただその姿は一定ではない。だけど、色自体は黒色で固定されていて、全く同じ存在だというのは理解出来る。こいつらはワームの中に入り込んだ異分子を排除する存在なのだろう……と。
「さて、無限湧きとかじゃなければ良いんだがな」
「……さっさと心臓を破壊してしまえば良いのでは?」
「ケッケッケ。やっぱ天使は馬鹿天使だよなぁ。そんなの相手も対策しているに決まってんだろ」
「ソレぐらい分かってますよ! ただ、破壊する方法が何かしら有るのでは? という事です!」
どうでも良いけど、そんな事を大声で叫んだら相手にも聞こえるんじゃないか? そしたら天使がやりたいと思っていることは完全に筒抜けになるんだが。
いやいや、これは天使のブラフだろう。きっと他に何か考えがあってのことに違いない。こう、心臓を狙うと見せかけて……みたいな何かが。
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