息抜きの探索
俺達は急ピッチで拠点の強化を開始した。
今まで以上のスピードで石レンガを作り、壁を築き上げる。女性陣も〝海フードコブラ〟には恐怖を覚えたのか、レベリングもしっかりと行っている様だ。……お陰でウサギの燻製肉が増えて行くけど。
なのでと言っていいのか分からないが、最近の主食はもっぱらウサギである。
「ウサギは美味しいんだけど……流石に違うモノも食べたくなってくるよなぁ」
朝・昼・晩とウサギ+@な日々。何せ魚釣りや魚用トラップを引き上げる事に対して恐怖を覚えてしまったからな。現状海に行く事に対して拒絶感を皆覚えている。
なので、魚の確保は現状出来ていない。一応、貝殻などは砂浜にある物を回収しているので何とかなってはいるけど。
『……蛇は食べたら美味しそう』
と、約一名の女子がリンクでそう呟いていたのだが……確かに! と思いつつも、あのレベルの蛇を討伐するのがまだ辛そうなので断念するしかない。
きっと毒蛇だろうからな……下手に噛まれでもしたら、現状だと解毒方法が無いのが問題だ。
一応、錬金術のレシピに解毒ポーションはあるけど、今は素材不足で製作出来ていない。
「……はぁ」と、思わずため息が出る。
海には欲しいモノが有ったというのに、毒蛇の所為で棚上げになるとは……あぁ、ボックスフィッシュの箱が更に遠のいてしまった。
錬金術のレシピにある保存用のチェストを作る事が出来れば、更に保存食の保存期間を延ばせただろうに。後、素材を置くスペースを増やす事も。
ただ、そんな風に嘆いていても仕方のない話なので、今はせっせと防衛力を増す為に作業をして居る訳だけど、同じ作業をして居ると思考が鈍って行くというか、病んでくるというか……正直飽きて来る。いや、飽きたとしてもやらねばならないのだが。
ただ、モチベーションを維持する為にも、他の事でもして精神状況をリセットする必要がある。
と、いう事で! 今、俺は、森の中の少し奥まで来ている。
そして何故森の奥なのか。それは、新しい素材を手に入れる為だ。
そもそも、レベルも上がった事で出来る事も増えたし、身体能力も向上した。
しっかりと準備をして来た今なら、ある程度の難関は突破できるだろうと考え、今まで先延ばしにしていた森の探索を少しではあるが再開した訳だ。
「今頃女子達は、森の浅い部分で収集作業をしているだろうけど」
石に薬草にと、採取する物は沢山ある。
ぶっちゃけ、森の中に有るもの全ては錬金術の素材になると言っても過言ではない。それこそ、ただの雑草すら紙やら糸やらを作る素材になる。錬金術……万能過ぎないか?
そんな訳で、女子達は海で釣りが出来ない分、ウサギを狩るか素材集めを行っている訳だけど……たまにリンクから連絡が入って来たりする。
『……面白いものを見つけた。もっちー後で鑑定よろ』
と、大抵の連絡主は俺の事を「もっちー」と呼んでくる女子C……あれ? Dだったか? まぁ、その娘だ。
確かに掘り出し物を見つけ出す事もあるのだが、彼女の何に引っ掛かったのか謎と言えるモノをゲットする事もよくある話で、今回の鑑定依頼として送られてきた画像もまた……。
「どうみても〝マンドラゴラ風に育った植物の根〟だよなぁ……」
よくネット上に上がっていた、手と足がある大根……に、よく似た茶色い物。
ただ、植物の根だけに用途は色々とあると言えばあるから、ゴミとまでは言えない物なのだけど……それこそ、毒薬にも漢方的な薬にも出来る可能性があるから。
とは言え、これってこの見た目だけで回収しただろうとしか思えない。……まさか本物の〝マンドラゴラ〟だとか考えてないよな?
……ワンチャンあるか? こんな世界だ。マンドラゴラが存在している可能性だってある。とは言え、アレは回収する際に叫ぶわけだし、その叫びを聞いたら死ぬと言われている。なので、この人型の根を〝マンドラゴラ〟なんて勘違いをするとは思えないのだが。
報告主が彼女だからなぁ……。
女性陣の中でもちょっと毛色が違う為に、名前までは憶えていないがなんだか特徴は覚えてしまった。
以前であれば全く気にも留めないのだけど、今の環境だと嫌でもやり取りをする必要がある。なので、そのやり取りの濃度と言うか、生きて行く上で必要だからと、嫌でも記憶してしまうモノがある。
それだけ彼女のキャラが濃いとも言えるんだけど。
ただ、不思議な事に、嫌悪感や拒絶を覚えると言う事が無い。
これが彼女のキャラ補正というものなのだろうか? 少し疑問に覚えるけど、ストレスにならないやり取りだから俺的には有難い話。
「とりあえず返信をしておくか……えっと『(了解と敬礼をしているウサギのスタンプ)』これで返しておくか」
てか、このスタンプは後々増えるのだろうか? 今の所、ウサギのスタンプばっかりな気がするんだけど。
はっ! もしかして、討伐した相手がスタンプになっているとかそういう事なのだろうか。だとすると……この後スタンプを増やそうと思ったら、何かしら狩りをしないといけないとか?
なんというシステムなんだ……課金制度がないからと、代わりに討伐制度を導入している訳か。
いやまて、ゲームとかだと討伐して解放されるマークとかも有ったりする。という事は、課金するシステムが後々導入されるなんて事も! いや、通貨が無いから課金と言っても何をという話になるのだが……。
ちょっとした不安を覚えつつも、俺は女子にスタンプで返事をした後は探索を再開。
枝を折り、草を刈り、歩きやすくしつつ前へ前へと進んで行く。
しかし、やはりこの森には生き物が居ないのだろうか? ウサギと蜘蛛以外の存在を全く感じとる事が出来ないんだが。
地面を見て見るも、何かの糞や足跡を発見する事が出来ない。……これに関しては、俺に狩人のスキルが無いからかもしれないが。リアル能力もジョブスキルも、そっち方面は皆無だからなぁ……。
動画や漫画などで見た知識など、使える場所はほぼ無いからな。知っているだけと言うだけだし。……まぁ、此処に来た当初にやった火熾しとかで役に立ったけど。
ただ、積み重ねて来た経験がある訳でもないので、正直風上がとか、木や草の倒れ方や傷がなどの異変に気付くはずもなく、俺の目には木や草がある自然としか映らない。
やはり、こういう時に狩人のジョブ持ちが必要という事になるんだろうな。
そして狩人のジョブスキルがあれば、なんらかの異変に気が付くサポートを受ける事が出来たのだろう。
俺自身が錬金術師のスキルのお陰で楽に色々と作れているからな……うん、スキルが有るって反則だよな。
「ま、狩人を選ぶつもりは無かったし、現状言っている事は隣の芝はってやつだっけ。ない物は無いんだから、自分で気を付ける部分を気を付けて行くしかないか」
錬金術師なら錬金術師らしく道具で何とかする。
狩人のスキルの代用という訳では無いが、拠点であれば〝鳴子〟を用意してある訳だし、探索中なら探索中で使える道具はあるはずだ。
とは言え、そんなアイテムを現状持ってはいない。と言うか、作ってはいない。いや、一応だけど虫除けは作っていたけども。
「モンスター除けとかあるのかな? ゲームとかではその手のアイテムって色々あるけど」
鈴だったり香だったりと、ゲームによって違いはあれどそう言ったアイテムは存在する。
もしかしたら、何等かのレシピが存在するかもしれない。なので、今一度レシピを確認しておいた方が良いかもしれない。
とは言え、それは後でという話。今は既に森の中だ。
ただし、生き物の存在は幾ら進んでも感じる事が出来ずにいるのだけど……これって、やっぱりあのボス的存在である蜘蛛を倒せと言う事なのだろうか?
まぁ、現状であればあの蜘蛛にさえ遭わなければ、素材の取り放題とも言えるんだけどな。
「ん? これはレシピブックに載ってた〝くさ草〟か? ……おぇ、確かに臭すぎだわ」
クンクンと嗅いでみると、確かに猛烈な臭いがする。なんというか、こう玉ねぎを放置したような臭いというか、ゲロ以下の臭いというか……。
あー、これどうしようかなぁ。素材として採取したら面白そうなモノを作れそうではあるけど、正直これを手に触れたくないし、素材回収用の鞄に入れたくない。
折角、食べる事が出来そうな物も回収しているしな……これは、錬金術師としての分かれ道なのでは!? って、そんな訳があるはずもないか。ま、採取は次の時に専用の袋でも作っておくとしよう。
ブクマに評価などなど、ありがとうございますですぞ!\(( 'ω'))/コシヲフリフリ
と言う事で、息抜きなのに息が詰まるようなものを発見。
えぇ、少し奥まで入って行けば手に入る素材が一気に増えます。……的はベリーハードモードなのに、自然素材に関してはイージーモード。
バランス調整可笑しくない? と、ゲームなら言われそうな内容である。