女子生徒達の探索~女子D(雪)の視点~
「……ウサギが逆さ吊り」
「え……」
「い、生きてるの?」
「……うん」
ボク達はもっちーから依頼を受けて色々な素材集めを開始した。
その最中に、ウサギの巣穴の近くを通る事になったけど、ボク達の目の前には見事トラップに引っ掛かったウサギが逆さで宙ぶらりん。
ぶーらぶーらと空中で揺れるウサギが、偶に「きゅぅ」と鳴いている。
「これは望月君が言ってたトラップかしら。確かスマホにはレベリングにどうぞって書かれていたけど……」
「……これに攻撃をするの?」
「む、無理だよぉ」
ボク以外の3人が、逆さ吊りのウサギを見てオドオドとしている。
そんなに怖い事かな? だって、ここで食料を確保しないとボク達が倒れてしまう事になるんだよ?
確かにもふもふとしていて、ペットにしたい気持ちはわかるけど……。うん、ペットにしたい。もふりたい。手から餌を上げてみたい。……少しうずうず。
それでも、ペットにしたとしてもそれでボク達のお腹が膨れる訳じゃない。
それに、レベリングも必要。今のボク達は物凄く弱い……きっと、普通に戦ったらウサギも狩れないと思う。
「……やらないの?」
「あ、あはは……今はきついかなぁ」
「私もちょっと……ね」
「必要だという事はわかっているけど、まだ覚悟が決まって無いというか……」
3人とも……まだとか、後でとか、そんな事を言っていたら取り返しのつかない事になると思うんだけど。
うーん、でもそれなら……。
「……ボクがやる」
「「「え?」」」
3人とも目を点にしてボクの顔を見つめて来た。……少し照れる。
「……やらないんでしょ?」
「そ、そうだけど」
なら勿体無いよね。食料としても、レベルとしても。あ、でもこのまま放置しておけば、後からもっちーが狩りに来るのかな? うーん、でもこれはボクにとってもチャンスだよね。
お肉だって体力をつけるには必要だし、あ、でも3人ともウサギを狩るのを見たくないのかな? ただ、何時かはやらないといけないと思うけど。
あ! 3人とも後からレベリングを開始しても問題無いのかな。だって選んだジョブがジョブだし。
エリカが選んだジョブは回復術師。ヒーラーは絶対に必要だ! って言ってた。どこまで回復魔法が通用するかは分からないけど、病気や寄生虫なんかにも通用したら良いなぁ。
因みに、エリカ本人は陸上部所属だったから、戦えなくてもその足で逃げ回る事が出来る。
七海が選んだのは弓魔師。矢を魔力で作れるんだって。普通の矢も使えるそうなんだけど、使えるスキルが微妙に違ってくるんだとか。矢を大量に生産出来ないから、こっちの方が良さそうって笑ってた。
桔梗が選んだのは土術師。選んだ理由が便利そうだからって言ってたな。土で壁を作ったり、落とし穴を作ったり出来るから、戦術的にも効果の高い魔法になるって。
そしてボクが選んだのは……。
「……サモナーだから。……早めにレベルアップが必要」
特殊系に属するサモナー。何か特殊なアイテムが必要って選ぶ時に書かれていたんだけど、そのアイテムと言うのが……。
――――――――――――――
召喚術(初級)
◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇
サモンブックが解放されました。
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ジョブにスキルポイントを振った時に出て来た本が、特殊アイテムなんだと思う。
「……サモンブック召喚」
ボクはサモンブックを召喚して、その本の内容をもう一度確認してみる。
サモンブックは基本的に真っ白なページだらけ。でも、最初のページには説明書きが書かれていて……。
――――――――――――――
モンスター討伐時にサモンブックでモンスターを殴ると、低確率で召喚素材がドロップされるかも!
召喚素材を本に取り込ませ、専用のページを埋めて行こう。ページが埋まった時に初めて召喚魔法が可能になるよ♪
召喚魔法は召喚する対象で使用する魔力量が変わるから注意してね。
低レベルな子だったら魔力量も少なくて済むけどね。あ、後時間制限があるから注意すること!!
――――――――――――――
なんだろう……この説明が足りていない感じは。
確かに必要な事は書いてあるけど、ノリが軽いし、内容も薄い。
ただ、この文で分かる事は、召喚術を使えるようになるまで、結構な数のモンスター? を狩らないといけないという事。
低確率で素材が手に入る、ページを埋める必要があると、どう考えても1体や2体でどうにか出来る内容じゃない。……下手をしたら、数十体とか必要になるかも。……もしかして、選ぶジョブ間違えた?
あ、でも初級魔法は使えるみたいだから、一応少しは攻撃手段がある。
「……私は沢山倒さないといけない」
「そ、そっか……でも、今必要?」
「……うん」
たぶんだけど、本で一発でも叩いておけば、他の人が狩りをしても条件は達成していることになると思う。でないと、火力が足らないのにどうやって素材を集めるの? って話になる。
それに、それがダメとなると召喚したモノに狩りをさせたら素材が手に入らないと言う事になる。それだと、本当に素材集めが出来ないから。
でも、最初ぐらいは自分ひとりだけで何とかするべき。ウサギぐらいなら、魔法でポンですむ。
ピッと本をウサギに向けて、ボクはウサギの頭をポカッと叩いた。
「ほぇ?」
「え、えぇぇぇぇ……」
「本で叩いただけ? えっと、狩るんじゃなかったの?」
「……必要な事」
思いっきり叩いたつもりだったんだけど。それも、殴るだけで倒せるだけの力を篭めて。
でも、ウサギは「何かした?」と言わんばかりに、ボクの事を見て……「プギュ♪」と鼻で笑った。
「……このウサギムカつく」
「可愛い顔をしているのに、何かしらこの腹黒さが表に出たような笑い方は」
「一気に可愛く無くなって来たんだけど」
「ちょっと私も一撃入れたくなったかも」
逆さ吊りになりながらも、挑発を止めないウサギ。そういえば、もっちーがチャットで書いていたっけ。
「……これがもっちーの言ってた事」
「あぁ、そう言えば彼が〝ウサギと相対する時は冷静になる様に。奴らは精神を揺さぶって来る〟って。こういう事だったのね」
「これは揺さぶられるなぁ……おもに怒りの方向へだけど」
「ギャップ萌えならぬ、ギャップ燃えかな? 怒りに心が燃えそうだよ」
プルプルと怒りに震える皆だけど、その間も、ウサギはボク達に向かって足や耳を向けてからクイクイッと挑発をしてきている。もちろん、挑発的な笑みと「プギャ」と言う鼻で笑うような鳴き声と共に。
……何で吊るされてまで、こうも挑発が出来るんだろう? そういう風に作られた存在なのかな。
ただ、それにしても逆さの状態でいながら、そのロールを続けることが出来るなんて……ある意味プロなのかもしれない。
うん。プロならプロを相手にするように敬意を払って……。
「……怒りを思いっきりぶつける」
サモンブックをウサギに向けて、今度は「……ファイア」と火の魔法を撃ちこんだ。
燃えるウサギ。だけど、燃えながらもクイクイッと言う挑発は止めていない様で……追加で火の魔法をポンポンと撃ち込んでいく。
結局、ウサギは終始挑発を止める事をしなかった。プロ根性が凄まじい。
「ゆ、雪ちゃん?」
「……倒した」
「怒りに身を任せたって感じだったけど……大丈夫?」
「……悪は成敗」
「あー……うん。精神的にダメージ受けてないなら良いんじゃないかな。……私はちょっと、当分の間お肉を食べる事ができ無さそうだけど」
……魚は普通に絞めているのに。動物はダメなんだ。ちょっと不思議。
「……あ、レベルが上がった」
「倒したら上がるのは本当だったのね。……って事は、やっぱり私達もその内倒さないといけないのよね」
「は、ハードルが高すぎるよ」
「救いは皆が皆遠距離って事かな。あ、でもエリカって回復術師だよね。どうするの?」
「回復魔法の使用でレベルが上がってくれると良いんだけど……駄目なら投擲武器でも使おうかな」
ボクはそんな3人の話を聞きながら、スマホを操作しつつスキルポイントを何に振るかを悩んでいた。
魔法か、それとも召喚術にポイントを振るか、これは少し悩ましい。
ブクマや評価などなどありがとうなのです!! ペコリ(o_ _)o))
と言う事で、女子生徒視点を一周しました。
雪ちゃんはボクっ娘であまりしゃべらない系女子。しかも表情に変化が殆どない子。
しかし、思考はしっかりと回っている様で……ソレが余計に、何を考えているのか分からない理由になっているという。そんな子です。
一番トラウマが無い子でもあったり。だからこそ、この環境で〝自分〟が出せているのでしょうが。
見た目は、おかっぱな座敷童系美少女とでも。きょぬーかひんぬーかは……ブラックボックスです。