ワイヤーフックアクション~桔梗視点~
トリガーを引いて魔力を送る。飛んでいった鉤爪がしっかりと目標を咬んだら魔力を送るのを止める。
……そう言えば、魔力の場合って送電ではなく送魔でいいのかしら? そんな他愛も無い事が脳裏に一瞬過ぎったのだけど、既にワイヤーフックは巻き上げ機能をONにしており、私の体は一気に上へ上へと運ばれていく。
「それにしても、巻き上げ機能はかなりの速度になっているはずなのに、どうしてまだ望月くんの方が速いのかしら」
「でもほんのちょっとの差じゃん」
「……こっちのほうが楽」
ワイヤーフックは望月くんの改造により、更に使いやすくなっている。
前までは巻き上げ中も手でしっかりと持っていなければ行けなかったのだけど、今は背中に固定出来る様になっているのよね。だから肩越しにワイヤーフックを撃った後、そのまま固定して両手をフリーの状態にしておける。
なのでこの状態でモンスターに襲われても、万全とは言えないけど十分な対応が可能。
だけどちょっと面倒なのは巻き上げ機能の速度調整かしら? コレばかりはワイヤーフックから手を離しているものだから、操作の為にとワイヤーフックへ触れなければならず、少しだけ時間に間があるのよね。
「……とう」
「ちょ! 雪何危ないことをしているの!?」
私達がそこそこの速度で上昇していると雪が大暴走し始めた。
雪は最高速モードを一瞬だけONにしたらしく体が一気に上空へと打ち上げられた。そして、その勢いを利用したようで、空中へと放り投げられつつ鉤爪が咬んでいる状態を開放。そしてワイヤーフックを次の目標に向かってショット。
鉤爪が次の目標に咬み付くと、再び同じことを繰り返し、私達の中で一番最初に最初の目標地点に到着。
「……むふー」
目標地点に到着した雪は胸を張って私達を見ているのだけど、危険行為をしたという自覚がないのかしら? これはしっかりと注意をする必要がある気がするわ。
「めっちゃドヤってるじゃん」
「ああいうのを最初にやるのは七海だと思ってたよ」
「さ、流石に昨日の事があったからやらないじゃん」
七海と雪には釣りの件で言い聞かせたのだけど、七海はしっかりと覚えていたようね。でも雪と来たら……。
「ただあれじゃん。ワイヤーフックが1本だから危険な訳で、2本あったら……」
あ、しっかりと学んだ訳ではなかったようね。七海も2本あったらやる気だったのね。
そもそもの話。望月くんの説明であったように最高速度というのは緊急脱出用なのよ? という事は、多用するような機能ではないという事なのよ。
そんな機能を連続で使おうものなら、何時どのタイミングでワイヤーフックが壊れるか分からないのよ? 下手をすれば、空中に投げ出されている最中に故障となってしまったらと思うと……。
「なるべく壊れないようには作っているつもりだけど、秋山さんの考えはあり得る話だからね」
「だと言うのに、どうしてあんな無茶をするのかしら」
「あはは……でも、やりたくなる気持ちは分からなくもないかなぁ」
男の子のロマンとでも言うつもりなのかしら? 確かに男子ってやれターザンロープだとかパルクールだとかいって、危険な走りを小さい頃からやっていたような気がするわ。
ガードレールに手をついてピョンと飛ぶ姿とかも有ったわよね。えぇ、本当に一体どうしてそんな事が出来るのかしら。
「望月くんもやっていた口かしら?」
「いや、俺の場合は違う意味でそういうのが出来なかったからなぁ」
遠い目をする望月くん。あれ? もしかして地雷でも踏んでしまったかしら。だとすれば、まずは謝らないと……。
「あ、ご「いやいや、気にしなくていいよ。ちょっと昔のことを思い出しただけで。うん、あいつらの対策はどうしようかな」って……うん、なんかごめんなさい」
なんだか望月くんが「ふふふ……」と含み笑いをしているように見えるわ。
きっとあれね。よく言うやられた側は脳内で何度も相手を殺しているとかそういうやつかしら? 実際にそういう事をするつもりは無いみたいだけど。
望月くんもあれよね。島から戻る気なんて無いと公言しているもの。だから実際に何かをするのではなく、ただ思い出した拍子にちょっとした計画を練ってみただけみたいね。
「さすが秋山さんよく分かってる。実際にやると、ただただ面倒なだけだしね。むしろ俺としてはこのまま放置の方が良い復讐が出来るかも? って思ってるよ。何せ錬金術なんて眉唾な能力を手にした訳だからね」
確かに彼が魔法とかが使えますなんて事を知ったら、相手が発狂しかねないわよね。
そして、その能力を一切自分達の為に使わない。復讐しない事こそが復讐というやつなのかしら? まぁ、そんなことで諦めるようなタイプかどうかと言えば……望月くんの話を聞く限り違うような気もするのだけど。
でも、どうやって島まで来るのかという話もあるのよね。それに、そもそも私達が島から脱出出来るかどうかも未だに分からないのよね。
「っと、どうやらモンスターがお出ましみたいだよ」
「あ、雪! 後ろじゃん!!」
「……ん。大丈夫」
目標地点で私達を待っている雪の背後には猛スピードで接近してくるモンスターの姿。
そしてその姿を見るにやはり鳥型タイプのモンスターのようで、空中から完璧なタイミングで奇襲を仕掛けて来たつもりらしい。
「……ちゅりお」
ただ、雪の頭上にはクリオネな姿をしている精霊のちゅりおが陣取っており、ちゅりおは頭からバッカルコーンを出したかと思うと、凍えるブレスを襲ってくる鳥型モンスターに向けて吐き出した。
ブレスを突っ切ろうとする鳥、更にブレスの勢いを強くするちゅりお。
ただ、鳥型モンスターの翼は端の方から少しずつ凍っていっているようで、鳥は上手く飛べなくなっていき……最後には雪の少し手前で墜落してしまった。
「……完璧」
「きゅーん……」
「……はちゅの出番は次」
雪の首に巻き付いているはちゅは、自分がやりたかったと鳴いたみたいね。
確かに対空という事を考えると、電撃で迎え撃つというのもありよね。とりあえず次ははちゅの出番らしいから頑張って欲しいわね。
「っと、到着」
「アップダウンが激しくて移動が大変だったじゃん」
「雪みたいな動きをしたら別だったんだろうけど……それはちょっと怖いからね」
「どんな意味で怖い……げふんげふん」
望月くん? 一体どうして私の方を見ながら何かを言おうとしたのかしら。
「おおう……桔梗の笑顔が凍ってるじゃん」
「ちゅりおのブレスが原因だよね?」
「流石にそれは違うんじゃないかなぁ……」
全く。何で凍った笑顔なのよ。こんなにも満面の笑みだと言うのに。
「と、それよりも! モンスターが出てきたのだから警戒を高めないと」
「……ん。ちゅん吉が周囲を見てる」
「それなら、ちゅん吉はそのまま上空から偵察ね。そういえばちゅー太を出していないようだけど?」
「……クールタイム」
なるほど。最初にちゅー太をフィールドの奥の方まで偵察に出していたのよね。奥から戻ってこさせるぐらいなら、一旦送還させた方が早かったという事かしら。
渓谷のフィールドは走破するのも大変そうだものね。それをもう一度同じ道を戻って来いと言うのは相当大変なのね。……雪は一体どんな道をちゅー太の目を通して見たのかしらね。
ともあれ、ここからは足場が悪い状態での戦闘もあるのだから、余計なお喋りをしている余裕もないかもしれないわね。
「と、その前にモンスターの鑑定も必要よね」
「そうだね。ただ冬川さんが倒しちゃったからなぁ。次に期待かな」
モンスターの属性は風か雷だろうと予想している。そしてソレは間違いないとも思っているのだけど、確証は欲しいものね。だから鑑定はしっかりとやって貰わないと。
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