建築開始!
女子達がスマホをアップグレードした次の日。
俺は対蜘蛛用の秘密兵器を考えつつ、作り出した石レンガを積み上げていた。
「一つ積んでは安全のため、一つ積んでは精神安定のため……」
何とは無しにそんな事を口ずさみながら、石レンガを規則正しく積んでいく。
そして積んだ石レンガを固定するためにと、錬金術で漆喰を作り出している。
漆喰。材料自体はそこら中に有るからなぁ……日本ではホタテの貝殻を焼いて作っていた歴史がある〝消石灰〟と骨材(ウサギ産)に海藻ノリなどなど。海が傍でよかった! と思える内容の一つだ。
貝殻自体は何でも良いから集めて、錬金術でポン! と作れるので焼く必要なんて無いけどな。
ただ口ずさんでいるモノのネタがネタなので……此処はどこの河原なのかとか、呪術でもやっているのか? と、傍から見ればそう感じてしまうだろう。
とは言え、この場に居るのは俺と女子生徒4名のみ。しかも、女子達は適切な距離を取ってくれている為に、俺が何を言っているかなど聞こえていないはず。
作業をするには最適な空間といえるだろう。
そんな事を考えていると、スマホから〝ピロン〟と言う音が響いた。
ん? 何か業務連絡だろうか。スマホをポケットから取り出して会議チャットをチェックしてみる。
『大仕事をしてみるみたいですが、何か手伝えることはありますか?』
そう書かれた一文をみて、俺は思わず「ふむ……」と唸ってしまった。
労働力は欲しい。しかし、接近はしてほしくない。だが、壁さえつくれば安定した睡眠がとれるから、さっさとこの建築作業を終わらせたい。そんな思考が脳内でシーソーゲーム中。
当然こうなるとお約束な奴等が脳内に現れ……。
『景よ……彼女達の願いです。ここで助けた対価を払ってもらうのです。さすればシステムによる詐欺で騙された事も、少しは元手が取れるでしょう』
『ケッケッケ! 前にも言っただろう? 恩をお前は売ったんだ。なら返してもらうのが筋ってもんだ』
……あれ? こいつら手を取り合って同じような事を言っていないか? 実は仲が非常に良いのではないだろうか。
『『そんな事あるか!!(ありません!!)』』
……息もぴったりじゃないか。
とは言え、確かに何か動いて貰うのは有りだろうというのは理解できる。ただ、その為に接近するのが嫌なだけだ。
さて、どうしたものか……と考えていると、再度〝ピロン〟とスマホが鳴った。
『提案が有ります。望月君がやっている作業を私達が代わりにやるというのはどうでしょうか? そして、望月君には素材の生産をやって貰えればと。それに私達は4人います。ですので足らない材料があるなら取りに行く事も可能です』
なるほど。確かに今俺は石レンガを積み上げているけど、周囲を全て囲うにはまだまだレンガの量が足らない。そして、当然だが漆喰の量も足らないだろう。
それに、それを作る為の石も海藻も貝殻もまだまだ足らない。まぁ、完璧な拠点を作るのであればという前提が付くが。
とは言え、妥協して木や竹で壁を作ると言うのはなぁ……防御力的な面で不安が残ってしまう。それならやはり、全てを石と漆喰で作るのが良いだろう。
『でしたら、欲しいのは石と海藻と貝殻を。壁を作る作業自体は、どの範囲を囲っていくか地面に印をつけておきますので、それが終わり次第作業開始という事でどうでしょう』
『了解しました。では、素材の回収を優先しますね』
実に女性陣が協力的である。まてまて、この程度で人を信用するな。もしかしたら、出来上がった拠点を乗っ取るつもりかもしれない。
うん、此処は彼女達の居住区もしっかりと縄張りを張っておくとしよう。
「いつも割を食うのは俺だからな……なら、その予防をしておかないと」
壁を作る範囲に縄を張って行く。
木杭を角になる場所へ差し込んで、木杭に縄をかけて違う場所へ刺した木杭へ。こうして、しっかりと張られた縄張りを見ると……見事な四角形である。
そして、石レンガを組み上げて行けば、当然縦方向にも同じように四角形で形成される訳で。
「見事な豆腐建築になりそうだなぁ……」
クラフト系のゲームで建築を行えば、誰しも最初に作るであろう豆腐建築。
まさかリアルに自分が作り出すとは思っても居なかったが……正直、これが一番楽なのだからな。
時間的にも材料的にも、これが一番コストが軽いんだ。凝った建築をするのなら、もっとこう安定した後に行うべきである。
なんて、心の棚にセンスを全て棚上げして、俺は豆腐でもかまわん! と意識的にバリアを張る事にした。うん、この結論は色々な面から見てどうしようもないんだ。
「しかし、女子はレベルアップをしなくて良いんかね? やるつもりがないなら、今日も時間の合間を見てウサギ狩りをと思うんだが……」
ウサギ狩りのレベリングについて、情報を伝えたのが昨日の話だ。
女子達もまだまだウサギを狩る事に抵抗を覚えているのかもしれない。であれば、仕掛けた罠などが実に勿体ない話でもある訳で、女子が行動しないのであれば俺がウサギを狩りたい。
しかしレベルアップは必要な事でもあるので、出来れば彼女達にもウサギを狩っておいて欲しい。
折角ジョブを手に入れたのに、一レベルも上げないとか宝の持ち腐れだからな。
とりあえず、狩れないという気持ちも分かる事はわかるので、まずは〝今日〟どうするかを聞いておく必要があるだろう。
『昨日は悩んでいたようですが、ウサギ狩りについて心は決まりましたか?』
とりあえず、こうやって打っておけばそのうち反応があるだろう。
もし反応が返ってこないなら、その時は考えるのも無理だったと判断して、俺がしっかりとウサギを狩らせてもらう事にしよう。
俺自身もまだまだレベルアップをしたいからな。
ただ、今日は溜め込んだ素材を使って建築を少しでもやっておこうと思ったから、彼女達へウサギを譲るつもりではあったけど。
……彼女達と俺の拠点に壁を作っておきたかったからな。
姿が見えない、声が少しでも遮断される。これって、俺にとっては割と重要な事だし。
「さて、とりあえず連絡が返ってくるまでは石レンガや漆喰を作っておくとして。あぁそうだ、石レンガと漆喰を俺の集積所から移動させておく必要もあるか」
俺が作業をしている場所と石レンガなどを置いてある集積所はすぐ隣だ。そうである以上、彼女達が作業を開始した際に、石レンガや漆喰を取りに来ると必ず俺との距離が近くなってしまう。
そう考えると余りにも……恐ろしい。うん、絶対に錬金術をミスする自信があるぞ。
なので、石レンガと漆喰は作業を行う場所のすぐ近くに移動させておくべきだろう。
そうしておけば俺はダメージが無い。彼女達も作業が捗るとお互いにプラスでしかない話だ。
そういう訳で、俺は建築用素材置き場を用意し、其処へ素材をせっせと移動させていった。
正直、大量の石レンガを運ぶのは相当な労力だったけど、身体的疲労の方が後々の事を考えると楽だからな。
「てか、大量に石レンガを作ったと思ったけどまだまだ足らないんだな」
縄張りの範囲を見ながら、素材を移動させていると余計にそう感じてしまった。
これはまだまだ材料が足らない。恐らく彼女達も集めて来てはくれるだろうけど、ぶっちゃけ焼け石に水と言える状況だ。
これは、少し手抜きをするか? いやいや、あの蜘蛛を見て防衛力は高めておこうと判断しての石レンガだ。ここで妥協をするわけにはいかない。
しかし、それでは素材が全く足らない……さて、これは一体どうしたら良いモノか。魔法である程度の水増しが出来るが、それでも全ての壁を完成させるには相当時間が必要になりそうだ。
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さて、遂に建築を開始した訳ですが……えぇ、素材が足らないのです。そもそも、石材を集めるのが大変と言う事もありますので。
あの、森を抜けた断崖絶壁から石材を取る事が出来ればと言う話ですが、残念ながら労力に時間が見合っていない。結構距離が遠いですからね。