これを会話と言っても良いのだろうか?
錬金術でどんどんとアイテムを作って行く。それが今俺の出来る事だ! と考えて作業をしていたら、何時の間にかに日も暮れ始めていたらしい。
ただ、その事に気が付いたのは暗くなったからと言う訳では無く……俺の後頭部へスコーンと何かが突っ込んできたからだ。
「っと、コレは……」
頭に当たった物を確認すると、それは俺が彼女達へと飛ばした紙飛行機。ただ、真っ白な部分は一切無く黒い文字の様なものが書かれていた。
俺は紙飛行機を拾い上げてから、その紙飛行機を広げる。
一枚の紙へと戻ったソレには、何やら文章が書かれており……。
「何々? 〝地図通りに進めば……〟って、これは俺が書いた内容じゃないか」
どうやら俺の書いた紙をそのまま使ったらしい。
と言うか、コレは反対側を俺が読んでしまったと言う事なのだろう。そう考え、クルリと紙を回転させて裏側を見て見る。
するとそこには、でかでかと書かれた4つのID。そして、そのIDの下には少し丸っこい文字で〝私達のリンクIDです〟と書かれていた。
あぁなるほど。彼女達は俺が直接会話をする事をしないと考え、このIDを書いた紙を寄越してきたようだ。
彼女達もまた、何か必要な事を伝えるにしても、今みたいに紙飛行機でやり取りするのはどうかと考えたんだろうな。実際俺も、後でIDのやり取りをするつもりではあった訳だし。
話が早くて助かる。そう考えながら、俺はスマホを取り出してから〝リンクアプリ〟をタップした。すると、スマホの画面にはよく知っているけど、リアルの知り合い相手に殆ど使った事の無い連絡用の画面が表示された。
なんだろうか。俺がこんなアプリを使うなど考えた事なんて無かったんだが……きっとコレも、こんな状況下だからなのだろうな。
元々使っていた時も、それは画面の向こうに居るだろうゲームの知り合いとかだけだったし。
ピッピッとIDを入力して行く。すると、フレンドリストに彼女達のIDが登録され……うん、フレンドと言う言い方に違和感を覚えるが、それはシステムの問題だからぐっと我慢をしよう。
登録された彼女達の名前が表示された後、ピコンと言う音と共に会議チャットのページが画面に現れた。
『業務連絡用にと作らせていただきました』
そう書かれた文字をみて、俺は『了解』とだけ返しておいた。
とは言え、伝えるべき事は幾つかある。なので、その内容を脳内にて文章にしていっていると、またピコンと言う音が響いた。
『情報ありがとうございました。私達四人ともジョブにつく事が出来ました。それと、夕食もありがとうございます』
お礼の一文が書かれていた。
何だろう……〝ありがとう〟と言われたのは何時ぶりだろうか? いや、ゲーム上では何度もお礼位言い合っているのだが。
現実で、少しは顔を見た相手で、ただ必要な事をしただけなのにお礼を言われた。……駄目だ、記憶をさかのぼっても全く検索に引っ掛かる内容が無い。
ちらりと彼女達の方を見る。
すると彼女達は、四人そろってペコリと頭を下げた。
あぁ、本当にお礼を言っていたのか。いや、そうする必要があるというのは分かる。やって貰った事にお礼を言うのは礼儀だから。
でも、さっき記憶をさかのぼった時の事を考えると……。
「礼儀って何だろうな? 家族にも近所の人にも学校でも、そんなの見た事無かったなぁ」
実際には、〝俺以外〟とのやり取りの際にやっていたのは見た事が有る気がする。……と言うか、俺がやった事は全て〝違う人〟がやった事になって、俺がその言葉を言われた記憶が無い。
あぁ駄目だ。こんな事を考えたら生きていく為のモチベーションが下がってしまう。
今は、彼女達が〝俺〟に対して〝礼〟を言った。この事だけに焦点を当てよう。
すーはー……と、一度だけ深呼吸をする。
少しだけ落ち着いた気がして来たから、俺は彼女達のお礼の文に対して〝気にするな〟と一言だけ返しておいた。
しかし、彼女達もジョブにつく事が出来たのか。
一体どんなジョブについたのか気にならないと言ったら嘘になるが、今はそれよりも他に伝えるべき事が有る。
ポチポチとスマホをタップして文章を作って行く。
『ステータスを見たらわかるが、ジョブにはレベルがある。そして、レベルがある以上レベルアップが必要だ』
長文になるが、そのレベルアップの方法を俺は会議チャットに投下した。
ただ、その内容が〝ウサギ狩り〟という時点で、彼女達にクリア出来るかどうか疑問を覚える所ではある。
俺もなぁ、あれだけ挑発的でウザいウサギでなければ、狩りをする気になどならなかっただろう。それだけウサギは見た目〝だけ〟なら可愛い存在だったからな。
とは言え、この地で生きていくにはレベルアップが必須だ。
巨大な蜘蛛が居たというのもあるが、あの蜘蛛はまだまだチュートリアル的存在だと俺は考えている。……ゲーム的に言うなら、チュートリアル用ボスとでも言えば良いだろうか。もしくは、一番最初の街から出る為のフィールドボスとか、最初のダンジョンのボス的な存在。
「絶対にもっと強い存在も居るだろうからな」
この島を脱出するにしても、この島で生きて行くにしても、レベルを上げて強くなっておかねばならない。その為の第一歩がウサギ狩りなのだけど。
女子達の雰囲気が何やら戸惑ったモノになっている様だ。ぼそぼそと、四人で顔を突き合わせながら会話をしている。
恐らく、ウサギを狩る必要があるという事に抵抗感を覚えているのだろう。いや、それとも命を狩る事に対してだろうか?
人……と言うか日本という環境で育っていると、魚や虫以外の殺生に対して忌避感を覚えてしまうのは仕方のない話だから。
正直俺は、虫も魚も動物も、そして植物だって同じ命だろうと思っているけどな。だからこそ、奪った命は全て有効活用させてもらう。感謝を告げながら。うん、ウサギ美味しい。
とは言え、俺の考えってある意味異端に近いモノがあるんだよなぁ。
人も、蚊も、花も、米や麦も、犬猫も、蛇も全て同じだって考えだから。まぁ、それを理解してくれなどとは言わないが。
一般的に言えば、彼女達の反応の方が正しいんだろうな。ウサギを狩るなんて出来ないと思ってしまうのが。
ただ、それでもこの地では必要な事だ。
食料的にもレベル的にも、無理などと言っていられる余裕などない。それに……ここのウサギは自然と湧いてくる存在でもある訳で。
『ゲームみたいに湧いてくる存在だから、普通のウサギとは違う』
この一文があれば命を奪うという行為に対して、少しは予防線を張る事が出来るだろう。
ぶっちゃけ、心の棚上げ程度でしかないのだが。それでも、精神的なダメージは軽減が出来る。
ただ、長々とこの話だけで引っ張るのもよくない話。どんどん彼女達の思考もドツボに嵌って行くだろうからな。
なので俺は地図アプリに記入した〝トラップゾーン〟や〝ウサギの巣穴〟に〝蜘蛛が居る場所〟のデータを共有しておく。
やり方は単純で、〝リンク〟と〝マップ〟のアプリは連動しており、マップデータをリンクで送信するだけだ。
『このデータは登録しておいて欲しい。危険地帯や狩場などの情報だから』
『助かります。本当にありがとうございます』
ピコンと言う音共に、お礼の一文の下には〝ありがとー!〟と言う文字を掲げながら頭を下げる可愛いマスコットのスタンプが。
このマスコットがウサギっぽい見た目なのは、システム側の嫌がらせだろうか? とは言え、早速とでも言えば良いのだろうか。彼女達はこの〝リンク〟を使いこなし出しているな。
うん、折角だから此方も返しておこうか。どういたしまして! のスタンプは……っと。
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遂に交流開始です。……交流と言って良いのだろうか?
とは言え、景はネット上であればある程度のやり取りも出来る訳で……ここから頑張って行って欲しいところですね。
そして、景の価値観や以前何か有ったかを少しだけポロリ。とは言え、本当にまだまだ少しの情報です。