レベルアップの可能性
レベリングの事で頭を悩ませる俺だが、幾らウサギで考えたところで必要な経験値と言うのは変わらない。
なので、此処は新しい獲物を狩るという事も考えつつ、自分が出来る事を増やしていく事にする。
とりあえず、最初にやるべきはスキルポイントを振る事だ。
そんな訳で、俺はスマホを使って錬金術にポイントを割り振った。
――――――――――――
錬金術(初級)
◆◆◆◆◆◇◇◇◇◇
精密さが少し向上しました。
――――――――――――
……精密? 一体、精密とはなんなのだろうか。
いや、精密の意味が分からない訳ではない。作業を行う際に、細かな作業を自分が考える様に出来るようになる事なのだろう。
ただ、その細かい作業とは何ぞや? という話だ。
錬金術における細かい作業。
乳鉢でゴリゴリと粉末にしたりする作業だろうか? 鍋の中を丁寧にかき混ぜる作業の事を言うのだろうか? 正直、ただ精密さと言われたところで何のことかのかがさっぱり分からない。
もしかしたら、全ての精密さが上がったと言う事なのだろうか? ゲーム的にいうならDEXの能力が上がった的な感じで。
そうなると、他の事を行う時にもその能力が反映される可能性がある。
例えば、石を投擲する際にコントロールが良くなるとか。料理をする時に綺麗な飾り包丁が出来るとか……いや、これはこの状況下だと出来なくても良いが。
「とりあえず、これまた試す事が増えたけど、もし基礎ステータスが上がったとなれば相当ありがたい話だな」
器用になり、細かい作業が出来るようになる。これだけでも、かなりの武器になるのは間違いない。
モノづくりにおいて、精度と言うのはかなり重要な内容だ。1ミリでも誤差があれば、それはもはや不良品と言っても過言ではない。
もし橋や道の設計で1ミリの誤差が出たらどうなるか……考えなくても恐ろしい事はわかる。
設計図上での1ミリ。だけど実際にそのズレのまま物を作れば、道なんかだと人様の家に道がぶち当たるなんて事もある訳で。
まぁ、錬金術で作るモノにそこまでの精度は求められないだろうけど……錬金術で作れそうなもので誤差が不味いとなると、武器とかだろうか?
「刀身と柄に1ミリの誤差がとかなったら面倒だしなぁ」
刀身が柄に嵌らないとか、隙間があってがたがた揺れるとか。そんな事になりかねないからな。一応揺れる方は目釘である程度どうにか出来そうだけど……専門家じゃないから詳しくは分からないんだよな。
日本刀とか、家に有った訳じゃないし。
とりあえず、色々な作業をしつつ、この精密さと言うのがどういったモノかを知って行く必要があるだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
日が傾き始めた。
俺は拠点に戻った後、まずはウサギの処理および燻製準備をさくっと終わらせた。保存食は大切だからな。
それから、コツコツと石レンガや道具を作りつつ、レシピの確認をしていった。そして、レシピの中には実に興味を惹かれるモノもあった。
「これ、アイテムチェストかな? 作り方は簡単みたいなんだけど」
レシピブックの中に掛かれていた箱のレシピ。
ただ、材料にボックスフィッシュの箱を使うという事もあり、これは普通の代物ではないという事が分かる。
ボックスフィッシュは俺が最初に魚用トラップで捕まえた魚だ。
体内に専用の保存が出来る箱を持ち、その中に入っているもの次第でボックスフィッシュの特性が変わるとかなんだとか……現状一匹しか捕まえていないので、変異した存在は見ていない。
ただ、そのレシピには……。
「ボックスフィッシュの箱が大量に必要かぁ。これはまた面倒な」
女子達が釣って来た魚の中に、ボックスフィッシュは含まれていなかった。
と言う事は、ボックスフィッシュ自体がレアな魚なのか、もしくは俺が捕まえた奴がハグレだった可能性が高い。
レア魚であればまだ捕まえる事が出来る可能性もあるが、もしハグレなのだとしたら……ボックスフィッシュの生息地は別の場所なので、此処で釣り上げるのはまず無理だろう。一匹とは言え見つかったのは本当に運が良かった。
しかし、そんなボックスフィッシュの箱。
先ほど口にしたように、かなりの数が必要という事はそれだけ狩らねばならないという訳で。
このアイテムチェストを作ろうと思えば、奴等の生息地を探さねばならない可能性がある。
「レア魚であってくれたら良いんだけど」
はぁ……と大きくため息を落とす。
こんな便利な道具を作れるというのに、素材が足らずに断念するとか。痒いところに手が届かない気分で、ものすごくもどかしい。
あぁ、作りたい作りたい作りたい作りたい……今すぐ材料を集めて作ってみたい! そんな気持ちで自分自身が押しつぶされそうになる。
とは言え、どう頑張っても素材を集める方法と言うのがネックになる訳で。
「一体どうやって魚を探せば良いのやら……海に潜るのは危険だろうし」
ボックスフィッシュなんて存在が確認出来た海だ。一体何が潜んでいるのか……そんな場所に何の対策も無く潜るのは危険極まりない。
なので俺に出来る事が有るとすれば、竹を大量に使って魚用トラップの数を増やす事ぐらいだろう。
何、魚の餌は十分用意できる。
ウサギの内臓を使った団子なら、まだまだ生産出来るからな。今日だけで9羽も手に入れたからな……うん、運よく帰宅時にウサギがまた罠に掛かっていたから、1羽獲物が増えた。
そして、そんな9羽分のウサギを解体したのだから、その分内臓もたっぷりとある。
「う●こをペットボトルに入れて小魚を獲る動画を見た事があるけど、それに比べたらウサギの内臓を使った餌団子は健全だよなぁ」
ビジュアル的にも食料的にも。
確かに食物連鎖と言うか、実にエコな餌ではあるんだけど……自分の捻り出した物を使った餌で捕まえた魚を食べるとか、ちょっと抵抗感あるよな。いや、肥溜めとかあるから、肥料になるとかってのも分かるんだけど。
「あ、食料と言えば女子達って今日のご飯……」
彼女達はスマホのアップグレードの為に、あの石碑がある場所まで行っているはずだ。
そして、俺の時とは違い彼女達には手荷物など無い。……逃げて来たみたいだし、何処かで捨てて来たのだろうと思われる。
そうである以上、彼女達の食糧は現在皆無と言えるだろう。
もしかして、昨日釣った魚をいくつか取ってあるとかしているのだろうか? いやでも、戻って来てからそれを調理する時間があるかどうか。
それに、俺一人で行った時よりも時間が掛かっているみたいだしなぁ……。
何がクエスト失敗の条件になるか分からない。
食料が無いからミッション未達成になってもおかしくは無いからな。何せ、女子を助けろと言うミッションな訳だし。
「とりあえず、ココナッツと焼き魚でも彼女達の寝床に置いておくとするか」
これだけやったらそろそろミッションクリアになりませんかね? と思いながら作業をする。
ココナッツは石をぶつければ落ちて来るからな。早速石を投擲にしてココナッツを落としてみると、そこでふと気が付いた。
「あれ? 少しコントロールが良くなってる」
と言うのも、ココナッツを狙って投げた石は大抵何処かへ逸れる。だから、しっかりとココナッツの中心を狙って投げているのだけど、今回はその中心付近にクリーンヒット。
哀れココナッツは、投擲された石によりボコッと穴が出来てしまい、其処からココナッツジュースをだらだらと垂れ流している。
此処から考えられる事。
コントロール以外にもパワーも強化されているのではないだろうか? と言う事だ。
「もしかして、レベルが上がったからか?」
だとすると、精密さが上がった事で何が変わったかを調べる事が出来ない! なぜなら、レベルアップで器用さが上がっている可能性も有るからだ。
ヤバイ……もっと毎日詳しく調査をしておくべきだった。いや、レベルアップした時点で色々と違いが無いか計っておくべきだった。
とはいえ、何も悪い事ばかりではない。
レベルアップで身体能力が上がるのであれば、レベルを上げて行けばあの蜘蛛を退治出来る可能性も出て来ると言う事だ。いや、もしかしたら既に戦い方さえ考えれば出来るかもしれない。
「うん、ちょっと面白くなって来たな」
さて、一体どうやって蜘蛛を退治しようか。
きっとあいつを倒さないと次にいけないだろうからな。とは言え、如何にレベルアップで身体能力があがったとしても直接戦闘は出来ないだろう。
ここは、錬金術師なら錬金術師らしい戦い方を考えようじゃないか。
ブクマや評価などなど、ありがとうございますだぁぁぁぁぁ<m(__)m>
レベルが存在し、それが上がると言う事は! というお話。
まだまだそこまでレベルがアップしていない事と、錬金術師を選んだことでパワーとかスタミナといった、何かと解りやすいステータスが上がりにくい事もあって、彼は今までレベルアップの恩恵に気が付いていませんでした。(おいおい
まぁ、色々と準備や充実化などを考え過ぎていたと言うのも有りますがw