何から手を付けるべきか
ウサギに対して「目にもの見せてやる!」と心を決めた後、当初の予定通りに軽く周囲を見渡してみた。
そして思った事だが、それは「なんだ此処は!」と言うモノだった。しかも、少し前に木々を見た時よりも強く激しい動揺込みだったりする。
何故動揺したのかだけど、それは、ある程度進むと「ここから先には絶対に行きたくない!」と、強い危機感を覚えて足が絶対に前へと進まなくなる。そんな場所にぶつかってしまう。
違う方向へと進めばマシになるのだが、逆方向へと一定距離進むとまた同じような感覚に陥って進むことが出来ない。
これは、間違いなく何かに誘導されている様にしか思えない。
俺にはそうとしか結論付ける事が出来なかった。
整備されたように生い茂る木々。一定間隔進むと絶対に進むことのできなくなる空間。どう考えても、何者かの思惑が反映されているだろう。もしそうでなければ、一体この場所は何なんだ! と言う話になる。
「しかし、正面は海で左右は一定間隔進むと見えない壁に阻まれる……後は木々の方だけか」
これはある意味気が楽になる話ではある。何せ、後方にある木々ゾーン以外には人が居ないという事なのだから!
もし此処で誰かが居ようものなら……下手をすれば、密閉された空間でわらわらと群がる人々の中に居なくてはならなくなる。そりゃもう、俺にとっては地獄と言える日々の始まりだ。
ただ、誰も居ないという事は全て一人で何とかしなくてはいけないという話でもある訳で、作業効率は悪くなるのもまた事実。
贅沢な話になるが、俺の許容範囲内である俺以外に三人から四人ほど居てくれたら楽だったかもな……と思わなくもない。
とは言え、居たとしてもそれで意思疎通というか連携が取れるかどうかは別問題だが……。
「一緒に作業する相手次第では逆に効率が悪くなるからな……というか、俺にとって相性がいい人間なんて殆どいないし」
となると、やはり一人と言うのが一番良い状況だったのかもしれない。とは言え、どちらにしても居ないのだから今それを言っても仕方がない。
なので今は次の探索を開始するとしよう。
「ただ、次はこの木々の中なんだよなぁ……」
木々の間を進むとなると、それだけ危険度は一気に上がる。
何せどんな生き物が居るのかもわからないからな。ハチの巣だったり、蛇だったり、さっきいたのは兎だったが野犬や熊が居ないとも限らない。
そんな場所で、視界も制限された状況となると、狩人的なスキルを持っていない俺には難易度が高すぎる探索という事になる。
とは言え、調査しなければどうしようもないのもまた事実。
この場所に留まると言うのなら別だが、それだと元の生活に戻るどころか生きる事すら出来るか不明だ。
確かにココナッツなども有るから食べ物に直ぐ困るという事は無いだろうが……いや、ココナッツだけだとお腹を下す事もあるって話じゃなかったか? となると、他の食べ物も間違いなく必要になる訳だけど。
一応ヤシの芯も食べる事が出来るんだっけ。ハート・オブ・パームとかって言って……確かヤシの芽の内側だったと思うけど。
竹も有るからタケノコもあるだろう。そう考えると食物繊維は問題が無いのか? 必要なのは動蛋とかだろうか。
「ただ、ウサギを狩るにもそんな技量ないし、そもそも解体方法なんて知らないぞ」
捌いたことがあるのは魚ぐらいだし、一応海があるから釣りでもやれば魚の確保が出来るかもしれないが。
それでも、やはり肉は欲しい処ではある……とは言え、どうするよ? と言う話でもある。
「うーん……こう、動物用のトラップを仕掛けるとか? ウサギの通路に竹細工で何か作れば……」
竹細工で魚用のトラップ篭も作れるかもしれない。何が手に入るかは微妙だが……最悪餌はどうとでもなる。うん、餌は自前で……なんてモノをみたことがある……。
いや、一応砂浜でも掘り返せば何か虫でも居る可能性は高いが。
兎に角! どちらを優先するかだな。
食料の確保か、木々の方の探索か。……あ、一応拠点を作るというのも必要か。
「拠点作りか……木や竹は十分に有るから案外何とかなるかもしれないけど」
なるべく地面では眠りたくないからな。地面に寝そべるという事は、それだけで命の危機があると言える。
何せ其処に寝転ぶという事は虫たちと同じフィールドで寝るという事なのだから……そりゃ、もしサソリやら火蟻とかが居たらそれだけでアウトだ。
その危険性を少しでも減らす為にも拠点は必要だろう。
「ハンモックでも作って、ヨモギでも燻せば危険度は減るはず」
最悪それで何とかする。でも本当なら屋根のある場所を作っておきたい……が、ソレを一日で如何にか出来る訳がない。
一番良いのは、何処かに何も住んで居ない洞窟でもあって、その中に拠点を作る事が出来ればと思うけど……ここからだと何も見えないからな。
もしかしたら、木々の先に何か有るかもしれないけど……怖いんだよな。この森林の中を無策で進むのは。
「せめて何かこう、武器になるモノを作ってからじゃないと」
簡易な竹の槍もどきだけで如何にかしろというのは難しい話だ。出来ればこう、もっと威力のある物を作っておきたい。
しかも木々の隙間を縫うように進む必要があるからな……槍だとリーチが長すぎるんだよ。
「とりあえず石でも集めるか。何か作る時に使えるだろうし」
大小様々と言える石を集めておけば、作れるものは沢山あるはずだ。
竈に石斧に、最悪ただ石を投擲するだけでも武器にはなる。なので集めておいて損はない。それと同時に、枝集めもしておくべきだろう。火を熾すには必要だしな。
そんな訳で、俺はフラッグを立てた場所を収集所とし、其処へ石や枝を積み上げていく。
そして俺は作業をしつつ、他の人達はどうしているのだろうか? と考えていた。
俺だけが来たなんて事はあるまい。確かにバスなど見える位置には無かったが、こんな不思議空間だからな。俺だけ放り出されるというより、全員バラバラに放り出されたと考えた方が良い気がする。
もしそうであるなら、確実にこの地のどこかに居る訳で……下手をしたら何処かで遭遇するなんて事もあるだろう。
パキッと枝を折る。
もしそうなった時、俺は彼等とどういう距離や関係になるのだろうか。
不可侵? 敵対? 友好? 個人的には不可侵と行きたい処だが……もし彼等が法や秩序から解き放たれていたらと考えると。
バキッと枝を圧し折る。
「うん、まだ仮定の話だ。今は少しでも安全と言える場所を作る事が先だな」
とりあえず棚上げ。
運が良いのか悪いのか、この場に俺は一人だし、左右の海辺を進む道は、途中で何かによる意識的な壁が有って進むことが出来ない。なので今すぐ誰かと遭うなんて事は無いはずだ。
「目下目標は、夜を無事に過ごせる場所を作る事だな……後は食料集めか」
何時救助が来るかもわからないからな。
なので此処は生存する事を最大目標とし、行動するのがベストだろう。