入室時にはノックをしましょう。ただし、やり方は過激ですが
クリオネにはブレスの範囲が広範囲になりすぎないようにお願いをした。これは温度が下がる範囲を制限し、巣の中に居るスズメバチ達が外の異変に気が付かないようにという狙いだったりする。
そんな訳で、いきなり冷え始めた空間に違和感を感じたホバーリングをしているスズメバチ達が、「一体何事か!?」といわんばかりに周囲をキョロキョロと見渡しているけど……。
「クリオネが居るのはヤツラの上なんだよなぁ」
「周囲を見渡しても何もないよね」
スズメバチ達もまさか頭上を取られているとは思っていないのか、本当に前・左・後ろ・右と回転をしているんだよね。偶に足下をみるスズメバチも居るけど……残念、答えは下じゃないんだ。
しかしクリオネも上手いことやるなぁと思う。何せ、上に居ることが直ぐにばれないようにと、ブレスでスズメバチを直接狙ってはおらず、ブレスが直撃している位置は地面なんだよね。
少しぐらいは掠るスズメバチもいそうなものだけど、そこはしっかりとブレスの範囲を絞って調整しているみたい。なんて言えば良いのかな? シャワー付きのホースを拡散型から極太型にしたって感じと言えばいいかな。
ともあれ、そんな絞ったレーザービーム状のブレスが地面にぶち当たり、そこから周囲に冷えた空気が拡散されているんだよね。
「だからこそ、下を見てしまうってのは分からなくはないのだけど」
「しかもあのブレスは目視出来ないから、かなり面倒じゃん」
ブレスが視認出来ればまた違ったんだろうけどね。
もしこれが炎のブレスだったら……うん、直ぐに上から来ているぞ! と、バレてしまう訳だし。本当、この氷系の魔法を固体ではなく気体で使うというのはチート過ぎやしないかな。
「火系も熱として使えば同じような事が出来そうではあるわね」
「相手が干からびそうだなぁ……ミイラでも作るつもり?」
「それで私達がよく知っているミイラができるという訳ではないのだけど……」
ミイラを作ったところでどうするんだ? って話でもあるけどね。
あ、でもミイラって昔は〝薬〟として大量に売買されていたんだっけ? 確か日本でも売り買いされていたんだとか。うん、実に恐ろしい。
でもモンスターのミイラなら薬になるかも? なんて少しは思ったけど、よくよく考えたら、そもそもモンスターはミイラ化なんてしないよね。ドロップ化して消えてしまうからね。
ともあれ、そんな会話ができるぐらいには現状余裕があったりする。
何せあのスズメバチ達は全くこっちの存在に気が付いていない。「この寒さの元凶は何処だ! 探せ!!」とでも言い合っているのか、お互いの顔を見た後に再び周囲を確認するという作業を行っているだけ。
そんな時間の使い方をしているものだから、どんどん彼らの活動できる温度ではなくなって行き、じわりじわりとスズメバチ達の動きは鈍ってしまうわけだ。
後はもう簡単な話で、此処に来るまでと同じやり方で止めを刺して行くだけ。うん、数が多かったし巣も近いだろうから色々と警戒はしたものの、割とあっさりと攻略出来てよかった。
「とは言え、この蜂たちは雑魚よね」
「……本命は巣の中」
蟻の時の事だけど、巣の中にいるヤツって外に居るヤツよりも強かったからね。なので多分だけど、このスズメバチも法則は同じでいいと思う。
あれだあれ。ただの兵隊と近衛兵的な感じで、中にいるのはボスを守るエリートなのだろうね。
さて、そんなスズメバチ達の巣だけど、ここからよく分かる位置に陣取っている。
見れば分かるというか、木と木の間に大きな穴がぽっかりと空いているんだよね……多分アレが巣へと繋がるトンネルじゃないかな。
「あの穴の先に、よく知ってるスズメバチの巣があるんだろうけど」
「絶対私達の知ってるサイズじゃないよね」
果たして一体どれだけのサイズになるのやら……何せスズメバチって人の子供ほどのサイズなんだよ? そんなヤツラが使っている巣だ。だから穴の奥にはちょっとした建物クラスの巣があってもおかしくないよね。
うん、そう考えるとこの穴に突入するのは不味いだろう。
「って事で、先手必勝といこうか。ブレスとドライアイスとバルサ……じゃなかった、殺虫剤を一気に穴の入り口から侵入させよう」
「……ボク達は?」
「私達はとりあえず隠れておいたほうが良さそうね。中に居るのを蟻の時と同じと考えれば、相当生命力は高いでしょうから、この攻撃を耐えて外へと出てくる可能性は高いわよ。それにしても、この環境であれば焼夷筒でも良いと思うのだけど?」
「あー……そっちを使うとさ、ドロップ品が炭になりかねないから」
「そう言えばそうだったわね……ボスやボスの取り巻き相手のドロップ品とかんがえると、確保はしておきたいわね」
ドロップ品に全く価値がないと分かっているなら消し炭にしてしまっても良いんだけどね。
流石に何が落ちるか分からないから、なるべく確保はしたいんだよね。スズメバチという事は毒関連の素材も優秀だろうしね。そんなの錬金術師としては確保したいに決まっているじゃないか。
使う物の準備をしっかりと行い、俺たちは巣から隠れる事が出来るポジションへと付いた。
皆の顔を見た後に一度頷く。これが攻撃開始の合図だ。
俺はドライアイスが入ったバケツを巣があるトンネルの入り口に向けて投擲。それと同時にクリオネが巣へとブレス。
一気に入り口周囲の温度が下がっていく。
オマケと言うわけではないけど、もう少しだけドライアイスが入ったバケツを追加投擲してから、少しだけ時間を待ち、頃合いをみて殺虫剤に点火をしてからトンネルへと向かってポイっと投げ入れる。
モクモクと煙がトンネル内へと侵入して行く。
殺虫剤の煙とドライアイスの煙が混ざり合ってるなぁ。なんて事をと思いつつ、俺はウインドボールの魔法を使い、その煙がどんどんトンネルの奥へ行くように仕向けていたりする。勿論これには冬川さんも一緒にやっていたりする。
まぁ、クリオネのブレスで煙が入り口に向かっていってはいるんだけどね。後押しというやつだ。
突然凍えるような空気と殺虫剤の煙を受けた巣に居るスズメバチ達だけど、何もしないまま尽きるはずがない。
巣の中からは恐ろしいほどまでに重なった羽音が響き渡り始めたかと思えば、一気に数匹のスズメバチ達が巣から飛び出してきた。ふむ、やはりというべきか、先程までとは違うスズメバチ達だね。
「アレが兵隊達の中でもエリートというやつなのかな」
「サイズも一回りほど違う感じだね。色とか模様も獰猛さがあるよ」
スズメバチ達の色は先程よりも濃くなっていて、模様は流石に変わらないと思うんだけど……でもあれかな、少しだけ黒と黄色のラインが太くなってる? ともあれ、見るからに凶暴ですよというか危険ですよといった感じ。
そして、そんなエリートスズメバチ達の後から、更に一際大きなスズメバチがゆったりと現れた。
「……女王?」
「かなぁ。エリートさん達がものすごい気を使ってるみたいだしね」
「……てか、この状況まずくね? ブレスも殺虫剤も効いてなさそうじゃん」
いや、効いていると思う。ただ、耐えられているだけで。
何せヤツラの足や触覚を見れば分かる。不規則にピクピクと痙攣をしているみたいだからね。……という事は、今がチャンスという訳なんだけど。
「問題は何処まで弱体化しているかだよね」
「そうね。でも思った以上に数は少ないみたいよ。この数なら何とかなるのではないかしら」
中ではゴロゴロとドロップ品が転がっていそう。そんなドロップ化したスズメバチ達を盾にしながら、彼らは出てきたんだろうね。
という事は、本当に選りすぐりのモンスターって事なんだろう。エリート中のエリートとでも言えばいいかな。だから、弱っているからといって気を抜いたらアウトだろうね。
とは言え、冷えや神経毒で起きている弱体化も、時間が経てば治ってしまうだろう。だからあまり余裕がないんだよね。なるべく一気に決着を付けないと。
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