やり取りをする方法
いやまて、無理に直接会話をする必要など無いのでは? と考え、俺は別の方法で彼女達とやり取りをする事を思いついた。
「まずは鞄の中から紙とペンを……よし、あるな」
ガサゴソと鞄を探って紙とペンを取り出す。
そして、スマホを取り出した後に自分のIDを起動させ……って、そう言えばまだ彼女達はスマホのグレードアップをして居ないから〝リンク〟は入って無いんだっけ。
この地は電波が無いからな、元々入ってたチャットアプリなどは通じないだろう。となると、俺の考えていた計画はこの時点で崩壊した事になる。
折角顔を見せずにいられる、チャットでやり取りを行う予定だったんだけどな。
むむむ……これはやはり直接会話をしなくてはいけないのだろうか? いやいや、紙とペンがあるんだ。ここはこの紙を利用して相手に一方的ではあるが、俺の言いたい事を伝える事にしよう。
正直、それでしっかりと彼女達に言いたい事が伝わるかどうかわからないのだが、それでも直接会話をするよりはましだと言う事で、俺は紙にスマホのアップグレードやジョブについての事を書いていく。
「あ、どうやって石碑の所まで行けばいいかも必要か」
そう考え、マップアプリを起動し紙へ地図を丸写しして行く。……ただ、この移動自体は木々の中を行くというよりも、他と違って少しひらけた道のような場所を進むのだから、決して迷うハズなど無いと思う。と、追記もしておこう。
あぁ、こうしていると伝える必要のある情報が結構沢山有ったのだと言う事が分かる。
彼女達が突破して来た森の中が、実は巨大な蜘蛛が居て如何に危険なのかと言う事とか、キノコやベリーは考えも無しに口にしてはいけないだとか。
あれもこれもと追加して記入していくと、どんどん紙が消費されて行き……そこではっ!? と気が付いた。
「あ、こんなのリンクアプリが使えるようになってから伝えれば良い事もあるじゃん」
別に今必死に伝える必要の無い事も沢山ある。
逆に今すぐ教えるべきなのは、スマホのアップグレードに、森の中の道を逸れずに進むのが大切だと言う事ぐらいだ。
正直、彼女達が怪我をしようが何をしようが俺には知った事じゃないが、それでも死なれてしまうのは目覚めが悪い……と言うのは以前言った通りだ。
であれば、俺が間接的に殺しましたなんて事にはならない様にと、最低限の情報はしっかりと教えておかねば。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
情報を書いた紙を折る。それは丁寧に折り込んでいく。そうして出来たのは立派な紙飛行機だ。
後はこの紙飛行機を、こちらをちらちらとみている彼女達に向けて飛ばせば任務完了だ。
シュっと飛んで行く紙飛行機。
作り方はちょっと特殊で、ぐるぐると横回転をしながら真っ直ぐ飛んで行く折り方。なので、飛行速度も割と早いもので……。
飛んで行った紙飛行機は、運が良いのか悪かったのか、偶々違う方向を見ていた女子Bの頭へスコーン! とぶつかってしまった。
うん、俺は何も悪くない。決して狙ってやったわけじゃないしな。
ただ、そんな紙飛行機が当たった女子Bだが、頭をさすりながら地面へと落ちた紙飛行機を拾い上げた。
そして、その紙は俺が何かを書いていた物だろうとすぐに理解し、紙飛行機を丁寧にひろげていた。
「よし、これなら読んでもらえるだろう。なら後は俺は俺のやるべき事をやろう」
彼女達がその紙を読んでいることを確認した後、俺はそそくさと、女子Bの頭に命中させた事を棚の上に収納し、道具作りを再開する事にした。
時折、驚愕したかのような雰囲気で俺の方を凝視する女子……C? も居たようだが、それに対して何かをするつもりはない。
現在必要と思える最低限の情報は与えたんだ。後は自分達で考えて動いてくれることを願う。
そういえば、今日はもう遅いから行動をするにしても明日からだろう。それに、そろそろ夕飯のハズだけど……彼女達はしっかりと準備をしているのだろうか?
何やらちらちらと俺の方を見たり会話をしたりして、夕飯の支度など全くしていないと思うんだけど。
「ま、いいか。魚を確保しているはずだし、こっちはこっちで美味しく肉を食べるとしよう」
そう言う訳で、ウサギを一羽だけ燻製にはせず普通に焼いていたのだが、正直味はソコソコと言うレベル。
いや、味自体は昨日食べたのと大差ないはずなんだけど、あれかな? 二度目だから少し慣れたのだろうか、それとも鑑定結果を見てしまったが為に、脳内で変な修正がされているのかもしれない。
ただ、確かに昨日食べた時は久しぶりの肉と言う事や、空腹だったと言う事、初めて狩りをして手にした獲物と言う喜びもあって、食欲や味覚がかなりブーストしていたかもしれない。
美味しいは美味しいんだぞ? ただ、昨日程の感動が無いと言うだけだ。
しかしこれは、食の楽しみを増やすためにも、錬金術のレベルアップは早急に行う必要が有るかもしれない。
最低品質でも不味いなんて事は無く、美味しいとは思えるレベルなのだ。ならこれが、低品質や高品質へと上がって行った時、一体どんな味になるのか気にならないはずがない。
焼いた肉をむしり取って口の中へと放り込む。
モグモグと咀嚼していくと……うん、やっぱり美味しいは美味しいんだよ。何かでウサギは可愛い味がしたなんて言ってた人がいたけど、確かにそんな気分になる。
ただ、最低品質でこれなのだ。これは本当に今後のレベルアップがとても楽しみになって来る。あぁ、早くレベリングを行いたい……そんな感じで気分が高揚していく。
ただ、ちょくちょく感じる視線がそれに水を差しているんだけどな。こう、頭からバケツで水を被ったような。
気になるだろう。話を聞きたいだろう。
なんでこんな手紙を? とか、そのお肉は何? とか。でも、俺の都合で悪いが、俺は君達と会話をするつもりなど無い。ってか、出来ないんだよ……。
紙に書いたような長文レベルの会話をすると、間違いなく俺がパンクしてしまう。倒れるか、吐くか……まぁ、接触するにしても、ちょっとした道具を渡して一言二言一方的に告げるぐらいしか出来ない。
そんな訳で、今は諦めて貰うとしよう。
何、その紙に書いたように、スマホのアップグレードさえ行えば、チャットや通話が出来るアプリである〝リンク〟がインストールされるんだ。そしたら、チャットでもう少し詳しく説明は出来るだろう。……たぶん。
と言うこと自体は、その紙に書いたんだけどなぁ……まぁ、好奇心の方が勝るのは仕方のない話だろう。
見る程度なら害など……少ししかないから、華麗にスルーと言う事で。
「てか、釣りに行った事で少しは落ち着いたのか?」
彼女達は、最初に俺と会った時よりも随分と落ち着いた様で、俺の事を怖がりながら震えていたはずなんだけど、今では其処まで震えても居ないように感じる。
近くに居ないから……と言う訳では無い。最初の接触時も結構距離を取って行った事だしな。いや、実際に震えていたかどうかは見てないけど、間違いなく声が震えていたからな。
呼吸も何だかおかしかった気がするし。
とりあえず彼女達の事は、彼女達がスマホをアップグレードさせてからだろうな。
まぁ、彼女達がソレをどうするかは別だけど……俺としては正直どっちでも良いんだけど、もしやらないなんて判断をした場合は、スキルやポイントの事などもうどうでも良いからさっさと切り捨てるべきかもな。……そしたらまたシステムがうるさそうだけど。
こんな環境だ。正直足手まといになるような存在を抱えてはいられない。たとえ報酬があるとしてもだ。
さて、彼女達は一体どんな判断をするんだろうな? ファンタジーだとか気が狂ったと判断せず、試すだけ試すぐらいの考えでいいから行動してくれると良いんだけど。
ブクマに評価に誤字報告ありがとうございます!
まさかの紙飛行機作戦(*'ω'*)
なんか昔のラブコメみたいなシーンのハズなのに……主人公が残念すぎてラブコメには発展しておりませんw
まぁ、そもそも書いたのはラブレターでは無いですしね。言ってしまえば業務連絡みたいなものですから。