戻って来たみたいだけど
〝鳴子〟の準備も終わった。海側であれば、砂浜を歩く音で察知出来るからそちら側は全く問題など無い。
これで、夜はさらに安心して眠る事が出来るだろう。
因みに、燻製にする準備だけども、肉を漬けるのに時間を掛けずとも錬金術でなんとかなるんじゃね? と後から気がつき、錬金鍋に入れてまぜまぜしてみれば……うん、しっかりと燻製をする前段階まで出来ていた。
なんだろうなぁ。少し考えればわかっただろうにと言う話なんだけど、まぁそのお陰で〝鳴子〟を作り仕掛ける時間が出来たからヨシとしよう。
では、後は燻製用の箱の中で肉を吊るして、下から作ったチップに火を付ければ良い。後は完成まで放置するだけだ。
とは言え! 初めての燻製作業でわくわくする気持ちが収まらない。
何度箱を開けて中を確認したいと思った事か……いや、こういう時は開けるべきでないのはわかっているのだけど。
「たしか、この方法だと数時間から一日は必要なんだっけ。出来るのは明日の朝ぐらいって考えた方が良いかなぁ」
何分初めての事だ。何が正しいかなんて全く分からない。
正直、この燻製作業も錬金術で出来たらいいのだけど……もしやるとしたら、煙と肉を鍋の中でぐるぐるとかき混ぜるのだろうか?
とりあえず! 下準備は錬金術でパパっと出来たんだ。最終工程ぐらいはじっくりと作業するとしよう。
とは言え、時間が掛かるのは間違いないので、ついでに何かをやりながらと言うのが正しい判断だろう。
火から目を離すのはどうなんだ? と思うかもしれないが、もしこんな場所で何かあるとしても、燻製用の木箱と中に仕込んだ肉がダメになる程度。……いや、現状それを程度とは言えないのだが、人体や居住区に被害が起こる訳でもない。
そして何より、作業時間が全く足りていない。
俺は少しでも物資の充実化を図るために、錬金台へと向き合った。
女子達が帰って来たのは、俺が作業を開始してからどれぐらいたってからだろう?
ただ、彼女達が帰宅したタイミングは嫌でも理解する事が出来た。それは、俺の体質的を考えても当然ではあるのだが、それ以上に彼女達は戻ってきた瞬間に「へ?」だの「ひゃ!?」だのと声をあげたからだ。
別に会話をするつもりなど無いので、そのまま作業を行うのだけど、否が応でも彼女達の会話は聞こえてくるもので……。
「ね、ねぇ。あの木箱なんだろう?」
「木箱の下には火?」
「多分自作の燻製機ね。と言う事は何か燻製をする物を手に入れたのかしら。後、あのつり下がっている数枚の板……アレは〝鳴子〟かしら」
「……襲撃が分かる」
おや? 俺がやっている事を理解している人が居るな。まぁ、そんな事はどうでもいいか。
そう言えば、彼女達は食料を確保出来たのだろうか? 一応、釣り竿と木のバケツを渡しておいたが。
よく聞いてみると、彼女達の会話に紛れてチャプチャプと水音が聞こえて来た。
あぁ、たぶんこれだけ音がすると言うのなら、魚はそれなりに釣れたのだろう。それなら彼女達の食料は気にする必要もなさそうだ。
そんな事を考えていると、彼女達がこそこそと俺の方を窺っていることが分かった。
ん? 何か言いたい事でもあるのだろうか。やはり彼女達は俺との約束を守ってくれているのだろう。まぁ、そう考えてくれているのなら、必要以上に彼女達を警戒する必要など無いのかもしれない。
それなら……いや、俺から声を掛けるのはやはり必要最低限にしておこう。相手が何か話をしたいからと言って、此方から行動する必要なんてない。
そんな訳で、俺は彼女達から送られてくる視線の中、もくもくと作業を進めて行った。
石槍・石斧・石レンガ・釣り竿・木のバケツ・水や塩等の入った竹筒と生活に必要そうな物を次々と。
ただ、そんな光景は更に彼女達の興味を引いたのだろう。
聞きたくても聞けない。そんな空気を少しだけ感じる。あぁでもそれもそうか、現代社会の事を考えたら、こんな魔法とも言える錬金術なんて想像外のモノだ。気にするなと言う方が無理な話。
と言うよりも、彼女達はあのスマホのアップグレードを知らないのだろうか? そういえば、俺も森を抜けた先にあった石碑を発見した事で、初めてこんなチート能力を手にした訳だしな。
あれ? と言う事はだ。もしかしたら他の人達もこの石碑によるスマホのアップグレードは知らないのでは?
此処に彼女達が来たんだ。それなら当然だが、他のクラスメイトや先生達もこの地に来ていても可笑しくは無い。
今思い返してみれば、彼女達はどういう訳かボロボロの姿で森の中を抜けて来たのか。そういえば、森の中を抜けて来たのであれば、石碑を発見していてもおかしくはないはずだが。
しかし、俺がやる錬金術を見て不思議そうな顔をしている。
やはり、石碑の発見はしていないのだろう。彼女達が他のグループと共に行動していたかどうかは知らないが、もし共に行動していたとしても彼女達がそのグループと別れるまでは石碑を発見して居なかったはずだ。
これだけチートな性能を確保出来るモノだ。それなら、作業効率や生存率を上げる為、全員のスマホをチート化するのは当然の行為。
例えマウントを取りたいと考えるモノが現れたとしても、そこは武力と生産能力で別れて、マウントを取りたい側が戦闘系のジョブにつけば良いだけの話。
「……となると、この約一週間の間に死んでしまった人もいるかもしれない?」
はっきり言おう。俺がこうして生きていられるのはこのチート能力のお陰だ。
確かに、植生やらなにやらで恵まれた環境ではあると思う。でも、ただの高校生であった俺ではサバイバル能力など其処まで高くない。
それこそ、一週間もすれば栄養素が足らず、何か行動をするにも色々と制限がついてしまっていたはずだ。
ただ、修学旅行中に買ったお土産のお菓子やら何やらで、最低限の食糧などは確保出来ていたから少しはマシと言える状況だったと言うのは、自分の経験からも分かる話。
水分だってペットボトルの飲料水があったりしただろうし、ココナッツもあるから大丈夫だっただろうけど。
魚や肉が獲れるかどうかでも、かなり生活が変わるからな……植物なんて怖くて食べれない物も多いし。
鑑定がなければ、キノコや木の実なんて口に出来なかったからな。
あー……もしかしたら、ボムベリーやカエンタケを口にして怪我をした人物も居るかもなぁ。
この二つ、見た目だけなら食べる事が出来そうな気がするしな。
しかし、そう考えるとだ。もしかしたら、彼女達にスマホのアップグレードぐらいは伝えておくべきだろうか。
彼女達に出来る事が増えれば、勝手に色々と動いてくれるだろうし、それにこの場から移動して自分達だけで生きていくという判断をするかもしれない。
何、こうして錬金術で物を作っている状況を見ているんだ。こんな不思議な事が、この場では当たり前だと言うのは理解してくれるはず。
それに、あんな興味津々な視線をずっと送って来るのもストレスになるしな。
こう考えると、スマホの事を伝えるのは俺にとって一石二鳥どころか三鳥にもなる事な気がする。まぁ、話をする際に相当なストレスを感じてしまうけどな。
でもそれは、一時だけだ。それさえ乗り切れば、後は俺にとって楽な世界が待っている。
「よし、スマホの事は伝える事にしよう」
そう心に決めるも、中々足は動いてくれない。寧ろ作業をする手の方が進む。
やはり頭で理解をしていても、体や心は拒絶しているんだな。人との会話って相当なダメージが入るから、それも仕方のない事なんだろうけど。……これは先行投資なんだ。だから、今は我慢して作業する手は止まって、会話をするべく彼女達の方へ向かって足よ動いてくれ。
ブクマに評価などなどありがとうございますなのです<(_ _)>ペコ
彼は葛藤が凄そうです。
まぁ、多人数と接触するだけで嘔吐してしまうような子ですからね……むしろ一人だけでも大丈夫なんて状態なのが奇跡に近いかと。
……本当に、私は彼をどうやってハーレムにするんだろうか? と自問自答。いや、流れは決まっているんですけどね。本当にそれで彼が人に対して大丈夫になれるのだろうか? と言うモノが無い訳では無いのでw