人によってはとてつもない悪夢
破竹の勢いで塔フィールドを制圧して行く……はずだった。はずだったんだよなぁ。だと言うのに、今俺達は超がつくほどの鈍足で行動をしていたりする。
それもこれも、全ては新しいモンスターが原因なんだ。
さて、そうなった経緯はどんな感じなのかと言うと。
先ず俺達は、塔フィールドの楽な方。そう、狭いマップの攻略に挑んだ。そしてそこの攻略は何ら問題もなく進み、ボスも白ウサギと対をなすのか黒いウサギが現れたんだよね。
そんな黒いウサギだけど、冬川さんが召喚した白ウサギととても相性が良かったんだ。
白く輝く光の杵と、黒く澱んだ闇の杵がぶつかり合い……最強に見えると言うわけではなく、お互いにお互いの攻撃を打ち消し合う結果に。そしてその隙に俺達が後衛から新装備による集中砲火をしたことで、黒いウサギはあっけなく討伐する事が出来た。
勿論だけど、冬川さんは黒いウサギをテイムブックで殴っている。なので、新しく召喚出来たのは黒い毛並みをした闇属性のウサギ。
白と黒のウサギを召喚し、冬川さんはご満悦といった表情をしながら。
「……思った通り」
などと言うではないか。
一体何が思ったとおりなのだろう? と疑問に感じた俺は、冬川さんにその事を質問すると。
「……白で光属性。なら黒で闇が居るのは当然」
そのようなことをウサギ達と決めポーズをしながらドヤ顔。……いやまぁ、無表情に見えるんだけどね。いやはや、本当に多少の変化に気がつけるようになったものだ。そう思いながらも、なるほど、だからこそ白ウサギの命名は後回しにしたのかと納得。
そしてそれは他の女子達も同じようで、彼女達もどんな名前になるのか気になっているらしく「どういう名前にするの?」と冬川さんに質問。すると彼女は……。
「……ん。白がモロ、黒がマル」
……ちょっとまて。今までの「ちゅ」がつく命名はどこへ行った。そんな思いを視線に乗せながら冬川さんを見ていると。
「……正しくはちゅーもろとちゅーまる」
あぁ、なるほど。愛称みたいな感じで略して呼んだだけだったのか。
でも正しく呼ばないと精霊達は不満なのでは? と思い、ちゅーもろとちゅーまるを見てみると、何やら両者共に大満足しているのか、杵を振り回しながら餅つきでもしているようなダンスを披露していた。
「満足しているみたいね」
なんて皆でほっこりとした気分でうさぎ達を鑑賞した後、当然探索を続行した訳なんだけど……問題は続行した先から始まった。
この黒ウサギがボスだったフィールドから進める場所は2ヶ所あった。
そのうちの一つは前のフィールドからも行けるストーンサークルのフィールド。なのでこちらは探索する必要が今は無い。
なのでもう一つの方の調査を開始した訳なんだけど……ここで女子達の心がポキッと音を立てながら折れてしまったんだ。
というのも……。
「いやはや、強い奴が出る方のマップでコレは流石にないと思うんだけどなぁ」
思わずそう言いたくなるような光景に、俺も多少は精神的にダメージを受けてしまっている。何故ならそれは、このフィールドに出るモンスターが……。
――ブゥゥゥゥゥゥゥウゥゥゥゥウゥン
恐ろしいほど大きな羽音を鳴らしながら、縦横無尽に飛び回っている大量の虫達がいたから。
しかもそれらは、グロテスクな光景を作り出していたりする訳で……。
「ミツバチがスズメバチに襲われてるなぁ……」
「いやぁぁぁぁぁ……言わないでぇ……」
ただの昆虫戦争ならまだ良かった。あぁ、これが弱肉強食の世界かと思えるから。
でもこの光景における問題は、その昆虫たちのサイズが無駄に大きいことに有る。何せ中に人の子供程と言えるサイズのハチもいる訳で、そんなハチの頭がゴロリゴロリと転がっていたりするんだ。
あれ? モンスターならその場で光の粒子になって消えるんじゃないのという疑問が湧くのだけど、どういう訳かミツバチ達の死骸は光の粒子になること無く姿を残したまま。
更に言うなら、スズメバチ達がコネコネと捏ね繰り回して肉団子を作っていたりする。
そりゃ、こんな光景をみせられたら心も折れるわ! と言いたくなる。ただでさえデカイ虫群れをなして飛んでいるだけでも恐怖だと言うのに。
そんな訳で、俺達は一度そのフィールドを退却。先ずは精神的疲労を抜くべきだと判断した。そして、そのフィールドをどう攻略していくべきかという話し合いが必要でもある。
ただなぁ……最悪、あのフィールドはいつぞやの蜘蛛につかった殺虫剤を、大量にばら撒くという方法もあるんだけど。
「フィールドが広すぎて、煙が全域に行き渡らないんだよなぁ」
「大量生産よ! 大量生産しかないわ!!」
「虫は嫌なの! きっと他にもいっぱいいるに違いないから!」
「……Gとかも居そう」
「黒い悪魔はダメじゃん!!」
まさかの女子全滅である。特にGのワードが出た辺りで、全員が巨大なGを想像したのか、真っ白な顔をしていた。
「G……Gだけじゃないわ。もしかしたら蚊も居るかもしれないわね」
「羽音が悪夢じゃん!」
「羽音もだけど、そんな大きな蚊に血を吸われたらミイラになっちゃうよ!!」
いや、それだけ大きい蚊だったら、吸われる前に存在を察知して討伐出来ると思うんだけど。
「そういえば、そんな映画もあったわね……巨大な蚊の群れが人里を襲うホラーもの」
「……B級?」
「Bかどうかは別として、大きな蚊が群れをなして襲ってくるのよ」
それはまた……何と言えば良いのか分からない映画だなぁ。
でもそうだね。群れをなして襲ってきたら、その全てに対処するのは大変か。だとすると、1匹が防衛網を突破して血を吸ってくる何てことも可能かも。あ、でも。
「今は存在を確認していない蚊よりも、目視できたハチの事じゃないかな」
「そうだった。吸うよりも刺されるのも問題じゃん」
毒性はどれだけ強いのか? そもそも殺虫剤は通用するのか? 魔法で撃ち落とせるのだろうかと、色々考えるべきことは多い。多いんだけど……そもそも、女子達が攻略に参加出来るかどうかも問題。
「てか、蜘蛛は大丈夫だったよね?」
「あ、あれは1匹だけだったから。皆がいれば怖くない的な感じだったんだよ」
「そうね。魔法なんて馬鹿げた力もあったから、1匹なら耐えることが出来たのよ」
なるほど。という事は、今回は群れだったことがネックな訳だ。
「後、あの羽音は恐怖じゃん」
「……今も耳に残ってる」
確かに言われてみれば、なんだか未だに後方でブゥゥゥンと羽音が鳴っている気がして仕方がない。
移動してきたこのフィールドには居ないと言うのに精神的にダメージを継続して与えてくるとは、なんてモンスター達なんだ。
あ、でもミツバチがいるという事はだよ? もしかしたら、蜂蜜やら蜜蝋が手に入るかもしれない。
「……もっちー?」
「望月くんが悪いことを考えている気がするよ」
失敬な。悪いことではなくて素材の事を考えているんだよ。だって蜂蜜だぞ? 蜂蜜といえば、栄養価が高くて色々な使い道がある素材じゃないか。
だから有ると分かれば、何とかして手に入れたいと思うのは当然だと思う。
「ふわふっわのパンケーキに蜂蜜をたっぷりかけたら美味しいだろうなぁ」
「……じゅるり」
「美味しいのは分かるけど、あのハチの群れに突撃するのは……」
だよなぁ。ミツバチだけなら何とかなるかもしれないけど、問題はスズメバチもいるって事だよな。うーん、何かスズメバチだけを討伐出来るいい方法があれば良いんだけど。
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