閑話・隠伏
貯蔵兼シェルターとして作った地下。そこで私達は息を潜めて隠れている。
それもこれも、少し前に突然森の奥から何かが暴れている音が聞こえ、その音が少しずつ私達の方へと近づいて来ていた。
モンスターなのか、それとも何かの自然現象なのか。多分モンスターだとは思うのだけど、危険を感じた私達は直ぐに避難する事にしたのよね。
ただ、無言で過ごすのも精神的に辛くなっていく。なので、小声で会話をしていたりもする。
「一体何なのかしらね」
「モンスターだと思うけど、こんな凶暴なモンスターなんて今まで見たことがない」
「危険かな? 危険だよね!」
シェルターの中には勿論だけど全員避難して来ている。そして全員というのは男子も含めて。
少し思うところはあるけど、ここで外ヘと捨てておくのも色々と問題だと思ったのよね。同じ空間に居るのは気に食わないけど。
そしてそんな男子たちだけど……彼らは「声を出すな」という命令を頑なに守っている。
時折、私達の方をチラチラと見ているようだけど、それは私達の機嫌が悪くならないかを窺っているみたいなのよね。害にならないようだから、今はそのまま放置しておきましょう。
「犬。アナタはどう考えているのかしら?」
「わふ?」
「……喋っていいわよ」
「えっと、突然変異とか?」
本当に教育をしすぎたせいかしら? この犬は私達の誰かが「喋っていい」と言わない限り、「わん」といった返事しか返してこない。
どう思っているとか、どう考えているという質問をした際には、普通に話してもいいと分からないのかしら? いえ、それも私達が余り考えるなと教え込んだせいよね……ちょっとだけだけど面倒な教育をしたものだわ。今更な話ではあるのだけど。
それにしても……突然変異ね。
モンスターが突然変異を起こして凶暴なやつが近くに現れたと、この犬は言いたいみたいね。
ただ、突然変異を起こしたとしても、ソレの元となるのがネズミしか居ない。そして、ネズミがいくら凶暴化したとしても、ここまで大きな音を出す存在になるのかしら? という疑問があるのよね。
「ネズミ以外にも近くになにか別の物が来たとか」
「今までネズミしか居なかったのが不思議? 不思議だよね!」
確かにこのジョブやレベルが有る場所で、モンスターがネズミだけというのはおかしいわよね。それだけだと、どう考えても一定以上のレベルになったら、ソレ以上のレベルアップに必要な経験値は足らないわけだし。
だとすると、ネズミ以外のモンスターが存在する場所もあるでしょう。もしかしたら、時間経過で凶悪なモンスターが追加されるなんて事もあるかもしれないわね。ただ……。
「追加モンスターの線で考えるのであれば、余りにも凶悪なモンスターよね」
「何処かから移動してきたと考えるのが普通では?」
突然変異・何処か違う場所からの移動・時間経過によるモンスターの追加。どれも可能性があり、相手の姿を見ないことには判断出来ない。だけど、相手の姿を見るためには私達が外に出ないといけないのよね。それはあまりにもリスクが高すぎる。
そんなことを小声で話していたら、大きな音を出すモンスターは私達が居る地下の近くまで来た。
ズシンズシンという足音と共に、地下全体が揺れ、パラパラと砂埃が頭に降ってくる。……崩壊しないか心配になるわね。
そんな事を考えつつも、私は皆に自分の口をしっかりと抑える様に指示。勿論、声には出さず皆に見えるように口をぎゅっと押さえる仕草をしてみせた。
私のそんな動きをみて、全員口を押さえ首を縦に振っている。よかったわ。しっかりと言いたいことが伝わったみたいで。
そうしている間にも、上にいるモンスターは私達の住居を破壊したり、何かを咀嚼しているような音が響いたりしてきて……恐怖で心が満ちていくのが分かる。そんな時。
「……ド…………ル」
上から何かの声? のようなものが聞こえた気がした。
そしてその声? を聞いたのは私だけではなく、他の人も聞いたようで……皆、恐怖や疑問といった色をした目を上へと向けている。
「誰か逃げてきた?」
「いや、流石にソレはないでしょう」
先程よりも更に小さな声。それこそ耳打ちというレベルでの会話。おそらく男子たちにすら聞こえていないと思う。そんな小さな声でやり取りをしながら現状を確認。
どうやら茜さんは誰かが逃げてきたのでは? と考えたようね。そしてモンスターはその誰かを追って来たと。
でもそれはありえないと思うのよね。だってそうでしょう? もし誰かが来て、私達の住処に隠れたのであれば、既にモンスターに見つかっているはず。そして、叫び声の一つぐらいは上げていると思うのよね。
となると、考えたくはないのだけど、声を出しているのはモンスターという可能性が出てくるのよね。そしてその考えは……。
「ドコダ! ドコニイルゥゥゥゥゥ!!」
余り当たってほしくはなかったけど、おそらく正解なのだと思う。
モンスターは何かを探しているのか、「ドコダ!」と叫びながら暴れまわる。
私達は必死に声を出さないようにしながら、皆で固まって誰かが動いたり声を上げないようにするので精一杯。
地下が在るとバレてしまえば……それこそ一網打尽にされてしまうのだから。
ひとしきり暴れたモンスターは探しているものが無いと判断したのか、何も話さなくなり、何処かへと去っていったようで外にとても静かに。
そして、男子の一人が「ちょっと見てくる」と小さい声を発し立ち上がったのだけど、私はその男子の腕を掴んで思いっきり首を横に振った。
今出ては駄目。相手は人の言葉を発し、しかも何かを探していた。という事は、かなり知能は高いはず。そうである以上、この静けさが見せかけの可能性だってある。
もし私が先程のモンスターであれば、今頃外で獲物が出てこないか? と息を潜めて待つもの。
声は出せない。出さないけど、真剣な目で外へと出ようとした男子を睨む。
睨まれた男子は、「お、おぅ……」と言い直ぐにその場へと座り込んだ。どうやら理由は分かってないようだけど、外に出るのは駄目という事だけは理解したみたい。
ふぅ……と、安心したからか思わず息が肺から漏れる。
アレは一体何だったのかしら? どう考えてもネズミなんて存在が突然変異しただけとは思えないのよね。
「どうする? 今日はこのまま地下生活?」
「今日というより、数日は地下かしら……最低でも1日は様子を見たいわね」
食料を貯蔵しておいて良かった。もし何もない状態だったらと思うとゾッとする。
「どうする? どうしよう?」
「そうね……最悪、あの子達みたいに拠点を放棄する事も考えないといけないわね」
一度探し、めちゃくちゃに破壊した場所だからもう来ないかもしれない。だけど、また帰ってくる可能性が無いわけでもない。崩壊した場所を根城にしようと考える人だっているもの。
はぁ……本当どうしようかしらね。
せっかく全員で話し合いをして今後の方針をといった流れを、少しずつではあるけど作り始めたばかりだというのに。
ここで生活基盤よりも生き残ることを考えないといけなくなるなんて……。
あぁ、また同じ事をという感じなんだけど、本当にあのネズミちゃんを逃したのは痛かったわね。……今頃何処に居るのかしらね。
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