ラッキーではないですよ?
探索はスムーズに……と言いたいところなんだけど、思わぬ所でちょっとしたアクシデントが起きている。そしてその起きている内容に、俺は思わず頭を抱えてしまっているんだよね。
で、その内容はどんな事かと言うと……。
「……あぅ」
「おっと! ごめん。ぶつかった」
「……ん。良い。でも3度目」
とまぁ、こんな感じで女子にぶつかるという、今までの事を考えたらありえない事が起きてしまっている。
「今日の望月君って注意散漫? 私もさっきぶつかったんだけど」
「そういえば七海とは1回、私とエリカとは2回はぶつかっているわね」
「あー……なんだろう? 探索中だから警戒はしているはずなんだけどなぁ」
そして彼女たちが言うように、どういう訳か全員と1度以上は衝突しているという事実。一体全体何がどうしてこうなっているんだろう?
一つだけ言い訳をさせてもらうと、女子達の気配に気が付くのがぶつかる瞬間なんだよね。だから避けようにも避けれないし、避けれたとしても違う相手にぶつかってしまうという。
コレは普通に考えてありえない話なんだけどなぁ。だって探索中だから、それこそ周囲全体を警戒するためにアンテナを張りまくっているはずなんだよ。
「もしかして、みんな隠密のレベルが上がった?」
「いやいや私は持ってるけど、他のみんなはその手のスキルを持って無いじゃん」
「七海は気配遮断持ちなのに1回だけなんだよね」
「そりゃ弓を射る為に距離を取ってるからな!」
ふふん! と胸を張って自慢をする夏目さんだけど、そんな彼女とぶつかった理由って彼女が原因なんだよね。
俺がしゃがんで採取をしている最中に、彼女が俺の方へと後退して来たんだ。彼女いわく、獲物に射線が通らなかったから移動したって話なんだけど……下がった先に俺が居て、そんな俺の背中にどしっと伸し掛って来た。だから、彼女との衝突に関して言えば、俺が原因ではないと断言出来る。
まあ、今までであればそんな状態だったとしても、俺自身が気がついて避けていたはずなんだけどね。
「雪が3回なのは……視界に入らないからかしら?」
「あ、身長」
「……むっ。失礼」
うんまぁ、その事について俺はなにも言及しないでおこう。
この話題ができる原因となった理由が俺なわけだし、ここで「そうだね」と言おうものなら、もしくは肯定するかのように頷けば、俺の頭はちゅん吉に突かれまくる事になりかねない。なので、ここは無の境地に徹するのがベストだと思う。
しかし冬川さんはそんな事を許すつもりはないらしく、何か言えよ! と見つめてくる。いや、これはどちらかと言うと睨んでいる?
「……どっち?」
「んっと、あれだ。みんなの気配が全く分からなかったからなんとも」
とりあえずコレでお茶を濁しておこう。
事実、全く彼女たちの気配を察知出来なかったわけだしね。だから俺は嘘は言っていない。……まぁ、質問に対しての答えは言ってないけどね。
こんな風に見られている状況で、全く視界に入っていなかったとは流石に口が裂けても言えないよ。
「んー……でもどうして急に気配を感じなくなったのかしら? 以前はこうして探索している最中でも、しっかりと皆との距離を認識していたわよね」
「そうなんだよね。んー……やっぱり、言われたように何処か注意散漫になってるのかな」
「生産しすぎて疲労が溜まった?」
「……休憩?」
んー……生産のしすぎてってのはないと思うけどな。
確かに新しい素材を使って色々と作ったり遠征の準備をしたりはしたけど、それっていつもの事だよね? だから、決して疲労状態というわけではないと思うんだ。
無意識の内に溜まってるのでは? という話もあるけど、島に来てからというもたっぷりと食べる事もできているから、逆に万全の状態だと俺は感じている。睡眠も十分とれているしね。
だからまぁ、疲労という方向はありえないと思っている。
では他にどんな理由が? という話になるんだけど、正直全く見当が付かない。
しかし、この現象は何とかしないと、今後の不安要素になってしまう。例えば戦闘中とか。
「戦闘中に味方の位置を見失うとか結構不味いよね」
「戦闘スイッチが入れば大丈夫、というのは少し楽観視しすぎかしら?」
「実際に戦ってみないと分からないじゃん」
そこらにいる雑魚モンスターで試してみてもいいけど、雑魚だと緊張感がないからね。なので、戦闘スイッチとやらが入ることすら無いのでは無いだろうか。
「現状は致命的な事になってないから良いけど」
「もし崖を渡るとかそういう事があれば……」
「……落ちる?」
そうなんだよね。別に戦闘中以外にも危険はある訳で。
折角、多少は皆と協力して行動が出来るようになったというのに、コレでは協力してというのが不可能になってしまうんじゃないだろうかという不安が湧いてくる。
そうなると、効率とか安全性の面で色々と問題が出てくる訳で……。
「望月君は生産だけしていれば良いって訳じゃないもんね」
「鑑定持ちは俺しか居ないからなぁ……」
全部単独でやる。まぁ、島に来た当初はやっていた事だから出来なくはないんだけど、それだと時間が掛かり過ぎるんだよね。
一度鑑定した物をその場で女子達に渡して、それを集めてもらうという協力プレイに慣れちゃったもんなぁ。そして、その際に戦闘が起きても良いようにフォローして貰う事にも。
こう考えると、もう彼女たち無しでの探索はかなり厳しいのでは無いだろうか。採取している最中とか、完全に背中を任せてしまってるしね。今更自分で全てを警戒しろと言われても……。
「とりあえず。目標を目指しながら少しずつ改善出来るように試みましょうか」
「それしかないかな。とは言え、何が原因なのか全くわからないからなぁ」
「今まで以上に周囲を警戒するしか無いじゃん?」
夏目さんが言う方法しかないかな。
ただ、今まで以上となると余計な警戒もしてしまうから、精神的な疲労も一気に上がっちゃうけど。
「……ふぁいと」
「望月君なら大丈夫だよ!」
そう言いながら、春野さんと冬川さんがぐっとガッツポーズをしていた。
ま、やらなきゃいけないことだから頑張るつもりだし、応援されて悪い気はしないけど……ちょっと二人とも力を込めすぎじゃないかなぁ? もしかして、そんなにぶつかった時にダメージが入ったのかな。それなら、物凄く申し訳ないんだけど。
「あ、ダメージはないよ! ほら、今後の事を考えたらここが頑張り時だからね!」
「……ん」
「慣れるまでは、どれだけぶつかっても大丈夫だから!」
なんだろう。その優しさが逆に心に刺さるんだけど!? そこまで言われると、やっぱりぶつかったは不味かったのでは? と思えてくる。
「望月君は深く考えすぎじゃないかしら? 2人が言っているようにそこまで気にする必要はないのだから、今は衝突しないようにする事だけを考えるべきだわ」
「あー……確かに。うん、分かったよ」
「とは言え、原因がわからないと治すのも大変でしょうし、私の方でも観察して原因を探ってみるわね」
俺は秋山さんの言葉に「おねがいします」と返した。そして、今回の事は彼女たちの言葉に甘えるのがベストだろう。
自分じゃ分から無いことが有りすぎる。と言うか、突然過ぎて本当に何が何やらといった感じだからね。なので、外から見たほうが分かることがあるかも? と少し期待している。
「あ、目標地点が見えてき……って、もっちーまたぶつかってるじゃん!」
「ごめん! 前が見えてなかった」
「……むぅ。5回目」
「雪は小さいか……げふんげふん。なんでも無いじゃん!」
本当、早く原因を探らないとね。
目標地点に来るまでに合計で、春野さんとは3回、夏目さんとは1回、秋山さんとは2回、冬川さんとか5回もなんだよね。
冬川さんは……うん、口には出さないけど視界に入らなかったから仕方ない。決して口には出せないけど。
あと、夏目さんのはカウントしなくても良いと思うんだけど……どうやらカウントされるみたい。このカウントは女子達が数えた内容で、ぶつかった俺がとやかく言える事ではないので、甘んじて受け入れておく。
けどまぁ、ここまでぶつかりながら目的地にたどり着いたわけなんだけど。原因が全く分かってないんだよね。これ、本当にどうにかなるのかな?
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此処から先、補足や余談が嫌な人は読み飛ばしてください。
景に起きていることですが、顔を認識出来るようになり、その事で拒絶反応が起きなかったと認識してしまったがための弊害です。
と言うも、景のパーソナルスペースですが、排他域が他の人よりも広く近接域と言える範囲も排他域でした。(排他域と近接域の定義は西○和●氏の物から)
とは言え、ソレだけの範囲の人を全て排他出来るわけもないので、今までは無視とか極力関わらないように努力していた訳ですね。
ですが、彼女たちはこの景の広範囲と言える排他域の内側に、排他されること無く入れるようになってしまったんですよね。なので、色々とズレが起きてしまいバランスが取れず……衝突してしまうという現象が起きているわけです。
ちなみに。
排他域は50cm以下。近接域は1.5ー3mとされています。そしてその間に、本来なら会話域という50 cmー1.5mのスペースがあり、近接域の外側には相互認識域というモノもあります。
そのうちこの事は本編でも判明するでしょうが、一応ここで先出しさせてもらいます。じゃないと、ただのラッキースケベに近いなにかになってしまいますのでw




