気がついたらそこは海でした
――ザザーンザザーン
目が覚めるとそんな音が耳に入って来た。なんでだ? と思いながら辺りを見渡してみると、其処には一面に広がる海。
は? ちょっとまて……この状況はどう考えてもおかしいぞ。一体何が有ったんだろうかと思い出してみる。
「たしか、修学旅行のバスに乗っていたよな? これは間違いない。でだ、その時……」
俺は人と関わるのが嫌で、人数的に空きが出来る席に一人で座っていたはずだ。
それで周囲の音が入ってこないようにとヘッドホンをセットして、音楽を聴きながら眠ったはず……うん、此処までは間違いない。
「ただ、その後何があった?」
記憶はそこで途切れている。というよりも、俺自身が音楽を聴きながら眠ってしまった為に、覚えている事など有るはずがないというのが正しい。
ただ分かる事が無い訳ではない。そもそもの話、バスが海沿いを走る予定など無かったはずなのに、こうして目の前には海が広がっていて……。
「なぜか俺はバスの中に居ないという事だな」
俺の周囲に自分の荷物はしっかりとある。頭のヘッドホンも健在で今でも歌が流れてきている。とは言え、どういう訳か、片方の耳からは外れているのだが……本当に一体何が有ったのだろう。
曲を聴いていても仕方がないので、俺は音楽を止めてからヘッドホンを頭から外し鞄の中へと仕舞った。
そして更に情報が無いかと海側では無く陸側を調べてみる。
目の中に入ってくる光景が異常だった。
まてまてと誰に向けてなのか、ストップをかけてしまう俺。混乱したと言えばしていたのかもしれない。
しかしそれも仕方がないと思う。何せ、目の前にはココヤシ・竹・松・オークウッド・白樺などが仲良く並んで生えている。
よく見れば他に違う植物も……その中には、他の木を駆逐する奴ではなかったか? と思うような木まで。
なんと言えば良いのだろうか。誰かが枠組みを作りこの場所で育ってねと作り出した環境に見えてしまう。それほど、植物達は規則正しく並んで生えていた。
「……ただ、何かするにしても植物には困らなさそうだ」
ただ、やはり不気味なのは不気味と言える。
目が覚めたら海辺に居て、後ろを見れば整った木々達。一体誰の悪戯だ! と言いたくなるが、どうやらソレに答えてくれる者などいるはずもなく。
と、ここでふと思い出した。
「あ、そう言えば修学旅行のバスに乗ってたって事は、他の奴とかバスって何処に行ったんだ?」
別に探す義理も義務も無いのだが、自己防衛的な事を考えるとどうなっているのかは知っておいた方が良い気もする。
とは言え、この辺りには誰も居ないらしい。もしかして、この場に来たのは俺だけ? はっ! これは学校の陰謀だろうか!! こう、クラスに馴染む気など無い俺を一人にして困らせてやろう的な!!
「……んな訳ないか。そんな事をしたら、後から訴えられて痛い目を見るのは学校だしな」
一人ボケ突っ込みをしてしまった。
いやでも、そう思いたくなるというか、むしろそうであって欲しいという思いすらある。だってこれ、何かの事件か、事象だったら簡単にどうにか出来る話じゃなくなるからな。
「とりあえず……立ち止まっていても何も分からないから散策してみるか」
まずは持ち物をチェックしておく。と言っても、こんな状況で使える物など有るはずもなく……持ち物で大切と言えるのはライト・携帯食料(お菓子など)・水筒だろうか。
なるべく身軽にという事で、この場に置いていく荷物は誰かが居た場合取られないようにと、しっかりと隠しておく。
そして、その隠した場所から少し離れた位置に、此処がリスポーン地点……じゃない、スタート地点と直ぐにわかるよう目印を作っておいた。
「竹と蔦と大きな葉で造ったフラッグだが、案外目立つだろ」
海辺にてパタパタとはためく簡易的な旗。
余り高くはないものの、ある程度遠くからでも確認出来るだろうと思われる。
よし、これで準備は完了だ。それでは探索開始と行こうかと歩を進めようとした……その時。
木々の隙間からガサゴソと何かが動く音が聞こえて来た。
思わず警戒する。念のためにと作った竹の槍もどきを構えておく。
さて、一体何が出るのやら……クラスメイトか? 教師か? バスの運転手かバスガイドさんだろうか。それとも、野生動物なんて事も。
そんな事を考えつつ、何時でも突けるぞゴルァ! と、足が震えそうになるのを抑える為に気合を入れる。
しかし、そんな俺の気合も虚しく、そんな木々をかき分けて現れたのは、もっふもふな白い毛をしたウサギだった。
なんという拍子抜け……いや、これは拍子抜けでよかったけども。
「はぁ……」と溜息を落とすと、体中の力が一気に抜けたのか、地面へと崩れ落ちる様に座り込んでしまった。
「はは……結構情けないなこれは」
ただ未知の場所だ。緊張するのも当然と言えば当然だろう。なので情けなかったとしても問題はないはず!
などと力んでみたは良いが、力が入らずに動く事が出来ない。
そして、そんな俺を、ウサギの奴がちら見したかと思うと……。
「プッ」
鼻で笑いやがった! あれ、絶対今! 鼻で笑ったよな!! こう、「何ウサギ程度に驚いて腰抜かしてるの? ぷっぷっぷー」みたいな感じで!!
くそ、あのウサギめ! 今日の晩御飯にしてやろうか!! と、思いっきりにらんでやると。
「ププー」
実に馬鹿にしたかのような態度を取りながら、ピョンピョンと跳ねながら木々の隙間へと消えて行った。
……まぁ、動く事が出来ないから、捕まえて食料にするどころか追いかける事すら無理なんだけども。
とは言え、コレは流石にイラッとしたな。今度であったら毛皮を剥いで塩を塗ったくってやる。