まじかぁ……
創作欲求を抑えながら、俺は女子達と一緒にポータルの稼働実験を行った。
魔石自体は特にモンスターを狩る必要が無かったのだとか。どうやら、ちゅん吉とちゅめらが湖にてドロップ化していた物を発見したらしく、それらをモンスターに追いかけ回されながら回収してきたらしい。
沈んでいなかったのかな? と思ったんだけど、浮かんでいるのもあれば、ゆっくりと沈んでいっている物もあったらしい。一体違いはなんだろうね? 今はもう混ざっているから、どれがどれなのか分からなくなっている。
ただ、そんな魔石達を回収出来たことで、ポータルを稼働することが出来たのだから良しとしよう。
「さて、ちょっと慎重すぎるかもしれないけど……」
「テストは必要だものね」
秋山さんと一緒に、うんうんと首を縦に振りながら実験を行っていく。
ただ、どちらかというと脳筋な夏目さんは、「別に突っ込んでも良いじゃん」と少し口をとがらせている。きっと俺達のやっている事がまどろっこしいのだろうね。
ただ安全確認は必要だから。
こういった転移系の物は何が起こるか分からない。それこそトラップだったら最悪な展開もありえる。……まぁ、ポータルとシステムが用意してくれているから、流石にトラップではないと思うけど。
「でも、流石にそれは……魔石が勿体ないんじゃないかなぁ?」
「そう? でも、いきなり動物実験をするのもね」
今やろうとしているのは、ロープを繋いだ石をポータルの向こうに投げ込むという内容。
コレで安全確認が出来たら、今度はバケツにはいった魚をポータルの向こう側に送る予定。まぁ、これは見ている側や待っている人からしてみれば、考えすぎだろうとか、行動が遅いとか、物が勿体ないと思っちゃうよね。
「良い? こういうのは〝大丈夫だ〟と分かっていたり、〝大丈夫だろう〟と思っていたりしても、しっかりと調査しておくのが必要なの。無駄かと思うかもしれないけど、無駄ではないのよ。言ってしまえば、車掌さんがやる指差し確認のようなものなの」
日々気をつけておくからこそ、何か有った時に異変が起きたと気が付くことが出来る。
しかも今回は新しいモノを使うんだ。それならより一層注意する必要があるのは当然だよね。
そんな訳で、若干1人納得がいっていなかったり、もう1人は我関せずだったりするけど、春野さんは「なるほど」と口にしてくれたので、このままテストを続行していこう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――コケコケやモーモーという鳴き声が聞こえる。
俺達は第3フィールドにあった島から、第1フィールドにある拠点へと戻ってこれた。心なしか、動物達の鳴き声が歓迎しているように聞こえるね。
さて、実験を開始した後の事なんだけど……。
ポータルの実験はすんなりと終える事が出来た。まぁ、大丈夫だというのは分かっていたけども、念の為にやっていたテストだしね。
なので、俺達はテストを終えた後に直ぐ第1フィールドへと飛んだ。
ポータルを潜って出た場所は第1フィールドにある石碑の前。その事から、この石碑はポータル間をつなぐステーションみたいなものであるのは間違いないみたい。……流石に出口を自由にどこにでも作れるなんて事はないみたいだね。
ただそんなポータルだけど、これは慣れないときついものが有る。
というのも、どうやら転移酔いと言うのが存在するらしく、ポータルを潜ると目の前がぐにゃりと湾曲した感じになって、上下左右へと揺らされる事になる。
そしてポータルから出た瞬間に突然普通に戻るものだから、そりゃ色々と感覚がおかしくなるのも当然だと思う。
「これは地獄じゃん……」
口を手で抑えながら、何とか言葉を発したのは夏目さんだけ。他の皆は蹲ってゆっくりと呼吸をするのが精一杯だった。
ただ、救いなのは既に感覚自体は元に戻っている事かな。だから、この酔いも少し時間が経てば収まった。
だけどこれは、ポータルを使う前に酔い止めが必須なんじゃないかなと思う。
「レシピにあったっけか……」
「酔い止めのポーションだよね? お酒と同じので大丈夫なのかな?」
「どうだろう。車酔いとお酒の酔いでは飲むクスリとか違うみたいだし」
以前ポーション関連のレシピを調べた時、リキュール系が多かった為なのかお酒用の酔い覚ましポーションとかのレシピは発見出来たんだよね。しかも丁寧な事に、飲酒前と飲酒後の2種類があった。
ただ残念な事に、その時には乗り物酔い用のポーションを見つけてはいない。けど、もしかしたら今回の事でレシピに増えたかもしれない。なので後で確認しておく必要があるかな。
「……そも、酔わないのが良い」
「だよねぇ……なんでポータル酔いなんて実装したんだろうね」
「案外。転移というのはこういうものだ! なんて考えているのかもしれないわね」
……あのシステムなら有り得そうな話だ。
かなり先入観とか固定観念が多いからね。とは言え、そんなのでこんな酔いなんてデバフを再現するとか、止めてくださいと叫びたいレベルなんだけど。……叫んでも聞き入れてもらえないだろうなぁ。
と、そんな事があったけど、今は無事に拠点へと戻って来る事ができ、女子達は動物たちや田畑の手入れを行っている。
そして俺はと言うと……今、ふと気が付いてマップを確認した。そして、絶望した。
「まじかぁ……コレは流石に予想外」
マップに表示されていたもの。それは、俺達の拠点に交易をしている相手の拠点。それと何処で何が収穫出来るかなど、自分たちでマーキングしたもの。後は、石碑やフィールド間を繋ぐ出入り口の場所なんだけど、そのフィールド間の出入り口が、何と複数あるでは無いか!
「第1フィールドにある出入り口が全部で3つ。俺達が使っているもの以外だと海岸沿いに2つかぁ」
海辺をずっと歩いていけばたどり着く場所。そこにも恐らくだけど壁が存在するのだろう。マップを見た感じだと壁で隔てられているように見えるからね。で、その壁に出入り口のマークがあったりする。
3つの出入り口は俺達が使っているのを真ん中にし、壁の左と右の端にある感じかな。そりゃ、残りの2つは見つからないと思う。何せどの拠点からも結構な距離があるからね。
普通に行動していたら、今使っている出入り口を最初に発見するだろうし、その後もその出入り口をそのまま使うよ。
ただまぁ、他のルートがあるのは良いんだ。他の場所にも行くことが出来るってことだから。では何に対して絶望しているのかと言うと……。
「湖のフィールドとか、もしかしてまだ今行くようなレベルじゃなかったんじゃないかな?」
なんて思うんだよね。
だってどう考えても、相手とのレベルが釣り合ってなかったよね? 結構数を狩ったとは言え、40レベル後半の人間が5人居る状態でだよ? それぞれが3レベルも上昇したんだ。それって明らかに経験値がおかしくないかな。
でも、もしまだ俺達にはレベル的に早い場所で、それこそ最初に蜘蛛を討伐した時みたいなレベル差だったらと考えると、ありえなくはない話なんだよね。
「もしかして、第2フィールドにも他にルートがあるかも?」
そして、そのルートの方がレベル的には正規ルートだった可能性がある訳で。
そりゃ、絶望するなという方が無理な話だと思う。……本当、よくあの湖を横断出来たなぁって自画自賛しても良いんじゃないかな。
ブックマークに評価ありがとうございます!((*_ _))ペコリ
此処から先、補足や余談が嫌な人は読み飛ばしてください。
レベルアップについて深く考える景ですが、女子達に〝ジャイアントキリング〟の称号は付きませんでした。
その理由は単純で、モンスターとのレベル差が10レベルも開いてなかったからです。
とは言え、5レベル以上9レベル以下の相手が群れで押し寄せてきたりしたら……まぁ、そういう感じです。