俺達は撒き餌じゃないよ!
一瞬見えた〝何か〟だけど、どうやら俺達の方へと向かってくる気配はなく、ただただ泳いでいるだけの様子。
なので今は目の前の事を対処することに集中しようという方針になった。……一応は警戒をしておくけども。
「とは言え、無駄に数が多い! ウインドボール!」
「気を抜いたら押し切られそうよね。っと、そこサンドゴーレム召喚」
「サンドゴーレム!? 何でソレを召喚したの?」
「見ていたら分かるわよ」
船へと接近して来たモンスター達だが、船の周りの水面に浮かびながら広がっていく砂を気にせずに直進してくる。
だが、その砂が形を変えてその魚達をキャッチ。そしてそのまま握り潰そうとしながら水中へと沈んでいっている。
な、なんて恐ろしい使い方を……。
普通にゴーレムとして使えば、コアの部分が潰されるまで稼働し続ける。そして多少破損しても、直ぐにその破損された部分が集まって修復されるんだけど。
「この方法だと、モンスターを掴んだ部分は掴んだ相手と一緒に沈んでいくから……復帰しないよなぁ」
「手の形として集まっちゃったから、浮かぶことができなくなるほど重くなったって事なのかな」
「……食べすぎ?」
いや、食べすぎではないけど。
でもまぁ、そういう事なんだろうね。形になっていない時は一つ一つの粒として存在していたから水に浮いていた。だけど形を作ってしまったら、その全ての重量で計算されるんだろうね。
砂のみで形成されているから、浮きそうな気もするんだけどなぁ。魔法だから何かが違うのかもしれないね。
戦闘に関しては、多少押されつつではあるけど効率的な方法でなんとか維持している。
長距離を春野さんのグレポンに夏目さんの魔法矢を使い、モンスターの数を思いっきり削っていく。
そんな二人の攻撃を抜けてきた相手に対して、俺と冬川さんの魔法でカバー。
そして近距離は秋山さんの出番。彼女は基本的に船にダメージが来ないよう防御をメインに動いてもらっているけど、抜けてきた相手は対処しないといけないからね。
「ウォール系でタコのハンマーとイカの槍を防ぐので手がいっぱいだと思うんだけど」
「だからこそのサンドゴーレムなのよ。あれなら召喚して撒いておけば、勝手に掴んでモンスターの進行を防いでくれるのよね」
そんなサンドゴーレムでも対処しきれなかったモンスターに関しては、春野さんがネイルショットガンで止めを刺す。
とは言え、最初に言ったように微妙に押されつつあって。俺達の攻撃を抜けて、船へと接近してきているモンスターの数が少しずつ増えていっている。
勿論その理由は分かっている。
1方からしか襲撃をしてきていなかったのが、2方向からに変化し更にその1方からくる数も増えた。最初は2時の方角からだけだったのに、今では12時の方角からも。厄介だよね、進路方向からモンスターが来ているのは。
因みに上空では、ちゅん吉が奮戦している。
襲撃してこようとしている鳥タイプのモンスターが少ないお陰なのか、今の所はちゅん吉のみで対処が出来ているんだけど……これ、更に島へと近づいたらかなりヤバいんじゃないかな。
「これは撤退も考えたほうが良いかな?」
「突破は厳しいのかなぁ」
「……ちゅめら?」
「きゅぅぅ!」
この水中モンスターの群れを突破さえ出来れば……いや、突破した所でモンスターのおかわりが来るだろうから、突破するなら上陸するまでって事になるんだけど。
「まだまだ半分ぐらい距離があるかな」
「精霊の召喚時間は大丈夫かしら?」
「……一応?」
「あ、もしかしてこのペースをキープ出来れば問題ないって感じなのかな?」
「……ん」
「それって結構不味いじゃん。モンスターが増えたら、ちゅめらの足が遅くなる可能性もあるじゃん」
せめて振り切る事ができればと思うんだけど、そこはやっぱり相手の方が速いわけで。
特にイカとかが不味い。あいつらってあの漏斗から水を噴出して高速で移動してくるからね。そこそこ大きな体だと言うのに、空でも飛べるんじゃないかな? と思うよ。
ただまぁ、これがクラーケンとかじゃなくて良かったかな。
クラーケンと呼ばれるサイズのモンスターで、槍とかハンマーを使ってきたらと思うと……あぁでも、あの巨大な触腕の一撃はすでにハンマーみたいなものかな。
「今のところは、イカもタコも1体ずつだからマシなんだろうけど」
「……増える」
「そうね。間違いなく増えるでしょうね……っと、ロックウォール!」
秋山さんが魔法を使うと、出した石の壁にランススクウィッドの槍がズサッと突き刺さった。
どうやら少し離れた位置から、虎視眈々と狙っていたらしい。……もし気が付かなかったら、船体に穴が空いてただろうね。
ただ、ロックウォールに突き刺さったために、ランススクウィッドは槍が一本封じられた状態。
これは少しだけ運が回ってきたのでは? と思ったのだけど……それもつかの間。
ドゴォォン! と大きな音を立てて、ロックウォールが粉砕した。
一体何事か!? と確認してみると、どうやら今度はハンマーオクトパスがロックウォールをその触腕にあるハンマーで殴りつけたみたい。
何やらいい顔でサムズアップをしているイカと、それに返事をしているオクトパス……の幻影が見えた。うん、だって彼奴等一瞬だけ見つめ合ってたし。
「ただまぁ、ナイスチームワークなのは間違いないけど」
「軟体モンスターにやられたと思うと癪だわ……折角イカの槍を捉えたと思ったのに」
モンスターの手数を減らす事が出来たと思った瞬間に復活だもんなぁ。本当残念すぎるよ。
ただ、そう残念に感じるのも理由があって。あのタコとイカは、最初の内こそフライングブレードフィッシュ……面倒だなぁ。もうトビウオでいいか。
奴らはトビウオをFFしていたんだけど、どうやら慣れと学習をしたのか、今では上手いこと立ち回っている。
俺達がトビウオ達の処理に手間取った瞬間とかを狙って、先程みたいに奇襲を仕掛ける方針を取るようになったんだよね。本当に厄介なタイプのモンスターだよ。
そしてその上で、タコとイカがチームワークを見せたとなると……これってもう、この一帯全てがフィールドボスと言っても良いんじゃない? とシステムに言いたくなるほどの難易度だと思うんだけど。
「あいも変わらずトビウオは数が増えていくし!」
「トビウオって……確かにトビウオな見た目をしてはいるけど」
「エリカ。フライングフィッシュってトビウオの事よ。ただこれはモンスターでブレードが付いているけど、トビウオと言っても問題ないと思うわ」
「……お刺身?」
「流石にモンスターを刺し身で食べるのはどうかとおもうじゃん。てか、そもそもドロップするか?」
ソレについてはドロップ品が拾えないからわかりません! と言うか、結構前に俺が勿体ないと思ったことなんだけどね。
確かに会話をしていなかったから、今そういった話題が出てもおかしくはないけど。
「そういえばスリケンは?」
「今の所は夏目さんの遠距離攻撃で殲滅してるって感じ? 多少抜けてきても、俺か冬川さんの魔法で……っと、ロックボール!」
「……シャドウボール」
そりゃ、スリケンフィッシュは接近されたら皆のSAN値が減りかねないからね。だから、優先的に潰させて貰ってはいる。
俺もあんなのに張り付かれるのは絶対に嫌だしね。
「そう。それなら安心出来るわ。っとロックウォール!」
それにしても、もう少しタコかイカにもアタック出来たら良いんだけど……中々、手が回らないんだよね。
こうなにか一つでも手が増えたら行けそうな気はするんだけど……。
「くぁ!」
「……出来るの?」
「きゅぅ!!」
あの手この手を考えていたら、ちゅめらが何か思いついたようで冬川さんへと話しかけていた。
そして、その話を振られた冬川さんは俺達に向かってこう言った。
「……スピードが上がる」
「え? そんな事できるの?」
「……ん。しっかり掴まる」
そう冬川さんが告げるやいなや、ちゅめらはぐるりと方向転換をした。あれ? そっちに向かって泳いだら拠点の方へと戻ることになると思うんだけど。
なんて思った俺は、あのバンカータートルとの戦闘の事を完全に忘れていたんだよね。あの亀が一体何をしたのか。ソレを覚えていれば、次に起こることは直ぐに予想出来たというのに。
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