いざ出航!
地図も無ければグングニルも無い。だけど、目的地である島自体は見えてる。
なんて馬鹿事を俺は考えながら、ちゅめらに移動スピードをゆっくりと進むように指示をし、湖の航行を開始した。
船のスピード。と言うか、ちゅめらが本気を出すのはモンスターゾーンに入ってからでいい。それまでは、この船旅をゆったりと皆で楽しむつもり。
「試験航海の時よりも船が安定してるわね」
「一応改良はしたからね。とは言っても、ほんの少しだけ船の形を変えただけだけど」
誤差レベルといえば誤差レベルだと思う。だけど、その差が水の抵抗やちゅめらの動きからくる揺れを軽減しているようで、俺達はかなり快適に乗船出来ているんだよね。
「それにしても今回はちゅー太じゃないじゃん。雪どうしてなん?」
「……ちゅん吉がベスト」
「上空からの索敵ね。確かに見下ろし視点があった方が、モンスターへの攻撃があてやすいもの」
水中から来る敵に対して、船の上からだと中々見つけにくい。
だけどそれを、精霊であるちゅん吉の目を使い上空から確認すれば、船の下にいない限りは丸裸になるはず。
後はそんなちゅん吉から送られてくる映像をもとに、冬川さんがスポッターの役割をし、俺達が魔法やら矢やらを打ち込めばいいって事なんだけど。
「上手くいくかなぁ?」
「まぁ普通に考えて、最初の1発か2発は外れるだろうけどね。ただそこから、修正して命中させるようにするんだけど……」
問題があるとすれば、そのスポッター役が冬川さんという事だろうか。
あまり言葉を話さないからなぁ。一応練習はしたんだけど、冬川さんの指示出しって最初の内は「……右」とかだったからね。
いやいや、右だけじゃわからんよ! 後どれぐらい右なのかとかそういうのも欲しいから! と、冬川さんに伝えてなんとか数字を含めての指示に変える事が出来たんだけど。前後左右全てとなると、微妙にタイムラグがあるからなぁ。
モンスターも動いているということを考えると、練習をしてきたとはいえ、少し不安が残ると言った感じかな。
とは言え、出航もしているわけだし、後はぶっつけ本番だね。……ただ、少しでもダメだと思ったら直ぐに帰還するつもりだけど。
因みに、練習についてだけど、湖にターゲットとなるものを浮かべて、ちゅめらに高速で移動してもらいながらソレを狙い撃つというのをやった。
命中率は……まぁ、数を撃てば命中するよ。うん。
「でも、あの命中率じゃちょっと不安だよね」
「一応アレは遠距離の狙撃練習だったからね。実際の戦闘にあれば、範囲攻撃をもう少し近い距離で打つ感じになるかな」
「むしろあの練習がおかしいのよ……ちゅめらの高速と言えるスピードで移動しつつ、魔法の射程ギリギリから単体魔法である〝アロー〟を当てるとか。正気の沙汰じゃないわ」
「その正気を疑うような攻撃を、かなりの数を命中させた人がいるんだよねぇ」
「……天才と何とやらは」
「へっへっへ。照れるじゃん」
俺に秋山さんと冬川さんの命中率は、恐らく1割~3割ぐらい。
だけど夏目さんの命中率は、さすが弓使いとでも言えばいいのかな? 恐らく7から8割ぐらい命中させていたと思う。
ただ、モンスターが相手となれば今度は動く敵に命中させないといけないので、もう少しその割合は下がりそうではあるけど。それに、水中へと潜っていく可能性もあるからね。
それよりも、夏目さんや……確かに褒めはしたから照れるのは良いけど、冬川さんのソレは別に褒めてないからね? むしろ、脳筋とでも言いたそうなワードなんだけど。多分これ、分かってないよなぁ。
まぁ、わざわざ教えなくても良いか。本人は気分が良さそうだし。
いや、ソレを言ったら正気を疑うと先に言っている時点で、俺の言ったことも褒め言葉ではないかも? うん、この事はスルーしておこう。
そんな会話をしていると、ちゅめらの移動スピードが徐々に上がってきた。
これはもう少ししたらモンスターが襲撃をしてくるゾーンに入るという事で、モンスターゾーンに入った瞬間にちゅめらのスピードがトップになるようにしているって事なんだよね。
これは襲われる前に、トップスピードでぶっちぎって逃げてしまえ! って方針なんだけど、難しいかな? とは思っている。
いくら動きやすくしたとは言え、やっぱり5人+船という荷物を背負っての遊泳だからね。ちゅめらだけの状態と比べれば、かなりスピードが落ちているのは事実。
そんな落ちたスピードであれば、当然だけど追ってくるモンスターの方が早いわけで。
「さて、そしたら戦闘準備かな。冬川さん最初の目標は?」
「……ん。二時」
「了解。そしたら最初は私から行くじゃん」
モンスターが襲撃してくるゾーンに入れば、相手はこちらの動きに反応して直ぐに行動を開始してくる。
なので、まずは狙撃が得意な夏目さんが、モンスター達の出鼻を挫く攻撃をする……と、ここまでは最初に決めていた予定。
後は野となれ山となれ。何せ何処からどういう風にモンスターが襲撃して来るか分からないからね。なので、初手だけでもしっかりと決めておきたい。
「空中・水中関係なく、私の魔法矢は逃さないじゃん!」
……何か何処かで聞いたことが有るセリフだなぁ。なんて思ったんだけど、夏目さんのファーストアタックはとんでもないモノで……。
空中へと撃ち放たれた魔法矢は、モンスター達の上空にて弾けたかと思うと、小さな矢のようなものが大漁に湖へと降り注いだ。
おいおい! これは逃さないじゃなくて逃れられないの間違いじゃないかな! だってこれ、どう考えても逃げられる場所がないよ。……普通なら。
降り注ぐ魔法矢の雨。属性はどうやら氷らしい。
そんな氷属性の矢が湖へと着弾すると湖が凍る。ついでにその周囲にいた魚型のモンスターも凍る。
とは言え、数匹のモンスターは水中へと逃れることが出来たようで、現状その逃げたモンスターに関しては観測が出来ていないらしい。
「……凍って見えない」
「あ、やらかしじゃん……ごめん。別の属性が良かった」
「まぁ大丈夫でしょ。全くモンスターにダメージが無かったとかそういう訳じゃないもの。むしろ、結構な数が凍ってないかしら?」
進路的にも進む方向じゃないから問題ないしね。これが11時から1時の範囲だったら、少し問題だったかもしれないけど。
「ま、モンスター達は潜ったみたいだけど、再度アタックしてくるならそのうち顔を出すはずだしね。それに、水中とはいえ、氷や船の下でもない限りはちゅん吉の目に捕捉されるよ」
「……見えないのは氷の下」
もしサイレントアタックがあるとすれば俺達が氷の傍を通る時。
だけど先程の考察したように、氷の傍を通ることがないからね。なので、コレは別に夏目さんが大きなミスをしたと言うわけじゃない。なので、あまり気にせずどんどん攻撃をしていって欲しいかな。
「とは言え、近距離の場合だと氷魔法は使わない方向で」
「了解したわ」
「雷もダメじゃん?」
「あー、下手をしたらちゅめらがしびれるかも?」
「……禁止」
なので、使うなら基礎魔法4種か闇魔法にしましょうという事で。
光魔法だと、多分水には弱いんじゃないかなぁ。水って光を〝吸収〟したり〝散乱〟したり〝反射〟させたりするから。多分、思ったようなダメージは与えられないんじゃないかなぁ。
ほら、某ゲームだとビーム兵器というか光学兵器は、水中への攻撃判定がとても残念だし。
とは言え、距離が有るのであれば氷はありだと思う。
夏目さんの攻撃で分かったけど、かなりの範囲を巻き込む事が出来るからね。
さてさて、距離のことを考えれば初撃は上々と言っても良いんじゃないかな? とりあえず、このままのペースで島まで行きたいけど、流石にこの程度な訳がないよね。
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