ひらめきと……
どうやら俺は固定観念に囚われすぎていたらしい。
湖を渡るという事で、5人同時に移動出来る手段というと船しかない! と思い込んでいた。そしてその動力として、ちゅめらに牽引して貰う必要があるんだと。
別に、ちゅめらに引っ張ってもらう必要性が必ずあるという訳じゃないのにね。
船が浮いてしまい、その後の着水で船にダメージが入る現象。これは、ちゅめらがもの凄いスピードで船を引っ張っているから。
それなら船を引っ張るという形を取らなければいい。
「馬の鞍みたいにしちゃえばよかったんだよなぁ」
「……かっこわるい」
確かに見た目は悪いかもしれないけど、これなら船が引っ張られる力で浮くことはないからね。
発想のキーとなったのは単純なモノだった。
いくら実験をしても、俺の造船技術ではどこかしらに不具合が出てしまう。さてどうしたものかと考えていると、ちゅめらに皆が乗れたらいいのに的な事を、冬川さんがちゅんめに騎乗しながら発言をした。
その時ひらめいたんだよね。「あ、5人乗れる鞍を作ればいいじゃん」って。まぁ、実際に鞍を作るわけじゃないけど。
そこから思考は加速されていった。
ボートタイプの乗り物で、ちゅめらとドッキング出来るようにしてしまえばいい。何かあったら切り離しが可能で、一応ロープでも牽引出来るようにする。
構想ができてしまえば後は早いもので、さくっと試作を作り上げてみせた。
そして、現在はちゅめらが実際にその甲羅の部分に船をドッキングさせて泳いでいる。
「スピードが出ても問題が無さそうだね」
「……でもまだ抑えてる」
ちゅめらがスピードを抑えていると言うか、あれは船がその甲羅に乗っているからだと思う。
今までとは違う水の抵抗などもあるだろうから、慣れるまでは思うように泳げないんじゃないかな? 人間だって、鎧や装備を装着したまま泳ごうと思ったらかなり大変な訳だしね。
ソレに、あの船がテストだというのも理解しているだろうし、そのテストが終わったら俺達が実際乗ることになるから、ちゅめらも色々と気にかけて泳いでいるんだと思う。
ただ、そんな風に気にしながら泳がれてもテストにならないんだよね。
「てなわけで、ちゅめら! もっと壊すつもりで泳いでみて」
「くわっ!?」
「テストだからこそだよ。壊してもらって何処が悪かったのか検証するのが一番得るものが有るからね」
「きゅー!」
俺の言葉にちゅめらは「それならば!」と返事をし、一気にスピードアップをしてみせた。
船をよく観察する。
装着型にしたのが良かったのか、船が空中へ飛ばされてから水面へと叩きつけられることは無くなった。更に言うなら、引っ張られていた時と違って、右へ左へと振り回されることもない。
これは正解だったのでは? と思うけど、問題がまったく無い訳ではない。
と言うよりも、装着型だからこその問題も発生している。
「牽引型と違って、ちゅめらへの負担が少し大きいかな」
「……泳ぎにくそう」
少し考えたら分かる話。
人で例えるなら、浮き輪に乗っている人を引っ張っていくのと、直接背負ったりして泳ぐのはどちらの負担が大きいのかという話。
当然だけど、背負って泳ぐほうが大変だよね。重さがのし掛るって事以外にも、自分が自由に動けるスペースも減るわけだし。
なので、今回の試作についての評価は、アイデアとしては成功だけど、物としては失敗といった感じかな。要改良って事だね。
「ただ、船が破壊されなくなったってだけでも進んだかな」
「……ん。大きな一歩」
後は、ちゅめらが動きやすいように改良しつつ、実際にモンスターと戦闘になった時はどうなるかって事かな。
「それと、俺達が実際に乗ってみてってのもあるね」
「……乗り心地?」
「それもあるかな。船酔いしたら大変だしね。ただソレよりも、俺達が船から投げ飛ばされたりしないかってのもある」
船から落とされたら、モンスターの群れに飛び込むことになっちゃうからね。
一応、命綱とかも用意するつもりでは有るけども、その命綱もしっかりと仕事をするのかどうか試す必要がある。
「ゴールは見えてきたんだけど、やるべき事も増えたって感じかなぁ……まぁ、必要なことだけどね」
「……大変?」
「んー、大変ではあるけど、色々と考えながら作るのは楽しいからね」
本来であればありえない物を使い、ありえない方法での生産。
あれやこれやと考えるだけでも、脳内が大変なのに実際に作れるからね。これが楽しくないわけがない。
こんなの、大変だ! という思いなんて何処かへ吹き飛んでしまうよ。物を完成させることが出来たら尚更に。
「さて、もう少し手を加えたら、次は実際に乗ってみるテストかな」
「……ボクが乗る?」
「いや、最初はオレ一人でかな。それで大丈夫そうだったら、冬川さんにも乗ってもらうって流れで」
「……ん」
最初の有人実験を他の人に任せる訳には行かないからね。何せ何が起こるかわからないし。
『ケケ。そう言うが、本当は最初に乗る楽しみを自分で味わいたいだけだろう?』
『景も悪い人ですねぇ。相手を心配しつつ、その実が自分の楽しみだなどとは』
違うわい。
確かに多少そんな気持ちもないわけじゃないけど、そんなのは1割有るかないかのレベルだよ。
実際に乗ってみて、船に何が起きるかを直接みるのは大切だからね。もし破損する場所があれば、何処からどう壊れていくのか、それを直接見ることが出来ればすぐに改良出来るし。
そんな情報を入手出来るチャンスを、他の人に譲ってどうするのさ。
全く。天使と悪魔が揃って人聞きの悪い事を言い出すなんてなぁ。他の人……と言うか、冬川さんと精霊達に聞こえていないから良かったけど。
てか、君等って結構な頻度で言い合いみたいな事をしてるけど、本当はかなり仲が良いでしょ。今回も意見が一致したみたいだし。
『ケケ! そうだぜ! 俺達はいつも仲良しなんだぜ』
『そんな訳がないでしょう! 私とコレの仲が良いなど……なんと悍ましい』
『なんて事を馬鹿天使は言ってるが、これは天使の照れ隠しだぜ? 所謂ツンデレってやつだ』
『誰がいつ何処でデレましたか!!』
うんうん。どう聞いていても仲が良いよね。ほら、喧嘩するほどなんとやらというか。
『うぅ……景が何やら誤解しつつ、生暖かい視線を送ってきている気がします』
『気がするじゃなくて事実だな』
『やかましい! 元はと言えば、アナタが変な事を言うからでしょう!!』
『クケ。俺様は事実しか言ってないんだぜ』
天使と悪魔のやり取りを聞いていたら、冬川さんが心配そうに俺の事を見ていた。
「……問題?」
「いや。問題は無いかな。ちょっと考え事をしてた」
「……はっ! ご飯?」
「いや違うから……あ、でもそろそろ昼食タイムかな」
ちゅめらの稼働時間の事も有るから、そろそろ一度休憩を挟むのが良さそうだ。
時間的にも昼食を取る時間になりそうだし、少し早いけど昼ごはんの準備をするのも良いかな。
「……がんばる」
「あー……冬川さんは皿を並べるのと盛り付けをお願い」
「……むぅ。不満」
「出来ているものを皿の上に出すだけだから。不満と言われても調理する事はないよ」
春野さん達が作り置きをしてくれているからね。だからソレを取り出すだけなんだけど……。
「……ひと味加える?」
「そのままで十分じゃないかなぁ。ほら、かなり美味しそうだし」
「……むぅ」
むぅと言われても。
それに、その手に持っている、自分のアイテムポーチから取り出したその花蜜は一度仕舞おうか? そんなのを混ぜたら甘すぎになると思うよ。おにぎりはパンケーキじゃないからね。
「……美味しいのに」
残念そうな表情を浮かべているけど、流石にソレはないから。もう少し、食べる物とか組み合わせを考えようよ。
ブックマークに評価ありがとうございます!ヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪




