運転手チームの現状と……~桔梗視点~
「新しい場所では上手く行っていますか?」
私がそう問うと、目の前にいる男性は自分の頭をポリポリと掻きむしりながら、「んー……どうだろうな。まあ、あいつらは普通に戦闘が出来ているみたいだが」なんて事を言いながら、少し苦々しい表情をしていた。
あいつらとは、多分あのちょっと戦闘狂っぽい雰囲気の子達だろう。確かに彼女達であれば、あのレッサーライオン達とも戦い抜いていける気がする。
とは言え、レッサーライオン達も群れで行動するタイプ。なので純粋な生産職がいると護衛に人を回さないといけない。きっと苦々しい表情をしている理由は、護衛の人数が増え、上手く火力押しが出来ないのかもしれない。
そう考えると、私が土魔術師を選択したのは本当に正解だったと思う。
戦闘になる前から戦う場所を自分たちの有利になるように整えることが出来る。コレのお陰で、レッサーライオン達でも、主導権を握ったまま戦うことが出来たのだから。
「あれ? でも彼女達って戦闘ができるのは一人では?」
「あー……そこはパーティー内にいるもう一人が大活躍しているみたいだ。何やら歌によるデバフ効果が凄いそうだ」
歌ね……。おとぎ話とかでもある、歌による攻撃と言うのはかなり恐ろしい物があるのよね。
例えばセイレーン。
姿はアレな感じな海の化け物なのだけど、その歌声がとても魅力的で、船乗り達が惑わされてしまう。そして、船乗り達の行き着く先は遭難や難破。
他にもハルピュイアも挙げられるけど、これは本来の姿ではなく……セイレーンと話が混合していると思われてる。
実際のハルピュイアは顔から胸までが人、足と翼が鳥。なのだけど、その人の顔の部分が老婆の顔でその食欲などは目も当てられないほど悲惨なもの。
一体何処でセイレーンと混合されたのかしら?
後は歌とは少し違うのだけど、日本だと猫又なんかも挙げられるかしら。
三味線を奏でていたりするのだけど、その三味線の素材が……えぇ、お察しというやつね。もし、同族がそんな姿になってしまったのなら、その猫又を見た〝人〟は一体どうなるのかしらね。
ただこれは、江戸時代の妖怪絵巻の一つに書かれていたものだから、実際に人がと言うのは明確に書かれていないのだけど。
モンスターではないけど耳なし芳一もあるわね。
平家物語を得意とする琵琶法師。だけど、それが祟ってなのか、平家の怨霊を大漁に引き寄せてしまう。そして、色々ありその平家の怨霊から耳を切り取られしまうという話。
一体どれだけ、その語りに魅力や魔力があったのかしらね。
ともあれ、そんな〝歌〟に魔力を乗せる事で不思議な現象を起こす。それを故意的に出来るのが「シンガー」というジョブ。
しかも、そのジョブについた人は更にランクアップも果たしている。となれば、その効果は途轍もないモノになって居るのだと思う。
「よく分からないが、あのライオン共が眠ってしまったり、仲間同士で戦いだしたり、何処かへと駆け出してしまうらしいぞ」
幻覚や催眠効果を持つのでしょうね。
その彼女が歌でモンスターの隙を作り、もう1人の女子が接近戦で止めを刺していく。そんなチームプレイで戦っているのでしょうね。
まるでセイレーンそのものと言っても良いかもしれない。……絶対に敵対はしたくない相手だわ。
「あれ? 確か他にも2人ほど居たわよね?」
「その2人は生産系だからな。現地で装備の整備やら荷物運びやらをやっているんだろう」
なるほどね。確かに生産職でも戦場でできることは有るものね。
それに、歌によってデバフが掛かっているモンスターであれば、生産職でも簡単に倒せる可能性だってあるかもしれない。
後はそこへ支援系のジョブ持ちが混ざれば完璧なのでしょうけど……。
「彼らってジョブチェンジをしなかったの?」
「何でも「一度レベルダウンするくらいなら、このまま生産職で完璧な装備を作ってみせる」と言っていたな」
それはまた……もしかして、あの戦闘狂いっぽい子は装備品を常に破壊でもしているのかしら?
普通に考えたら1人ぐらいは違うジョブについたほうが良いと思うのよね。彼女達の編成を考えると、回復は間違いなく道具頼りでしょうし。
一応、歌による支援があるとは言え、その効果が発揮されるのは、歌っている最中か全てを歌い終わった後になるはず。
即時回復などが必要となる場合、歌だと余りにもその条件は厳しい。
例えリジェネ効果がある歌であったとしても、ジワジワと回復するという事は、追い打ちに大きな一撃を受けてしまえば回復の意味がないのだから。
まぁ、だからこそのポーションなのでしょうけど。その回復薬が切れたらどうするのかしら? という話なのよね。
「合流して一緒に狩るというのはしないのかしら」
「合流出来れば良いんだがな……残念な事に、俺達はそこまであの彼女に信用されていない。まぁ、近所に住むおっさんぐらいの距離感にはなったと思うがな」
命を預けると言うまでには至っていないという事らしい。
とは言え、どちらかがピンチになった時は助け合うぐらいの事はすると思うのだけど。と言うか、その為にも普段から行動を共にするべきでは?
と思うんだけど、コレが難しいのは私達もよく分かっているのよね。
初期の頃の望月君を思えば……ね。だから、そう思ったとしても、決してソレを口にすることは出来ない。
私達も時間を掛けて距離を縮めていったのだから。
「時間を掛けるしかないですよね」
「おぉ、嬢ちゃん達ならもっと接していくべきだとか言うと思ったんだがな。色々と経験でもしたか?」
「こんな島で生活していますからね」
多分だけど、ただの高校生だった頃なら……それこそ「大人なんだから、もっと彼女が心を開きやすくなるようにするべき」と言っていたかもしれない。
ただ、今の私がそんな事を言っている自分をみたら、きっとぶん殴っているわね。
人にはそれぞれのペースがあるのだし、そもそも〝大人なら〟とかそういうのは関係ないって。大人でも糞みたいな奴だっているという思いを込めて。
「それにしてもだ。今回も色々と持って来てくれたみたいだな。特に塩とか……これ、かなり質が良いだろ」
「えぇ、私達が今探索している場所だと岩塩がとれますから」
「ほぉ……岩塩か。塩とか、海水から精製しているが、微妙過ぎるものしか出来ないからな」
錬金術製でもない限り、この環境で作った塩って苦味が沢山含まれているものね。
最初の内は、それでも塩だからと喜んだのでしょうけど……ある程度すれば、以前使っていた塩の事を思い出して、その違いを比べるようになってしまうのでしょう。
「ただ、この塩は見ての通り石みたいな塊なので」
「砕いて使えってことだな。まぁ、硬いものでぶん殴るだけだから問題はないだろ……てか、ソレよりも俺達が出す物に困るんだが」
私達が求めている物と言えばボックスフィッシュの箱よね。ソレ以外に何か欲しい物があるかと言われると微妙なのだけど。
「他は特に……あぁ、箱ガチャの中身はどうなってます? もしかしたら使えるものがあるかもしれません」
「あれかぁ。確かに偶にレア物っぽいのはあるが、微妙なものも多いぞ?」
「微妙でももしかしたら使えるものに変える事が出来るかもしれませんので、一応見せてもらっても?」
もし彼らが〝真珠〟や〝毒〟でも持っていれば、出来れば交換して欲しい物が発掘出来たということになるのよね。
さて、一体どんな物があるのかしら? あのガチャは確かにゴミだらけになるのだけどね。……もしかして、そんなゴミも丁寧にとっておいてあるとは言わないわよね。
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運転手チームですが、第2フィールドで上手く戦闘ができずに頭を抱えています。
と言うのも、空からスズメの襲撃。地上では馬にライオン居ますからね。下手をすれば、スズメと馬かスズメとライオンが同時に襲いかかってくることもありますので。
本人も実感していますが、地形操作が出来る土魔法がどれだけチートだったのかw
ソレに、土魔法以外にも対空戦力であるちゅん吉が手に入ったのも大きいでしょうね。
もしどちらかが不足していれば、もう少し手間取っていたでしょう。……という事が、運転手達の苦戦から発覚しました。