難しすぎるんよ
船の模型を作っては浮かべてみる。そして、浮かべた船が沈んでいくのを見て肩を落とす。
早々簡単にいく訳がないのは分かっているけど、作ったものが失敗した結果を続けてみるのは、心に刺さるものが有るかな。
「しかも鞍の時に続いてと言うか、それよりも難易度が高すぎるよ」
「求めていることが高すぎるんじゃないかなぁ?」
春野さんがそう言ってくるけど、実際問題として、船に求められる強度はかなり高いものになる。
ちゅめらが引っ張っても耐えられる。そしてまた、水棲モンスターによる突撃ラッシュを受けても直ぐには壊れない仕様が大前提。
それならば木材以外にしたら良いのでは? という話になるかもしれないけど、そうなると重量的な問題が浮上するんだよね。
俺の拙い作りでは、木材以外で船を作ればまず沈むし。そもそも、ちゅめらが船を牽引することが出来ない。
削って削って、ちゅめらが引けるようにしたとしても相当重量はあるだろうから移動スピードは出ず、水棲モンスターの群れに包囲されてしまう事になるだろうね。
そして、船の壁を削って薄くしているわけだから、モンスターの攻撃次第では簡単に沈んでしまう。
色々と考えたけど、木材ベースでスピードを出すのが一番だと判断したんだよね。
「ただ、なるべく硬くて耐久度がある素材が良いけど」
「ケヤキやカシ辺りが妥当と判断して、今はそれで作っているのよね」
「てか、船にこだわる理由は? 他の形でも良いじゃんか」
他の形と言うと、一体どんな物があるだろう? 考えても思いつくことがないんだけど。
「……樽?」
「いや、流石に樽は無いわよね……あ、でも七海が言う事だから」
「樽とかなんて言わないからな! ほら、サーフボードとかスキー板みたいなやつとかあるじゃん」
ちゅめらに引っ張ってもらうということを考えると、確かにそういう案が出ても可笑しくない。
ただ、そのどちらも大きな問題を抱えているんだよね。
「……問題?」
「そう、問題。まず引っ張ってもらうという事で手をフリーに出来ない。バランスを取るためにもロープなりグリップなりを掴んでないといけないからね」
「あー……そうなると、モンスターの襲撃時に反撃が出来ないわね」
「無理やり反撃をしようとしたら、それこそバランスを崩しちゃうしね」
レベルが上がって身体能力が向上しているとは言え、そういったスポーツなんてやって来てないからね。
はっきり言って、水上でのバランスのとり方なんて全くわからないし。その状態で戦闘になると考えたら……うん、思わず背筋が寒くなるよ。間違いなく、滑って転んで水中へと投げ出されてしまう。
だけど船なら下からの攻撃も船体で防ぐことが出来るし、しっかりと体を固定しておけば反撃も余裕で出来るはず。
ただそのためには、船体の強度を増す必要があるんだけど。
「戦闘になることが前提って事よね。スピードで振り切るのは考えていないのかしら?」
「ちゅめらが精霊だとしても、高校生5人を乗せた船を引っ張る訳だからね。流石に振り切るのは難しいと思う」
何度かに分けて移動をしてもとは考えたけど、もし島へと上陸した後に何かがあったら? と考えるとね。間違いなく全員が一緒に行動した方が良い。
それこそ1人や2人で島に上陸した後、即戦闘になったら果たして耐えきることが出来るのか分からないしね。
なので、ほぼ無傷の状態で島へ上陸をしたい。そして、その為にも必要となるのが、強度の高い船という事なんだけど……。
俺達には全く分からないジャンルなだけに、船は次から次へと壊れているわけで。
「あー……またちゅめらの牽引速度に耐えきれなかったかぁ」
「……バキバキ」
「今回は綺麗に真っ二つね」
ミシミシと音を立てた後に、グシャリと中央から裂けていく船体。
無残な姿となった船は、ちゅめらと船を繋げているロープで結ばれた前方のみが俺達の元へと帰ってきた。
嘆いていても仕方がないので、その割れた船を見て検証をしていく。
「んー……俺達の代わりに乗せていた石の重さに耐えられなかった感じかな?」
「スピードが乗って船体がジャンプした後、水に叩きつけられたのが原因かも」
「……重い?」
「人ならバランスをとるから、流石に此処までの事は起きないと思いたいのだけど……」
船の作り方なんて全くわからないから、全てが手探りになっちゃうなぁ。
「作ったことが有るとしても、笹舟程度だし」
「それは色々と違いすぎるよ……でも、似たりよったりかなぁ」
そもそも、船体の作り方なんて誰も詳しく学んだりはしてないからね。
もしかして秋山さんなら……と少しだけ期待したけど、彼女もそこまで手を広げてはいなかったみたい。
とりあえずコレで何度目の失敗だろう。
もう数を数えるのは止めたけどね。うん、最初の頃なんて毎回浸水しまくってたから、その時点で数えなくなったんだよね。
「ま、まぁ。浸水をしなくなっただけマシ?」
「スピードを出さなければ、一応は走行が可能だものね」
ははは……春野さんと秋山さんの言っていることは正しいのだけど、全くなんの慰めにもなってないよ。
「思ったんだけど、硬い木材だけじゃダメとか?」
「どうなんだろう? 強度が高ければ高いほど良いんじゃないの?」
「あ、でも車とかは敢えて柔らかくしている部分もあるのよね。刀とかも硬い素材と柔らかい素材を重ねて作られている訳だし」
衝撃を逃がす場所が必要なんじゃないかな。なんて話になるんだけど……さて、そもそもその衝撃による力を一体何処へどうやって逃せば良いのやら。
あぁ、もう魔法で全部一発でポンと解決しないものだろうか。
「ちゅめらがもっと大きい姿になって、皆でその背に乗る事が出来たら良いのに」
「きゅー!?」
俺がそう言うと、ちゅめらが「それは無茶だよ!?」と抗議するかのように喉を鳴らしてきた。
残念。流石に5人全員を乗せる事が出来るほどの巨大化は出来ないか。
もしかしたら将来的には出来るかもしれないけど、今は間違いなくレベルが足らないという感じなんだろうね。
「船を牽引出来るだけでも立派じゃん」
「……えらい」
「くわっ!」
夏目さんと冬川さんに褒められて、ちゅめらはご機嫌みたい。リズムよく「くわっ、くわっ」と口を鳴らしているのは、まるで歌っているみたいに見える。
ただ、そんなちゅめらの背にはちゅー太がでん! と乗っていたりする。
しかも、何やらちゅー太専用の釣り竿? のような物を持っているんだけど……一体何のつもりなんだろう。
「ちゅちゅちゅ~♪ ちゅちゅちゅ~♪」
「くわっくわっくわわ~♪」
……うん。何か合唱でもしているかのようだ。しかし、一体なにを歌っているのか全くわからないよ。
「……助けた?」
「ちゅめらに連れられて?」
え、もしかしてソレなの?
何やら冬川さんと春野さんが疑問を浮かべつつも、2体のリズムに続いたんだけど……。
「なんで分かるのかしら?」
「えっと、リズムだけでかなぁ。俺には全く分からなかったけど」
俺と秋山さんは全く分からなかった。夏目さんは分からなかったようだけど、楽しそうだからと突撃をしていった。
ただ、どうやら歌自体は正解だったようで、3人と2体は楽しく歌い始めてしまった。
「いやいや、今は船の事をやってたはずなんだけど……」
「少し休憩をしましょう。流石にずっと続けているもの。少しは頭をリセットする必要があるわ」
それもそうか。ちゅめらだって、何度も何度も船を引っ張り続けているしね。
それに、一度休めばいい案も出てくるかもしれないしね。
だからここは、甘い何かを用意して一度リフレッシュするとしよう。どうやら休憩の音楽には困らないようだしね。
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