移住しないとしても必要ではあるからね。
まったりと休んだ後は、この場所に簡易の拠点を築いておこうという話になった。
いつもの事なんだけど、こういう時に一番輝くのは秋山さんで、彼女は地面を隆起させながら壁を作ったりし、拠点となる場所を確保している。
この場にモンスターが現れないとは言え、状況がいつ変化するかわからないしね。
だから簡易だからと手を抜くことはしない。しっかりと防衛が出来る施設として作り上げる予定なんだよね。
「水場は目の前にあるから良いとして、居住空間はどうしようかしら?」
「あ、それよりも拠点は少し高くしておいたほうが良いんじゃない? もし湖が広がったりしたら拠点が水浸しになっちゃう」
「……水上都市」
「いや、都市じゃないじゃん」
目の前に湖があるから水害の問題もあるのか。となると、家の床は普通よりも高くしたほうが良いかもしれないね。
ただ、高床式ほど高くする必要もないと思うけど。
「土地を盛ってから壁の外は堀にしておくのがベターよね」
「いつもと同じって事だよね。ま、前回拠点の整備をした時は、元々他よりも高い所でやったけど」
「それにしても、桔梗が万能すぎてやることがないじゃん」
「……足手まとい」
そうなんだよね。ぶっちゃけ、土地の整備は彼女一人で十分というレベルで活躍をしている。
大きな建材だとしても、それを移動させたりするのにゴーレムを使っているお陰で、俺達では持てないサイズの物を軽々と移動させることが出来ている。
なら俺達は何をしたら良いの? という話になるんだけど。
「俺の場合は家具を錬金術で作れるから仕事は有るんだけどね」
「……ボク達は?」
「んー……作った家具の配置?」
「それに3人も必要ないよね」
秋山さん以外の時が止まった。どう考えても手伝える事がないから。
ならばと他の事を考えたとしても直ぐに思いつくような事もなく、思いついた所でソレをやるにはハードルが高すぎるという内容だったりする。
「採取に出るのは問題じゃん」
「だよね。私達の中で鑑定を持っているのは望月君だけだしね。第1フィールドの時ならまだしも、第3フィールドだもん。何が有るか分からなさ過ぎるよ」
そもそも、第1フィールドでもよく女子だけで探索したよなって思うけどね。
確かに比較的安全な場所ではあったけど、何気に毒草とかもあったからね? 今思うとかなり危ない事をしていたと断言出来る。まぁ、あの時は色々と余裕が無かったから、そういう判断をしてしまったんだと思うけど。とはいえ、こんなのは今更の話だね。
ただただ無事であった事に感謝するとしよう。
「なんのための鑑定かって話だからね……となると、他にやるとしたら釣りとか料理?」
「魚は望月が大量に釣ってたじゃん」
「それはそうだけど、保存もできる訳だし数があっても問題ないと思う。それに肥料に出来る可能性もあるしね」
干鰯。
確か戦国時代辺りから使われるようになった肥料で、草木灰や人糞よりも効果が高いと注目された肥料だったかな。
江戸時代にもなると、大阪とか堺に干鰯専門の問屋とかも有ったんだとか。
鰯という文字が使われているけど、土地次第では鰊や鮭とかも使われていたって言うけど……なんだか勿体ないよね。食べたほうが絶対に良いじゃん。だって美味し! と思うんだけど。
もう少し時間が進むと魚油としても加工されるようになるんだけど、魚の油かぁ……作っておけば食べ物の種類が増えるかな?
「あ、大豆がないけどわんちゃん魚醤ならいけるかも?」
「え……魚醤って臭いっていうじゃん」
「……香りは大切」
う……確かに独特の香りがするっていうよね。
俺自身が魚醤を使ったことがないから、一体どれほどの匂いか分からないんだけど、それほど臭いのだろうか? これは挑戦してみたい気もする。
「やるなら絶対に臭いが広がらない場所でやってね」
「間違えてシュールな缶詰を作ったり?」
「……兵器?」
魚の加工品について会話をしていると、何やら秋山さんが呆れたと言わんばかりの表情で俺達の方へと歩いてきた。
「アナタ達ねぇ……魚醤は独特な臭いとは言うけど加熱には弱いのよ。調理法を間違えなければ、魚醤は濃厚な旨味が有るし、なによりミネラルやビタミンも含まれているから素晴らしい調味料と言えるわ」
ただ、秋山さんは「それでもやっぱり、大豆で作る醤油の方が使いやすいのだけどね」と付け加えた。
それもそうか。そうじゃなければ、食卓にはしっかりと魚醤と醤油が並んでいても可笑しくないもんね。
だけど一般家庭には醤油しか無い。ソレを考えると、魚醤って使いにくいんだろうなぁ。
とは言えここには大豆が無い。そうである以上、味のレパートリーを増やすためにも魚醤作りは断然有りだろう。
「って事で、魚をもっと釣ってきてもらっても良いかな?」
「釣るよりも罠の方がよくない? 確か前に海で使ってたトラップの筒があったよね」
そう言えばそんな物もあったな。
ただ、あの頃に作ったものは品質が最低なんだよね。それならここで新しく作ったほうが良いかもしれない。
「いやいや、勿体ないよ! 作ってもいいけど、古いのも壊れるまで使っちゃおう!」
「……再利用」
「いやまぁ、使うって言ってくれるのは作った側からしてみると嬉しい話ではあるけど、効率が落ちるんじゃないかなぁ」
「沢山魚を捕ると言っても使うのは私達5人分よ。多少効率が落ちたとしても問題は無いのではないかしら?」
そういうものだろうか。
確かに倉庫の肥やしにするよりは、何かに使ったほうが絶対に良いのは間違いないけどね。それが、作られた本来の目的で使われるのなら尚更。
「壊れる前提で使っちゃおう!」
「破損したら、後は竹炭にでもしたら良いんじゃないかな」
「破壊は破壊でも修繕不可能になることを想定してない?」
道具的にもそこまで使われたら本望だろうけどね。
ただまぁそこまで言うのならと、アイテムチェストから仕舞い込んでいた魚用のトラップを取り出していく。
「結構あるね! これなら期待出来るかも」
「品質は全く良くないからね? そこまで期待しない方が良いと思う」
一つでも無事に残って魚を捕る事が出来れば御の字じゃないかなぁって俺は思っている。
だって最低品質だよ? そんな道具で第3フィールドに棲む魚を獲ろうって言うんだから、そりゃ厳しいものが有ると思うよ。
ただ救いがあるとすれば、狙っているのが普通の魚でありモンスターではないって事かな。
もしモンスターであるなら、間違いなく全て破壊されるだけだからね。
「一応釣り竿とタモも持っていってね」
「……当たり前」
「仕掛けるだけなら時間は掛からないもんな。仕掛けた後に少しでも数を増やすのに釣りはしてくるつもりじゃん」
用意した道具を自分たちのアイテムポーチに仕舞っていく夏目さんと冬川さん。
という事は、この二人が魚を捕りに行くって事でいいのかな。
「雪には料理を任せられないから……」
そう言えばそうだった。冬川さんはバツマークを二つ付けたくなるような、ダークマターを作り出す人種だったよね。
そりゃ任せる事なんて出来ないよ。
「……失敬な」
「いやいや、事実だからね? 雪、目を背けちゃダメよ」
「……心外」
あれだけの兵器と言えるような物を作り出しておいて、本人は未だに認めるつもりがないらしい。
断言しよう。あれは、人の、食べ物なんかではない! と。
「……じぃ」
睨まれてもこの考えを変えるつもりはないよ? むしろ、どうやったらあんな物を作れるのか逆に知りたいレベルではあるけど……実践させる訳には行かないからなぁ。食材の無駄になってしまうし。
あれ、兵器ではあるけど絶対にモンスターも口にはしないだろうからね。
「って事で、冬川さんは釣り担当確定で」
「……むぅ」
抗議は受け付けません。
もしそのダメダメな称号を返上したければ、まずオリジナルレシピにすることを止める事からだよ。
ブックマークに評価ありがとうございます!ヾ(*´∀`*)ノ
雪ちゃん台所から締め出される。
まぁ、独創的にアレンジしてしまうのが悪いという事でw