閑話・物の価値
――なるほど。彼女達の言っていた新フィールドはこういう場所だったのか。
俺は目の前に広がる光景を眺めながら、全てを納得したように頷いてみせた。
「鈴木さん。何分かっちゃったような雰囲気を醸し出してるんですか? 私なんてもう何がなんだかといった気分ですよ!」
「山田くんは山田くんだな。見てわからないか? この黄金色の大地を」
「稲ですよね。勿論分かっていますとも! ただ私がわからないと言っているのは、何でこんな貴重とも言える場所を彼女達は教えてくれたんだろう? って事です!」
考えられる事は幾つも有る。
例えば、自分たちの土地で稲作が成功しているからだ。
安定して自分たちの分だけを確保出来る下地が出来たのであれば、もはやこの様な場所に来て採取する必要もないだろう。
それならば、人数的にも抱えている数が多い俺達に恩を売っておいたほうが良いと考えたのかもしれない。
他にも考えられることが有るとすれば、もっとより良い群生地を発見したとかだろうか。
もしくは……俺達にとっては新しいフィールドだが、彼女らにとっては無用となった可能性だってある。
「とりあえずだ。彼女らのお陰でこんな新天地に来ることが出来た事を喜ぼうじゃないか」
「ゴーレム討伐は大変でしたけどねぇ……」
「学生諸君が頑張ってくれたからな。それに、ゴーレムの攻略法も教えてもらっていたから随分楽だったとは思うぞ? 無策で挑んでいたら、一体どれだけ時間が掛かり、怪我人が出ていたのやら」
「それはそうなんですけど……」
ゴーレムの討伐。新フィールドでの採取。更に言うならジョブの昇進か。これら全ての事を考えると、果たして渡したアイテムではバランスが取れているのだろうか? と疑問にすら思う。
しかし、あの時の俺達にとって、渡せるアイテムと言えばアレぐらいしか無かったからな。
交易の時の為にと溜めておいて本当に良かったとあの時は思ったんだがなぁ。
「でもだからって〝ゴーレムのコア〟でしたっけ? アレを渡してしまうなんてどうかしてます」
「とは言え、俺達には錬金術師なんて居ないだろう? 今から転職するにしても、成長させるまで時間が掛かってしまうだろう。それに、現状バランスが取れているから、コレを崩す訳にもいかない」
「ぐぬぬ……」と言いながら山田くんは黙ってしまった。
彼女にも分かってはいるのだろう。〝ゴーレムのコア〟は俺達にとっては無用の長物だということぐらい。とは言え、折角フィールドボスだったか? それから出たレアそうなアイテムだからと、勿体ない精神が働いているのだろう。
俺はどちらかと言うと、使える者に使ってもらった方が絶対に良いと思うんだがな。
それに、ソレを渡すことで彼女らとの関係も良好になり、更に良い情報やらを貰えるかもしれん。ようは使い道ということだな。
しかしこれ以上この話をしても、お互いの空気が悪くなるだけだろう。
「さて、その話は皆で話し合って決めたことだからな。ここまでにしておこう。それよりもだ。山田くんはジョブの昇進をどうするつもりだ?」
「……レベルが足りていないんですよねぇ」
「あー……そう言えば君はあまり戦闘に出ていなかったからな」
学生らだが、どうやら彼らも出来る者と出来ない者に分かれてしまっているようだ。
ただ彼らの中でも、あの〝バーサーカーな彼女〟を抱えているPTは全員昇進出来たらしい。全く……彼らはこのままこのフィールドを突っ走っていくんじゃないだろうか? 一応モンスターの情報を貰っているが、暴走して怪我をしたりしないか心配になってくるな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ジョブを昇進させる事が出来るという事で、僕たちは早速その塔に触れたんだけど……。
「うふ、うふふふ。ねぇ、強い子はどこ? この塔は破壊しても良いの?」
「しーちゃんダメだよ! これはもっと強い敵と戦えるように、しーちゃんを強くしてくれるありがたいものなんだから」
「そうですわよ、詩麻さん。これが無くなっては皆さんが困ってしまいます」
流石は〝ブレーカー〟。初見の物はまず破壊出来るかどうかから入ってしまう。
しかも彼女の手には凶悪な物が握られている。まぁ、僕が作ったんだけど。
「むぅぅ。早くこの鉄槌を試したいのぉ!」
ウズウズとしている詩麻さんを見ていると、鉄槌を早々に渡したことは失敗だったかと思ってしまう。
ただ渡したのにも理由があって、ゴーレム戦の時に全ての武器が破壊された後は、かなりしょんぼりとしていたらな。つい渡してしまったんだよな。
ただその効果は劇薬過ぎたようで、今はもうおもちゃを与えられた子供の様に目を輝かせながら、今にも駆け出しそうな態度を見せている。
とは言えこんな状態だから、周りから〝バーサーカー〟なんて称号を受けているんだよね。仕方ない話なんだけど。
「新しいモンスターと戦うのは確定しているから。今は皆一緒に強くなるのが先だよ。ほら、詩麻さんもこのタワーにスマホを突っ込んで」
「むぅぅ」
僕達の言っていることが分かっているのかいないのか……本当に彼女は幼い子みたいな感じになっちゃっているんだよなぁ。
僕は何も出来ずに彼女をみていると、彩音さんがそんな彼女の手を優しく掴み、彼女のスマホをその手に持たせた。
そして、ゆっくりとした動作をしながら、詩麻さんへ優しく「コレをこうするのですよ」と語りかけつつ、塔へスマホを差し込んでいく。
この光景を見ると、身長や見た目とかの事を考えなければお姉さんと妹といった感じだな。
そんな事を思っている内に、どうやらスマホのアップグレードが終わったらしく、今度はスマホをポチポチと操作し始めた。
「あ、僕もアップグレードしないと」
「私も! なんだかしーちゃんとあーちゃんを見入っちゃったよ」
さて、一体どんな昇進先があるのだろう。
僕たちは〝ブラックスミス〟と〝レザースミス〟に〝シンガー〟だから……ダメだ、昇進先のネームが全く思いつかないや。
そう言えば詩麻さんの昇進は一体何だったんだろう。
「〝デストロイヤー〟って……」
何やら彩音さんのつぶやきが聞こえてしまった。
そうか〝デストロイヤー〟か……もはや完全に〝破壊する者〟だ。
「わんちゃんだけど、イギリス的な意味で駆逐艦の可能性も有るけど、どちらにしても恐ろしいったらありゃしない」
「味方だから頼もしいけどねぇ。あ、でも今までみたいに直ぐ癒しの歌が効かなくなるかも!?」
そうなったら困るなぁ。
「亜美さんや。ここは彩音さんの昇進先に期待するしかない」
「そうだよねぇ。私と高田くんって生産職だし」
僕達に出来ることは、なるべく攻撃力と防御力を上げる事だからな。
昇進して手に入れる能力で、更に詩麻さんが強くなるような物を作れるように努力するとしよう。
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久々のバーサーカーちゃん達です。
もはや思考も戦闘に極振り状態なのですが、身内と認めた3人の言うことはしっかりと聞く模様。