実は元気な(笑)
話し合いをした後は寝るだけ……という訳ではなく、余った魔力を使うように錬金術を行使していく。
そもそもの話、鞍自体がまだ完成していないからね。洗い出した問題点を修正するように鞍の形を変えておく。それに、その変形させた形も幾つかパターンを用意する為に、鞍の数も複数必要になってしまう。
「まさか鞍作りがここまで難航するとはね……」
もっと簡単に作成出来ると思ってたから、まさか日を跨ぐ事になるなんて全く想定外だった。
もしかしたら明日も鞍作りで潰れてしまうかもしれない。しかしそうなると、第3フィールドへと突入する日が先延ばしになってしまう。
そうならない為にも、こうして寝る前の時間でも作業をしておくって事なんだけど……本当にレシピがあったら話が早く済んだのにと思わざる得ないよ。
ともあれ、できるだけの事はやっておく必要があるから手は休めるつもりはないんだけど。どうやら、ひとこと言いたい者が居るらしい。
『全く……鞍よりもアイテムを充実させる方が先なのでは?』
『ケッケッケ。そう言うな、雪ん子が騎乗出来たほうが、戦力がアーップと行くことぐらい馬鹿でも分かるだろう?』
『ば、馬鹿とは何ですか馬鹿とは! まぁ、確かに、認めたくは有りませんが、あの娘が普通に歩くよりも騎乗したほうが良いでしょう。しかし! やはりアイテムを充実させてこそ景の本領だと私は断言します』
『別に〝誰〟かを指して馬鹿なんて言ってねーよ♪ そもそも、消耗品は現状だと揃ってるからな』
『……強化出来る可能性もありますが?』
とまぁ、何時もの天使と悪魔が言い合っている。
天使側の主張もわからなくはない。確かに俺自身が思ったことだからね。もしかしたら、爆発物とかも現状がベストの形ではないかもしれないって。
ただ、優先順位としては爆発物の改良は後回しにした。だって、既製品を弄るよりも新しく作ったほうがレシピ的に分かりやすいし、現状だとポーチ内には結構な量のアイテムが既に用意されているからね。……直ぐ必要と言うわけじゃないんだよ。
そんな訳で! 作ったり研究したりするべき優先順位は、鞍が1番。その次に春野さんと秋山さんが交渉して手に入れてきたボックスフィッシュの箱で、ポーチかボックスを作るのが2番かな。
あ、後は盾も完成させないとね。現状は素材としてバラバラに分けたままだし。
『うぅ……景が自分のこと以外を優先して……』
『クケッ。前から結構あっただろう? それに、そうした方が巡り巡って自分の為になってるじゃねーか』
『た、確かにそうかも知れませんが……』
『彼奴等の裏切りがとか言うなよ? そんな気配は全く無いのは既に理解しているだろ』
裏切りか……確かにそんな事はもう考えてないなぁ。
最初の内は色々と警戒していたんだけどな。何というか、彼女達のやり取りを見ていると警戒すること自体が馬鹿らしく感じるからなぁ。
『け、景の精神や心が汚されていく……』
『逆だろうが……汚れが落ちて傷が修復されているだけだろ』
いやいや、俺は別に心とか精神が汚れてなんていないと思うけど。
まて、そもそも汚れって何を定義したら汚れと言えるのだろう? やばい、これは哲学的とか心理的な沼に嵌っていく内容じゃないかな? うん、これは考えないようにしよう。
『馬鹿天使。景が困ってるじゃねーか』
『あぁ!? ごめんなさい! 別に困らせるつもりはなくて!!』
しかし、この天使と悪魔は本当に何者なんだろうね。
言っている事とかもだけど、頭の中で響く声とか、何となく姿が理解できている状況とか、どう考えてもめちゃくちゃな存在のはずなのに。
不思議と安堵感を覚えるんだよなぁ。
こう、お爺ちゃんとお婆ちゃんが居たときみたいな。そんな空気に近い何かがある。
『おい景。懐かしむのもいいが手が止まってるぞ。その状態だと鞍が歪になる』
『歪な鞍に小娘を乗せるのも……』
『馬鹿天使……阿呆な事を言うのはソレぐらいにしておけ。変態に見えるぞ』
『わ、私は変態ではありません! 今直ぐ訂正してください!!』
なんだろう。前よりも感情とかが豊かになってる? 天使ってこんなに叫ぶ感じで喋ってはいなかったような気もする。
あ、でも悪魔が天使を弄るのは前からだったっけ。
と、危ない。折角悪魔が注意してくれたのに、また手が止まったままになる所だった。
急いで鞍の修正を再開しないと。
『ふむ……おい景。その鞍だが、もう少し座る部分を湾曲させたほうが良いんじゃねーか?』
『ですよね。もっとこう、座る部分を盛り上げて』
『逆だ馬鹿天使』
な、なんかアドバイスが飛んできたよ。
とりあえず悪魔の指示通りに鞍を変形させてみるけど、本当に大丈夫かなぁ? そう思いながらも、鞍の形を錬金術で変えていくと、鞍が波を打っているような形になった。
「えっと、これ記号の〝~〟みたいな感じなんだけど大丈夫なのかな?」
『良いんじゃね?』
『疑問形ですか……なんて無責任な』
魔力的にもコレがラストだしね。とりあえず悪魔も満足しているみたいだし、最後の最後に遊びがあっても良いよね。
『そういえば景。あなた錬金人形はどうするのですか?』
あぁ、錬金人形かぁ。あれは素材不足というのもあるんだけど、未だに完成形の明確なイメージが出来ていないんだよね。
一体どんなコンセプトにするべきなのか。フルプレートな鎧の人形で前衛を任せられる存在にするのか、はたまた拠点で生産を任せられるタイプにするのか。もしくは他のもっと特化した……例えば、水を汲み上げ浄化出来るだけの物にするとか。そういう方向性だってある。
だからといってはダメなのだけど、全く考えが纏まらないんだよね。
『ケケ! 焦らないほうが良いぜ? こういう時は面白い素材を手に入れた時に「はっ!」と閃く何かがあるかもしれねーからな』
『決まっていないのなら仕方ないですね。現状だと1つしか作れないのです。しっかりと悩んで決めるのが良いでしょう』
焦らずじっくりか。確かに1度しかチャレンジ出来ないからね。試しにだとかそういうのが難しいし、一度作ったら作り直しが可能かどうかも分かっていない。
うん。出来ればコアをもう一つ欲しいところだ。
さてさて、作った鞍を食堂に重ねておいてきたから、後は自室でゆっくり睡眠をとるとしよう。
「そしたらお休み」
『おぅ、いい夢を見ろよな』
『ぷぷ……悪魔がいい夢……景、おやすみなさい』
……何やら天使の笑い声で中々眠りにつけ無さそうだけど、気にしないでおこう。笑いたくなる気分は分からなくもないしね。
『風評被害だ……』
聞こえないふりをしておこう。うん。
因みに、作り上げた鞍なんだけど、選ばれたのは悪魔の指示があった鞍でした。
冬川さんも「……痛くない」と実に満足していたし、何やら悪魔が『……どやぁ』と澄まし顔をし、天使が『きぃぃ!』とハンカチでも噛んでいるような情景が浮かんだけど……ソレは良いとして。
正直、俺は悪魔の言うように作っただけだからなぁ……何というか、満足出来ないと言うか、解せないと言うか。
色々ともやもやとした気分が残ってるんだけど、この気持ちを一体何にぶつけたら良いんだろうね。
ブックマークに評価ありがとうございます!ヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪
という訳で! 第五章はコレにて終了にございます。
第六章の舞台は新しいフィールド。さて、一体どんな環境が待っているのか……と、その前に閑話が入りますので宜しくおねがいします((。・ω・)。_ _))ペコリ
追記。
天使と悪魔が活性化しております。その理由ですが、景は全く分かっておりません。
まぁ、理由となる要因は景が気を失っている最中に起こってますからねぇ……あの裏さんはとんでもない置き土産をしてくれたものだ。