そ……そっかぁ……~七海視点~
雪が私の目の前で蹲っている。それも涙目で。
ただモンスターに襲われたとか、大きな怪我をしたとかそういう訳じゃない。無いんだけど……コレは流石にフォローしようがないかな。
「……痛い」
「仕方ないじゃん……てか、試す前に気がつかなかったん?」
「……大丈夫だと思った」
うるうるとした瞳をしつつも無表情。他の人が見たらホラーな光景に見えるだろうなぁと思いつつ、私は雪を慰めていく。
「まさかあそこで雪が跳ねて、頭を打つとは……」
「……たんこぶ」
雪の頭をペロペロと舐めるミニライオン姿のちゅー太。
なんだろう。傷を舐めているというのは分かるんだけど、私の目には捕食前の味見にしか見えない。……わざわざライオン姿でやらなくても。
因みにどうしてこうなったかと言うと、望月が作った鞍を試している最中に起きた事故なんだ。
幾つか試して見て色々と注文するべき点をメモをしていたんだけど、この鞍を試した時に事故が起きてしまった。
てか、望月はなんでこの鞍をこの形状にしたんだろう?
「鞍に背もたれは要らないよな」
「……頭ごっちんする」
勢いよく走るちゅんめの動きで雪の体はぽんぽんと跳ねた。
しっかりと手綱を持って居た時はまだ良かったんだけど、テストの一つである接続を使った瞬間に少しだけ手の力が抜けたんだろうね。いや、もしかしたら全身の力が抜けたのかもしれない。
ただ、その一瞬が今回の原因の一つになった。
雪の体は今まで以上に高く跳ね上がり、がくんと体が不安定に……そして、背もたれにドンと背を打った後に体が落ちつつ背もたれの上部へ頭がゴチン。実に痛そうな音が響いた。
「てか、色々と改善点が多すぎるじゃん」
「……お尻も痛い」
「そ、それはクッションでも敷くしかないじゃん?」
「……ちゅんめも痛い」
「負担がかかり過ぎてる? もしくは木の鞍だから擦れて痛いのかも……馬と鞍の間に敷物が必要かもしれないな」
出るわ出るわ改善するべき点の数々。
鞍なんてマジマジと見たことがある人が居ないから仕方がない。乗馬経験者とか居ないからな。
それにしてもお尻が痛いかぁ……これを望月に言うのはちょっと恥ずかしいかもしれない。
だって雪のお尻が、現状お猿さんみたいに真っ赤「……だまれ」。
「ぐふぅ……な、何で殴ったし!」
「……失礼」
「いや、何も言ってないじゃん!」
「……考えた。顔、ニヤついてた」
そ、そんな顔なんてしていないはず……おかしい、確かにちょっと想像してクスリと笑いかけはしたかもしれないけど、それでも思考が漏れるような真似はしていなかったはず。
「き、きっと気の所為じゃん! それよりも! 他に何か改善するべき点はなにか無い?」
「……むぅ」
まだ言いたいんだけど? みたいな目で私を見る雪。
だけどこのままその事を話していても先に進まないから、雪も一旦この場はと引いたのか改善点について考え始めた。
「内ももにダメージ有り。お尻「……じろり」ダメージ有り。馬も負担が大きいと……それで、今回の背中と頭に被害が出たでおけ?」
「……服。スカートは駄目」
「あぁ! 確かに素肌は不味いじゃん。あと手袋もあったほうが良いかも?」
「……ん」
雪に睨まれつつ、ビクビクとしながらメモを取っていく。
余計な事は絶対に言っちゃダメだ。これはツッコミと称して、ちゅん吉に私の頭を突かせてくるパターンじゃん。あれ、意外と痛いんだよ。
「とりあえず現状はコレぐらいじゃん? 後は一度改善の要望を言った後、調整して貰ったのを試してからになりそう」
「……だね」
そしたら望月に改善の要望を出す為に彼の部屋へと行くとしようか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
望月の部屋に突撃しようと思っていたら、丁度と言えば良いのか? 望月は食堂で休憩をしていた。
も、望月が休憩だと!? と、私と雪は少し驚いたんだけど……まぁ、そういう事もあるよな! と、無理やり自分たちを納得させ望月へと話しかけた。
「望月が休憩なんて珍しいじゃん。何か有ったのか?」
「いや、タイミング的に区切りが良かったからね。だから、此処で休憩していたら鞍の確認が終わるかなと思って待ってた」
「……一応終わった」
「あれ? なんか冬川さんが不機嫌だけどどうしたの?」
「それはお「……もちゃー!」いや、なんでも無いじゃん。とりあえずメモを取ったから目を通して欲しいじゃん」
「あ、あぁ……なんかよく分からないけど、メモは受け取るよ」
危ない危ない。余計な一言を言う所だった。
ただ、少しだけ口からぽろりと溢したから、雪は私に向かって威嚇中。しかし、その威嚇に精霊たちも同じ様な行動をしているんだけど……精霊たちの見た目が可愛いから逆に和んでしまった。
「うん……あー……マジで? こんな問題が起きたりしたんだ。そりゃ不機嫌にもなるかぁ……冬川さんごめんね」
「……ん、くるしゅうない。……実験は失敗の連続」
「ありがと。とりあえず背もたれは無い方が良さそうだね……えっと、後はちゅんめへの負担かぁ」
改善点を書いたメモに目を通している望月だけど、彼が思った以上に改善するべき点が多かった為か表情が曇っている。
「……仕方ない」
「仕方ないけど、ちょっとこれは多すぎだよ。もう少し色々と考えておくべきだったなぁ」
「知らないものだから仕方ないじゃん」
「だけどそれで冬川さんが怪我をしちゃってるからなぁ……あぁ、ポーション要る? 塗り薬的なものとかも用意してあるけど」
「……大丈夫」
メモを読んだ望月は、多分だけど色々と察してしまったんだろうな。じゃないと、ここで塗り薬を出してくる理由が無い。
頭を打ったのに塗り薬ってのはね……間違いなく、太ももとかお尻の為に出したんだと思うけど。まぁ、その事はお互い口にしない方が良いよな。
「後はそうだね……服は丈夫な布は用意出来るけど、裁縫とかは任せてもいいかな?」
「……もち」
「ちゅんめ用の敷物は服用の布を作る時に一緒に用意するとして……そうだ、鐙は大丈夫だった? 負担がかかって千切れたりは?」
「……グッ」
サムズアップする雪。
鐙に関しては完璧と言っていい仕上がりだったからな。ただ、今後使い続けていった後どうなるかだけど、雪の体重を考えたら其処まで負担も掛からないのでは? と思うんだよな。
「問題点の改善についてはコレぐらいかな。後は修正してからもう一度試してもらうとして……俺からも話が有るんだけど、まだ2人は帰って来ないよね」
「……たぶん」
2人というのは勿論エリカと桔梗の事。
どうしてエリカ達が居ないのかと言うと、あの2人は情報交換をする為に運転手のおっさんが率いるグループの拠点へと行っているから。……まぁ、交換と言うよりも第2フィールドについて情報を提供するためなんだけどな。
「……魚の箱」
「またたっぷりと箱を持って帰ってきてくれると嬉しいよな。他の新しい資源でも良いけど……まぁ、そっちは期待出来ないからなぁ」
アイテムチェストやポーチを作るための素材。これは私達の拠点が海まで行くのに距離があるから、情報と交換で手に入れることが出来ればかなり助かる。
と言うよりも、そのために情報交換していると行っても過言じゃない。……後は、消耗品用のボムベリーとかカエンタケかな。
私達も常に採取が出来る訳じゃないからな! 交換で手に入れる事が出来るなら、最大限利用して行きたい。と言うのが私達の方針。
だってソッチのほうが新フィールドの探索とかが出来るから。
「それにしても、望月の話は気になるじゃん」
「今話すと二度手間だから、皆が揃った時にかな」
「……むぅ。ちょこっと?」
「いやいや。それよりも今から直ぐに鞍の調整をするから少し待っててよ」
すっごく気になるじゃん! 一体どんな話なのか……もしかしてとんでもない武器とか道具を作ったとか? うぅ、エリカに桔梗は早く戻ってこーい! じゃないと私と雪が、望月の話がどんな内容か気になりすぎるから!
ブックマークに評価ありがとうございます!ヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪
雪ちゃんのお尻はまっかっかに燃え上がっております。実に痛そう……(´;ω;`)ブワッ
まぁ乗馬自体、最初の内は太ももやらお尻やらへダメージが入りますからねぇ……レベルアップで身体能力が上がっているとは言え、それはもう厳しいものがあるでしょう。