実はさっくりと見えて……
長かった……それはもう、かなりの時間を掛けてしまった。
カメを嵌めたから後は楽だろうなんて思っていたんだけど、そんなのは幻だったようで。
壁に突進をし続けるカメに集中攻撃を仕掛けたまでは良かったんだけど、カメのやつは顔が攻撃されると気が付いた瞬間に、首をブンブンと振り回しながら水鉄砲を暴れさせるなんて暴挙にでた。
首を振り回せば、その分だけ直進できなくなる。そうなると壁に埋まった体が抜け出すまで更に時間が掛かるというのに……奴はそんなことよりも目の前に見える俺達だ! と言わんばかりに、水鉄砲を俺達に当てようとしてきたんだよね。
「……危なかった」
「水鉄砲が真横を通り過ぎた時は真っ青になったよ」
「壁に罅が入る速度が落ちたと思ってはいたけど、そっちではそんな事があったのね」
めちゃくちゃに首を振り回したからなのか水鉄砲で命中する事はなかったんだけど、何度かひやりとしたタイミングがあったんだよね。
こう、両足の間を水鉄砲が撃ち抜いた時とか色々終わるかと思った。もう後数センチ上にずれていたらと思うと……ガクブルが止まらない。
あの時の自分を褒めてあげたいね。ナイス判断! って。ジャンプしていなかったら間違いなく大ダメージを受けてたよ。
「壁に埋まったまま固定砲台になってたからなぁ……顔をしまった状態で水鉄砲を撃つことが出来ていたら、こっちには打つ手無しだったかな」
「……悪夢」
「ソレは最悪じゃん。顔が出ていたから倒せたんだし」
暴れる水鉄砲にタイミングをあわせて、各自でカメの顔を攻撃したからね。
それとスリップダメもあったから、なんとか討伐出来たって感じかなぁ……あのカメはタフ過ぎたよ。HPが見えたらゴーレムよりも有ったんじゃないかな。
そういえば、割とネイルショットガンが強いという事が分かったんだよね。
打ち出された針なんだけど、カメの体に全弾ヒットをしていた。だから多分だけど、爆弾よりも火力が出ていた可能性がある。……針の1本1本が全て固定ダメだもんなぁ。そりゃ、全て刺されば恐ろしいダメージになるよね。
カメもネイルショットガンを全弾その身に受けた時は苦痛といった表情をしていたし。
「そういえば雪はカメを叩けたのかしら?」
「……もち」
「アレは上手くやっていたよ! 本をちゅん吉に持たせてて、ちゅん吉がカメにぶつかっていったんだよね」
「精霊が本を持てるって事もびっくりだけど、叩くのが本人じゃなくても良いって事も驚愕じゃん」
確かにそうかも知れないけど、召喚師の身体スペックとかを考えたらね。
強いモンスター相手に接近して殴れって無茶がありすぎると思う。そうなると、どうやって叩くんだ? って話になる訳なんだけど……最初から精霊に本をもたせて殴らせるのが前提だったと考えれば、確かに! って理解出来るんだよね。
「……サモナーは支援」
キリッとした表情……をしてるのかなぁ? なんだか無表情なんだけど、ただそれでもドヤっているように見えるから、きっとそういう事なのだろう。
それにしても召喚師は支援職か。
確かに、召喚した精霊の支援をしたり、初級魔法でフォローをする職と考えれば支援職だよね。メインは召喚した精霊達な訳だし。
それに、ちゅん吉のやったことを考えれば……ね。航空機による支援爆撃だもん。そう考えるとメインであり支援であると言える。
「特殊系ってのは支援職って事なのかな」
「んー……支援をしつつ初級魔法が撃てるって感じじゃない?」
「錬金術師は生産じゃん。それで戦闘では初級魔法が撃てるんだからちょっと違う……って、あれ? そう言えば生産は生産でも、生産の支援しつつ魔法が撃てるから……特殊ってそういう事?」
俺がかなり生産に力を入れているから勘違いしがちだけど、錬金術は純粋に生産をしている訳じゃないからね……それぞれの特化職。鍛冶師だったり調理師とかに比べたら、出来上がったものの質が全く違う訳で。
むしろ、そんな特化した生産職がやりやすいようにフォローしたり、素材を使いやすいように加工したりするのが錬金術の本領のハズなんだよね。
あ、あと付加があるから、完成品に一味付け加えるってのもあるかな。
だからと言うか、錬金術師は生産職の支援職なんだよね。
召喚師は戦闘職の支援って感じなのかな。ただ、春野さんみたいなヒーラーを筆頭とする純粋な支援職もあるから、全く違う方向性ではあるんだけど。
「って、そんな事は良いとして……皆レベルは上がった?」
「……ぶぃ」
「上がったわね。ただ、ボスを倒しても一気に上るなんて事は無くなったみたいね」
「やっぱりレベルが40超えたからかなぁ?」
レベルが上がれば上がるほど必要になる経験値はかなり増えるからね。
ただ残念な事に、後どれぐらい必要かとかそういうのが全くわからないから何とも言えないけど……それに、倒した相手がどれだけ経験値を持っているかも分からないし。
「今回のカメ討伐では1レベルしか上がら無かったじゃん」
「私達のレベルが高すぎたのか、此処からはこれがデフォルトなのか……どちらにしても、レベリングは少し考えないといけないかしら」
もう一つ可能性があるとしたら、今までのレベルアップスピードが早すぎたって事も考えられるんだけどね。
よく考えてみて欲しい。俺達はこれまでどうやってレベルを上げてきた? そう、毒とかトラップとかを使って大量にモンスターを嵌めて来たんだよね。
でもゲームの王道を考えたら、エンカウントをして直接ポコポコと殴り合うのが基本。そして、ここのシステムとかを考えたら、ちょっとばかり古いゲームシステムに似ている訳で……。
「大量にモンスターを討伐する方法は間違いなく予想外だと思う」
「……確かにそうかも知れないわね。毒団子を撒いておいて、寝ている間に経験値をゲットとか普通は思いつかないわよね」
秋山さんがいう普通と言うのは、こういう状況下になった時の普通って事かな。
ゲームみたいに、レベルや魔法やモンスターが居る状況になった場合。当然だけど、どうやって戦うかなんて慣れ親しんだゲームとか漫画とかをイメージするはず。
そして大抵そういった作品は爽快感を覚えてもらうために、こんな生存第一といったトラップだの毒だのに嵌めて戦う真似はほとんどしない。……例外はあるけど。
だから普通なら剣や魔法を使ってどうやって戦うか? という思考が中心になるはず……という事なんだけど。
「ソロ前提で最初は行動してたからなぁ」
多分だけど、女子達もそういった戦い方が身についてしまったのは俺のせいだろうな。俺が最初からトラップを使ったり毒団子を作ったりしていたから……いや、生き残るためには必要だったから悪いとは欠片も思わないけど。
「とは言え、その御蔭でかなりレベルが上がっている可能性は否めないって事よね」
「牛の為にだけど、らいにゃんも大量に狩ったじゃん」
もしかしたら他のチームはもっとレベルアップスピードが遅いかもなぁ。となると、かなりアドバンテージは維持できているのでは? まぁ、第3フィールドも発見出来るだろうし、第2フィールドの情報は提供しても問題ないかもね。
「そうそう。カメのドロップ品を回収しないとね」
「あら……壁に埋まってるわね。魔法を解除するわね」
秋山さんが魔法を解除すると、壁はサラサラと地面へ帰っていった。
そしてその地面の上には、カメのドロップ品である〝魔石〟と〝甲羅〟が転がっている。
「うんまぁ、予想通りと言えば予想通りなドロップ品だな」
「……甲羅」
「雪。そんなに残念そうに言わなくても」
「とにかくドロップ品を回収して、安全な場所で色々とチェックしないといけないわね」
ドロップ品の鑑定もだけど、スマホには色々と情報が入ってきている。……まぁ、さっき待ちきれなくなったのか、夏目さんがちらりとレベルだけチェックしてたけどね。
ただ、ゴーレムのときと同じなら、新フィールドの事とかの情報もあるはず。なので、ゆっくりと確認する為にも移動をしないとね。
ブックマークに評価ありがとうございます!(*´▽`*)
動かない敵に攻撃をするという地味な攻撃を長々と繰り返していたようです。なので、描写はカットし会話形式で。