帰路
意識が浮上する。
クワンクワンと頭が揺れる感覚を覚えながら、俺は瞼を貫通する光に眩しさを覚え手で顔を覆った。
「う……うぅん……」
「あ、望月君が起きたよ」
覚醒と同時に声を出そうとし……うまく声が出せずに唸ってしまったが、その音でどうやら俺が目覚めた事に気が付いたのだろう。
恐らくこの声は春野さんかな? 彼女が他の皆を呼ぶ声が聞こえた。
それにしても、なんだか揺れているように感じる。ただ、これは俺の頭が揺れているとかそういうのではなく……間違いなく全身がゆらりゆらりと揺れている。
そして鼻を擽る……なんだこれ? 獣臭? とりあえず、眩しくて目が開けられないけどこの状態は一体と思った所で、前の方から「モゥ~」という鳴き声が聞こえてききた。
「あ、あー……おはよう? えっと、俺ってもしかして牛に乗ってる?」
「……おそよう。正解」
冬川さんが俺の考えが正しいと返答してくれた。
なるほど。どうやら気を失っていた俺は牛に背負われながら移動をしていたらしい。ただまぁ、そうもなるかと納得している。
だってさ、俺自身じゃない人が気絶しても、俺だって同じ対応を取ると思うしね。
第2フィールドで気絶した人物を放置するとかは出来ない。しかも牛を引き連れている最中だったしな。どう考えても、牛に気絶した人を載せ、護衛しながら移動した方が良いに決まっている。
そうじゃないと、何時まで経ってもレッサーライオンに襲われ続けるからね。そんな状況で何時起きるかわからない人を護衛するとか……時間の無駄だもんな。
俺は重荷の様に牛に背負われながら移動していた訳なんだけど、とりあえずもう目も覚めたのでもう降りても大丈夫。
牛から降りた俺は自らの足で歩きながら皆へ声を掛けた。
「もしかして、ここって第1フィールドかな?」
「もしかしなくてもそうだよ」
「……安全」
「びっくりしたじゃん。望月は……急に気絶するしさ」
あれ? なんだか夏目さんがどもった気がするけど……ただ気絶しただけじゃないって事なのかな。
ただ、特に外傷とかが有るわけでもないし、多少の頭痛と背中を強打したのかな? その部分が痛いぐらいで、大きな損傷がある訳じゃない。それなら特に問題なんて無いよね。
でも、それなら夏目さんの反応が不思議なんだけど、今は余り聞かないほうが良いかな。何か意味があって誤魔化しているんだろうし。
「そう言えば、あの後ってどうなったのかな」
「あー……なんとか逃げれたって感じ?」
「……神回避」
いや、回避では無いでしょうに。
どう考えても俺はかなりダメージを受けていたわけですが? なんなら未だに背中がジクジク痛むし。
てか! どうやってアレから逃げ切れたんだろうね。だって、アレはこちらの警戒網を全てすり抜けて、俺に一撃を入れたんだよ? その時点で、俺達よりも遥かにレベルが高いってのが分かる。
ね? どう考えてもおかしいよ。だってそんな奴を相手にしている状況で、俺や牛を護衛しながら第1フィールドまで来ているんだから。
ま、まさか……俺が弱すぎって話なのか? いやいや、戦闘職や生産職といった違いはあるけど、それでもレベルは同レベルなんだけどな。
本当にどうやって逃げ切れたんだろう。
「あ、あれだよ! ほら、レッサーライオンが居たじゃない。そのレッサーライオンと敵対してたんだよ!」
「……三つ巴」
「餌の横取りをしやがってといった感じかしら。レッサーライオンが乱入者にブチギレたのよ」
「らいにゃんの群れは強かったじゃん」
うむむ、納得は出来ないけど納得するしかないかなぁ。正直、あのレッサーライオン達が奴と戦えるとは思えないんだけどね。
今回は途中までとは言え、罠とかを使って完勝も出来ていたわけだし。そもそも、前回だって何の策も無しにレベリングだけは出来ていたしね。……まぁ、牛は連れて帰るのは無理だったけど。途中で牛が全滅しちゃったからなぁ。
ただ、この事から分かるように、もしレッサーライオンと俺達が協力した所で勝てるような相手じゃなかったと断言出来る。……出来るんだけどなぁ。
実際には、俺は牛に背負われて第一フィールドまで戻ってきているからね。無事になんとか逃げ出すことが出来たとしか言いようがない。
あぁでも、あの夢? なのかな。夢の中で子供の俺が言っていた「大丈夫」というのは、こういう事だったのかもしれないね。
もしかして、あのお守り効果なのかな? あのお守りは全てお腹の中に入れちゃったんだけどね。
「無事で何よりって事で良いのかなぁ。なんか色々と疑問が残るけど」
「疑問が残るほど幸運だったという事ね。本当にラッキーだったわ」
そう言われてしまうと、何も言い返せないじゃないか。
運要素が絡んでいるとか、そんなの考察するのに不確定要素すぎるよ……。
「腑に落ちないなぁ……と、とりあえず第1フィールドに戻って来れたから後は楽かな」
「だよね! モンスターも強くないし。と言うよりも、こっちとのレベル差を感じてるのか襲ってくる事も殆どないしね」
「……わきまえてる」
モンスターにわきまえているも何も無いかと。ただ、強者には手を出したくないって本能で理解してるだけだと思うんだよね。
でも、確かにここからの道のりは楽だというのは事実だからね。後はもう悠々と凱旋といった感じかな。
きっと鶏達も喜ぶだろうね。なんて言ったって動物仲間が増えるからね!
「後は戻ってからなんだけど……牛乳はどうしようか?」
「えっと、生の牛乳って駄目なんだっけ」
「確か殺菌処理が必要になるはずよ……だけど、私達は酪農家でもないから殺菌処理の方法なんて知らないのよね」
「え? そうなると牛乳を飲めないじゃん!」
「……お菓子はあり?」
心配なのは分かる。俺も実際に気になっているからね。
こうして頑張って牛を引っ張ってきたのに、牛乳を使えませんでしたとか笑い話にもならないから。
でもさ、この島だよ? 鳥の卵を鑑定した時もサルモネラ菌のサの字も無かったからね。それに、システムも絶賛していたから。TKG最高!! って。
それならさ。多分牛乳も同じだと思うんだよね。きっと、生の状態で飲んでも大丈夫って。まぁ鑑定するまでは断言出来ないけどね。
「ありえそうな話ね」
「だね。卵かけご飯も絶品だったしね!!」
「はぁ……そう言えばそうだったじゃん。心配して損した」
「ただ島だから大丈夫って考えはしないほうが良いと思う。どこで落とし穴があるかわからないからね。だから、毎回の鑑定は忘れないようにしないと」
「……当然」
たださ。鶏だけでもなんだけど、もし牛乳も問題無しとなれば……これ、全部連れて帰っていきたいよね。
新種の動物だ! って売り込みをかけてさ。もう大儲け間違いなし! あ、でも連れて帰れるかどうか分からないか。
これは取らぬ狸の皮算用だよね。うん、余り考えるのはよそう。それに、牛乳もまだ鑑定してないしね。
「あーでも、もしこの島から戻れるとなったらちょっと考えものだなぁ」
「え? どうして?」
「だってほら……此処で手に入れた米とか卵とか、いつも食べている物より美味しいし」
「あ、あー……確かにそうかも? 高級品相手だったら分からないけど、市販のものだったらちょっとこっちの方が良いかなって感じだよね」
「品質が〝普通〟でソレだからね。もし品質を上げる事が出来たらと思うと……」
「あぁぁ! ソレは言わないお約束って事にしないかしら! ちょっとだけ戻りたいという気持ちが揺らいでしまうわ!!」
「……美味しいが一番」
「雪!?」
だからこそ、この島で手に入れたものは全部持って帰りたいよねって話なんだけどね。
うーん……システムは何処まで許してくれるのかな? てか、そもそも帰る事を許してくれるかも分からないけど。そこはまぁ……交渉する感じになるのかなぁ。
ブックマークに評価ありがとうございます!m(__)mペコ
案の定というか、景君の記憶は飛んでおります。
そしていち早くソレを察知し、女子たちは口を噤みました。今頃、彼女達は葛藤してるでしょうね。話すべきかどうするか……と。




