何が起きているの? ~エリカ視点~
言葉を発しようとして……口がパクパクと動くだけ。あれ? 私の声が出ていない。
あうあうあう……と、言いたい事を言葉にしようとしても、意味不明な事を言っているだけになる。
ただ、それで良かったんだと思う。
だって私が望月君に色々と聞いたら、それは戦闘の邪魔になっただろうから。
と言うより! 何アレ!! なんか、望月君が呼び出したと思ったら、彼の両肩辺りにチョコンと天使? と悪魔? が現れたんだよ。これ、私の幻覚かな? とか思ったんだけど、望月君も何か会話をしてたから幻覚じゃないと思う。
それなら一体何者なの? ってなるんだけど……聞くに聞けない。だって直ぐに彼らは戦闘に入ったから。
てか何なの!? 何あの魔法!! アレは私の知ってる望月君の魔法じゃないよ!? しかも、あの天使と悪魔もなんかすっごい魔法を撃ってるし!!
何か前方で、七海達が「エリカの支援魔法?」って言ってたけど、違うからね!! それ、天使さんが使った魔法だから。
今の私だと其処までの支援は出来ないよ……と言うか、ヒーラーである以上は無理じゃないかな? せめてバッファーとかサポーターじゃないと。ヒーラーの支援なんてオマケ程度だもんね。無いよりマシってだけ。
それにしても。
望月君の魔法は何となく分かる。だって、威力がおかしいと言ってもアレは火系の魔法だから。
でも、悪魔さんが放った魔法は? 多分悪魔だから闇とか影とかそういった魔法なんだろうけど……地面から大量の黒い剣が生えるなんて。
あんなのどう頑張っても避けられないよね。実際にレッサーライオン達は突然現れた剣に下から貫かれていたから。
そんな望月君と悪魔さんの魔法で、殆どのレッサーライオンを討伐することが出来た。
ただ、それでも残っているレッサーライオンは居る。そんなレッサーライオン達に追い打ちを掛けるのは、七海や桔梗達……雪は空の警戒に集中してるからね。
あれ? 私ってやる事がないよね。
ヒーラーだから仕方ないのだけど、それでも今までは〝無いよりましな支援〟という仕事があった。
でも今は……その支援を天使さんが行っている。あれ、あれれ? 望月君を回復した時点で私のお仕事は終了って事? 皆が頑張ってるっていうのに?
ポーチに手を入れて、中にある投擲用アイテムを掴む。
ただ、私の場合は望月君と違って投擲スキルが無い。だから、投げたとしても望月君ほど効果が出るわけじゃない。
あくまで護身用なんだよね。だからそうポンポンと投げるようなものじゃない。
息をすって思いっきり吐く。
そして軽く「あーあーあー」と声を出す。うん、少しはびっくりした弊害が収まったみたい。……まぁ、まだ心臓がバクバク言っているけど。
ただ、声は出せるようになったかな。
「望月君。何か支援っている?」
「あー……アレだ。マジックブーストだったか? アレがあればもっと楽になる。天使の野郎が使ってるのは、基礎ステータスが向上する支援だからな」
「ん。分かったよ。それじゃ〝マジックブースト〟」
全員に〝マジックブースト〟を掛けると、ソレに合わせて皆が魔法を撃った。
うん。どうやらこちらはしっかりと効果があるみたい。……よかった、仕事が皆無じゃなかったみたい。
それにしても……やっぱり今の望月君って変だよね。
何というか、喋り方とか声のトーンが違う。普段はもっと優しげな声。少し前はそこに拒絶の色が含まれてたけど……。いや、今もまだ多少はあるかな。
でも目の前に居る望月くんは違う。
この望月君は、やる気とか自信とか殺意がマシマシな感じ。私に向けた言葉には無かったけど、敵に向けての言葉には本当に怖いと言うか、拒絶の色が濃厚と言うか……。
どう考えても望月君だけど望月君じゃない。ってか絶対違う! 誰なの!? って叫びたくなるレベルだよ。
でも……現状それを追及する事はしない。と言うか出来ない。だって戦闘中だし。すっごく聞きたくてウズウズするけど!
ただ、私のそんな思考や感情に気がついたのか、望月君は〝私の顔〟を見ながら「安心しろ」と呟いた。
あれ? 望月君。私の顔を見たよね? それはもうがっつりと目と目があってたよね?
うん。絶対に違う! コレはもう違和感なんてレベルじゃないよ。って事は何? あれなの? 二重人格とかそういうの? もしくは頭を打った衝撃で性格に変化が起きたとか? 何かだか、疑問が疑問で疑問を呼んで……って、私は何を言いたいのだろう。
少し落ち着こう。かなり錯乱しかけていたと思う。
スーハースーハーと呼吸を整えて……「はいそこでひっひっふー」ひっひっふー……って違うから!! 私は妊婦じゃないよ。
「望月君?」
「あぁ。落ち着いたか? 落ち着いたならブースト」
「あ、はい。〝マジックブースト〟」
抗議をしようと思って望月君に声を掛けたら、逆に手が止まっていると注意されてしまった。うん、ちょっと錯乱状態になって、ブーストが疎かになってしまっていたみたい。
てか! 望月君と悪魔さん。あなた達の魔法を撃つサイクルが早すぎるよ!!
これがいつもの望月君なら、エリカ達を合わせても十分に間に合うのに。というか、私の方が手持ち無沙汰になるのに。
一体何なの……。
とりあえず。豚の化け物が随分とダメージを受けてぐったりとしているけど……あの火力を考えたら一気に討伐出来たのでは? と思う。
でも、今こうして虫の息とは言え生き残ってるということは、豚の化け物に対しては手加減してたのかな? だとすれば……何でなんだろう。
「さーて……ここまで痛めつければもう良いだろう。そろそろOHANASIと行こうか。なぁ豚。お前何者なんだ?」
豚の化け物に向かって望月くんは質問した。いや、質問じゃなくて拷問だよね。すでにボコボコな状態だし。
「ね、ねぇ……エリカ。私すっごく望月君に違和感があるのだけど」
「桔梗……大丈夫。それは私も同じだから」
「なんか強者のオーラがマシマシじゃん?」
私達3人は望月君から感じる違和感についてボソボソと内緒話。
レッサーライオンも殲滅した後だからね。当分の間は時間的に余裕がある。だからこそ、望月君は豚の化け物に話をしているんだけど。
「……二度美味しい」
なんか雪だけは違う感想を持ってる!? てか、二度美味しいってどういう意味なのかな。
私達がそんな会話をしている間にも、豚の化け物へ対して望月君は色々と質問をしていた……はずだった。
「あぁ! ふざけんじゃねーぞこの豚! てめぇ、そんな理由であいつらを犯すとかほざいてやがったのか! ……だれの仲間に手ぇ出そうとしてたか、その体で覚えるか?」
え、え、えぇぇぇ? 一体どんな会話があったの? てか、めっちゃ望月君が切れてるんだけど。
望月君。切れた勢いで豚の化け物の顔を踏んで……あぁ、グリグリとスパイクがある靴をそんな風に動かしたら……。
「ブヒィィィ! ヤメ……ヤメ!! オデガ……悪カッタ……カラ!」
「悪かったじゃねぇ。「申し訳ありません」か「ごめんなさい」だろうが!」
叫ぶ豚の化け物と、更に力を入れる望月君。
……本当に私の知ってる望月君じゃない! と、私達はこころを一つにしながらその光景を傍観してしまった。
「……全て豚が悪い。もっとやって」
ただ雪だけは違ったみたい。
どうやら望月君達の会話が全て聞こえていたみたいで……何やら雪も激怒している。
「あの豚の化け物は何を言ったのかしら……珍しく雪も怒ってるわよ」
「雪が怒るとか、天変地異じゃん」
「えっと、一体どんな内容の会話だったのかな?」
怒る雪に恐る恐る声をかけてみる。すると雪は……。
「……胸糞。アイツはクズ」
と、一言だけ返ってきた。
えっと……クズってどういう事? もう少しヒントを貰えないかなぁ。と思ったんだけど、雪は直ぐに視線を望月君達の方に戻した。そして「……潰しちゃえ」とか言っている。……雪が怖すぎるよ!
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今回は回復魔法をそばで掛けたエリカちゃん視点です。
そりゃ、こんな状況になれば驚愕してしまうのも仕方がないかと。