エンカウント!
本日も3話更新(`・ω・´)ゞ
見つめ合う俺と八つも目を持つ相手。そんな相手は、木の隙間にぷらりとぶら下がっている。
大きさと言えば、胴体がウサギ二羽分ぐらいだろうか。ただ、それがうさぎであったら大きいウサギだなぁとか、お肉が大量にとれそうだって判断になるんだけどね。
残念ながら此奴は違う。
「どう見ても蜘蛛だよなぁ」
八本ある足をカサカサと動かし、お尻からは糸を出していて……あぁ、この糸で木からぶら下がっているのか。
八つある目は恐らく全て此方をロックしており、ちらりと見える口にある二本の牙が実に毒々しく感じる。というか、何か紫っぽい液体が垂れ流れてないか?
そしてこの蜘蛛。ハエトリグモみたいな可愛さがある訳でもなく……いや、ハエトリグモも此処まで大きくなったら可愛くはないか? うーむ、どうだろう。と、それで悩むのは今は横に置いておくとして。
こいつはお尻が黒と黄色の縞々な奴で、いわゆる〝コガネグモ〟系だと思われる姿をしていて……実に嫌悪感を感じるというか気持ち悪いというか。
ただ、〝コガネグモ〟だったら毒は無かったと思うし、なんだかんだ見た目がアレでも益虫なんだけども。
こいつ、明らかに毒持ちだし、なんなら今にも飛び掛かってきそうで間違いなく益虫では無いと言える。
直ぐに反撃できるようにと石槍を前に構えてはいるけども、正直な話、蜘蛛の身体能力のままでこのサイズと言う事であれば……ツーっと背中に冷たい汗が流れた気がした。
そりゃそうだよな。昔からよくある例えに、もし昆虫のサイズが人間と同じだったら? なんてモノが有ったけど、まじめに同サイズだったら全ての昆虫が、恐ろしい存在だって言われていたからな。
ただそれって、色々と度外視した、スペックだけを見た話だったんだけど……今こうして、人と同レベルでは無いが、胴体の部分だけでうさぎ二羽分もある蜘蛛と出会ってしまっている。
正直めっちゃ怖い!!
マジでどうしよう。これ、簡単に捕食されても可笑しくない状況だよ!? てかそりゃ、魔法とか必要になるわな!! って、俺魔法覚えているじゃん! ただ、これ……通用するのか? 初期レベルの魔法だぞ。
そんな事を考えている間にも、蜘蛛はエレベーターの様に上へ下へと移動したり、足をしきりに動かして見せたりと、何やら忙しなく行動をしている。
一体どういう意味がある行動なのだろうか……これはあれか? 「今からお前を食ってやろうか!」という意思表示なのだろうか。
いやいや、こんな場所で食われるつもりなど全くないからな!
とりあえず、蜘蛛とにらめっこをしながら隙が無いようにしつつ、ゆっくりゆっくりと後ろに下がって行く。
要領は熊と出会った時に行う対処法のソレだ。刺激せず、音も立てず、目をそらさず……ゆっくりと。
震える足が滑りそうになる。後ろ向きで下がっているし、視線は蜘蛛から離さない為、足元の確認が一切出来ていないからな。葉やら石やら木の根やらが邪魔で仕方ない。
枝を踏みそうになった時は冷や汗ものだ。音を立てたらどうなるのか……正直試したくなどない。
そんな風に警戒しながら下がっていると、突然蜘蛛が地面に着地し、フシャー! と言わんばかりに腕を掲げ、思いっきりジャンプした。
やばい! と思い石槍を飛んでくるだろう方向へと突き上げる……が、何の手ごたえも無いし、なんなら蜘蛛の姿も無い。
何処へ行った! 上か? それとも背後か? と、辺りを見渡してみると……。
「あれは……ウサギか?」
初日に出会ったのと同族であろうウサギが一羽いた。
ただし、その一羽は……蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにされた状態だったりする。というよりも、今まさに蜘蛛が糸巻き巻きしているんだよな。
何やら歌でも歌っているような、楽し気な気配を醸し出しながら、蜘蛛はウサギを自らの糸で動きを封じているシーンは、なんというか、もの凄くシュールというか。
ただ、これ、今回の獲物はウサギだったから良かったようなモノ。もしあの場で俺がターゲットにされていたらと思うと……。
それにしても、あのロックオンに思えた目線は、俺じゃなくて俺の後ろに居たウサギを見ていたのだろう。
勘違いも良いところだったって話なんだけどな。ただ、こんな異常な蜘蛛が居ると言う事は、他にも異常な生物が居るのは間違いのない話だろう。
「というか、俺はまだウサギすら狩猟出来ていないんだが……それ以上の存在と出会うとか」
せめてもう少しお手柔らかにお願いしたい。
しかもこの蜘蛛は楽にウサギを狩る事が出来る存在なんだろう。そんな存在をスタート地点の近くに配置しないでくれ……。
いや、まさかこの蜘蛛……ワンチャンお助けキャラかもしれん。
蜘蛛は益虫だ。うん、どういう見え方をしていたとしても、日本に居る大抵の蜘蛛は益虫……だと思いたい。
で、でだ! そんな益虫な蜘蛛は、この場でも益虫であって! 厄介な虫とか獣を排除してくれている可能性は無いだろうか!! 寧ろそうであってくれ。
うん、現実逃避は止めておこう。
あの蜘蛛は毒持ちだ。さっきもウサギを軽く噛んでから糸巻きをし始めたのを見ると、恐らくあの毒は麻痺毒か何かなのだろう。
動けなくして、糸で封じて生きたままの保存食にするつもりに違い無い。
そもそも、毒を持って居る時点で危険な害虫な事に変わりは無い訳で、であれば、あれは間違いなく敵と考えておいた方が正しい。
とりあえず、今はウサギのお陰で助かったと考えるとして、今後の為に色々と対策を取る必要があるだろう。
もしかしたらだけど、虫除けを塗っておいたことも功をなした可能性だってある訳で。であれば、もっとこう大量に虫除けを作っておくと、精神的に余裕が出来そうな気がしてならない。
というか! そもそも、さっさと食糧確保と拠点の確保をするべきだろう。
何時までも野宿と言うか、ハンモック生活は不味い。何せこんな木にぶら下がる巨大蜘蛛が現れたんだ、ハンモックなど安全という面において、さして重要ではなくなるだろうな。上から襲撃をかければ良いだけだし。
であれば、目指すはやはり壁と屋根のある家だろう! 洞窟暮らしでも良いのだけど、そんな都合の良い洞窟があるかどうかは別だしな。
「しかし、ジョブを設定する前には遭遇しなかったけど……これってフラグが立ったから出て来たって訳じゃないよな? ただ、あの時は運が良かっただけだよな」
そもそもあの時は、こんな木々の隙間が狭い場所は通って無かったからな。もう少し道と言えるような、開けた感じの場所を通って移動した訳だし。
そう考えると、その場所を外れた為にこんなバケモノが出て来たという可能性がある訳で……あー、そうなると、あの道って何者かによって作られた奴だったりするとかもありえるな。
いやまぁ、こんなの全て予想でしかないけどな。
でもこの状況を考えるとありえそうな話ではある訳で、となると、下手に整備されただろう場所から外れるのは止めた方が良さそうではある。
もし入って探索するなら、もっと色々と準備をしてからが良さそうだ。
ただし! その準備の為に材料を確保する為にも、少しは入らないといけないというジレンマよ。
良い素材って、奥に行けばいくほどあるみたいだしな。
欲張らず……あぁでももう少しだけ! っと、これが危ない。何かで聞いた話だけど、海女さんが何故女性なのか、それは引き際をわきまえているからだって。
男だとどうしても、まだいける! もう少し! と潜ってしまう気があるらしいんだよ。……うん、素材を確保しようと夢中になって潜っていきそうだしな。
なので! ここは、心を鬼にして、蜘蛛がウサギに夢中になっている間に撤退しておこう。その姿を見ると、どうしても隙だらけで攻撃したくなるけど……うん、今はまだ駄目だ。