閑話・やっちまった
あー!! と叫びたくなる衝動を抑えながら、思いっきり頭を掻き毟る。
何やら山田君が俺の肩を「まぁまぁ」と言いながら叩いてくるのだが、間違いなくやらかしたのは……。
「山田君や……君、勝手に話を進めすぎじゃないかな?」
「えー! でもお米ですよ! お・こ・め!! 皆の体が欲している物なのは間違いないじゃないですか!! それに鈴木さんも最初はノリノリだったじゃないですか!」
「いや、確かに米と聞いてから少しテンションが上がったのは認める。そして、あちらさんが欲しいといった大豆を探させたのも事実だ……しかしだ! 何故に君は物々交換の交渉であれほどまでに譲歩した!!」
「え、だっていち早くお米が食べたかったですもん! ほら、学生の皆さんも嬉しそうな顔で食べていたじゃないですか!!」
確かに米は美味しかったさ!
炊き立てのお米に塩を振って作った三角形の物。塩むすびだったわけだが、これが美味しくない訳がない! しかしだ! 何故早く食べたいからと交渉をほぼ相手の言い値で切り上げたんだ。
俺が待てと言っていたというのに……相手もソレがわかってか、交渉相手を山田君でロックオンしていたしな。
交渉材料自体だが、俺達が提供した物は俺達にとってゴミに近い物ではあった。
割る事が出来ないクルミ・爆発するベリー・燃えるキノコ・変な魚から取り出した小さな箱。どれも使い物にならないものばかりだ。
ただ、そんな物に限って拠点の周囲で大量に発見される。魚の箱は少し別だが。
なので、交渉中であるにもかかわらず、山田君は学生に命令を飛ばしてそれぞれの物を採取させに行ったりしていたが……それは良いだろう。
俺が言いたいのは! なんで米に対して此方は4品も提供しているんだ!! という事だ。
「明らかにレートがおかしいだろう」
「でもほら、米は量があるじゃないですか!」
「総合的な量で言えば、間違いなく俺達の方が出していると思うのだが?」
「れ、レアリティが! お米と言えばもうSSR的なレアでしょう!」
「なんだそのSSRと言うのは……」
偶に山田君の使うワードがよく分からないが、おそらくとても貴重なものとでも言いたいのだろう。
確かに米は貴重だろう。俺達は全く見つけることが出来なかった物だからな。そしてまた、俺達のソウルフードと言ってもいい食材でもある。あるのだが……。
「それとこれは別だろう……それに、鑑定の結果から考えても、あの箱を渡したのは渡しすぎになるのではないか?」
「んー……でもアレって私達にとってはゴミですよ? 錬金術師とか居ませんし」
「俺達の中には特殊系の職が居ないからなぁ……」
とは言え、錬金術師が居ればかなり使える物と思われる魚の箱。
それを大量に渡してしまっても良かったのだろうか? 確かに俺達にとってはガチャが終わったボールぐらいの価値しかないので、資材置き場の肥やしとなっていたのも事実だ。
あれだな。山田君たちからしてみれば、ゴミの一斉処理的な気持ちで渡してしまったのだろう。資材置き場も有限なスペースだしな。
ただ、俺の考えは違った。アレは間違いなく交渉材料としたら価値が相当高い物。そう思っていたのだが……。
「はぁ……手放してしまったのは実に痛かった気がする」
「何を言ってるんですか……米の方が大切ですよ! ほら、稲作の計画も立てないと!」
山田君や学生達は米に夢中で俺の考えを理解してくれていないか……まぁ仕方ないと言えば仕方がない。
なんかよく分からんものが米になった! と考えれば、そちらの方が優先順位は高いからな。
錬金術師か。もし居たらその価値の判断が変わったのだろうな。とはいえ、今更と言ってもという話ではあるか。
「とりあえずだ。次から交渉するときはもっと冷静になるように」
「はーい! って、それは鈴木さんもじゃないですか」
「俺は途中から冷静さを取り戻していたんだよ」
「途中から……ですよね」
山田君というやつは。そのニヤニヤした表情をやめなさい。
あぁもう! 学生達も何やら生暖かい目をしながらこちらを見ているじゃないか。……くそう、煙が恋しくなるじゃねーか。
「禁煙による禁断症状ですか?」
「ストレスだよ! 全く。普通に過ごしていたら特に欲しいと思わなくなって来たというのにな」
「精神的に揺れがあると恋しくなると……ふむふむ、そういう時こそお米では?」
「食べ過ぎたら直ぐになくなっちまうだろうが……折角手に入れたものだからな、慎重に消費していかないとあっという間だぞ?」
「むむ……それは困りますねぇ。美味しいお米は毎日のように食べたいです!」
「だからもう少し慎重に交渉をしてだな! あの感覚からしてみれば、もう少し米の量を吊り上げる事だって可能だったかもしれないんだぞ……」
あの嬢ちゃん達は魚の箱を提示した時にだが、少しだけ目の色や声のトーンが変わったように感じたからな。
だというのに……山田君や学生達はその変化を見逃していたらしい。あぁでもこれを言っても本当に今更だ。
「そうだな。次からの交渉は俺がメインで行うから。山田君は絶対に口を挟まないように!」
「……はーい」
「何で不貞腐れるかね……」
ブーと頬を膨らませる山田君。
そんな事をしても俺の決定が覆る事はないぞ? むしろいい大人なのだから、そういう行動は慎みなさい。
「しかし、山田君の性格が分からなくなるな」
「えー……私はこういう明るい性格ですよ?」
「明るいというか考え無しなのは分かっている。ただ……こんなに子供臭かったか?」
「んな!? 失礼な! 私ほど立派なレディはいませんよ!!」
レディって……山田君のどこを探しても、慎ましさだとかお淑やかとかそういったモノを感じる事が無いのだが。
どう考えても淑女からは程遠いタイプではないだろうか。……しかしそれを口にしたら、何時ものようにセクハラですよ! という言葉が返ってきそうだな。まぁ半ばネタ的な感じで言っているのは分かるのだが。
と言うより、それをネタにしている時点でレディでは無いよなぁ。
「むむ……鈴木さん! 何ですかその目は」
「いやなに、少し思うところがあっただけだ」
「実に失礼なことを考えていませんでしたか? 何やら目の光に憐れみとか呆れみたいな感情が含まれているような……」
大正解だよ山田君。
しかし、どうして君はこういった勘は鋭いというのに、今一な結果になるような行動をするというか、思考回路がぶっ飛んでしまうのか……。
実に勿体無い。
君がその武器を十全に振るうことが出来れば、交渉結果ももっと素晴らしいモノとなっただろうに。あぁ、本当に勿体ない。
「な、何かぬるい視線が突き刺さるような……そうだ! 学生さん達!! 水田は何処に作りましょうか!!」
俺の視線に耐えかねたのか、ピューと風になったような走りを見せた山田君。
全く……君は自分に刺さる視線からは逃げるのか。俺は交渉中という事もあったが、逃げることを許されなかったというのに。
「小動物みたいなやつだ」
俺にとっては微妙な奴だが、アレのおかげで学生達が過ごしやすくなっているのも事実だ。
前にも思ったことだが、山田君はムードメーカーというやつなのだろう。険悪になりそうな空気だろうが、一発で吹き飛ばしてしまうものがある。……まぁ、それに巻き込まれて多少ダメージを負うのは俺なのだが。
これもまた、大人の役目というやつだろう。
それにだ。
彼等を学校に帰すまでが俺の仕事だからな。バスの運転手としてしっかりと仕事をこなさなければ。
ただそれを考えると、あのお嬢ちゃん達を保護できなかったのは少しだけ心残りではあるが。
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運ちゃんこと鈴木さんは鈴木さんで、色々と思っていることがあるようです。
彼はプロなのですよ(≧▽≦)