サモナーは見た。その2~雪視点~
空から地上を見下ろす。
ボクは今! 空を飛んでいる!! と、錯覚するような光景。これはちゅん吉の目を借りてみている光景だ。
そんな見下ろしている地上では、米粒な人があくせくと走り回っている。……人がご……げふんげふん。
しかし、これはこれで実に羨ましい。
戦って、眠って、眠っている間に背負われながらの移動。しかもあの男子は、あまり揺れない様にと気を使ってくれているみたいで、あれなら良い夢を見ながら眠れそう。
むぅ……これをもっちーに期待するのはダメ。
確かに接続中に背負って貰えば移動も早くなる。ボクも楽が出来るし楽しいから一石二鳥なんだけど……そんな事をねだれば、もっちーは発狂してしまうと思う。
結構友好的には接する事が出来るようになったと思うけど、まだまだ目と目を逸らさずにとか、軽く接触する事すら避けているから。無理に攻めてしまえば会話すら再び出来なくなる。
なのでここは、エリカのもちもち枕で満足しておこう。むふー……これはこれで、幸せな柔らかさだから。
それにしても……彼等の戦闘能力は結構高い。
デメリットはあるけど、それを補ってしまえるだけの火力がある。他の2人のジョブは分からないけど、恐らくあっちの女子はバフ能力を撒く事が出来るジョブ。
あの子が何かを口にしてから、彼等の動きがかなり良くなっているのが証拠。
バフ能力と狂ったように前衛で戦う力。後は後方支援があれば完璧だけど、男子ももう一人の女子も何かをしている訳ではないみたい。生産職?
ボクはちゅん吉にそのまま彼等を追うように指示をし、視界を切り替えながら行動。
米を収穫しながら、ちゅん吉の視線を確認して、また米の収穫。これは結構忙しい。
ただ救いなのは、視界を切り替えたところで頭痛がするとか、視界酔いをするなんて事が無いって事。もしあったら、どちらか一方の視界で固定しておく必要性がある。そうなると、色々と面倒臭い。
「……それなら背負ってもらえるけど」
その場合はエリカに頼むしかない。……エリカに背負ってもらう? うん、ありかも。もふっとつかめる場所もあるし。
「雪……何か変な事を考えてない?」
「……なにも?」
「その割には手が動いていない様に見えるけど」
「……ちゅん吉」
「あぁ、そっちを確認してたんだ。何か変化でもあった?」
変化らしい変化は無い。
あるとすれば、皆が優し気な雰囲気で、眠っている女子を撫でながら休憩しているという事ぐらい。
戦っている最中はちょっと怖い子に見えたけど、彼等にとって彼女はとても大切な子というのが良く分かる。……それにしても、よく眠る子。
そして、そんな女の子は終始目を覚ます事なく、拠点まで男子に背負われていた。
「……あ、拠点」
拠点を発見したボクが呟くと、桔梗が直ぐに反応した。
「ん? 拠点って事は、道中であった彼等の拠点を見つけたって事かしら」
「……ん」
そうだよと返事をすると、皆があれやこれやと会話を始めた。
何やら戦闘がとか、接触がとか言っているけど、ボクはそんな会話を半分流しながらちゅん吉の視界に集中。接触するにも、戦闘をするにも、この拠点の人達がどんな感じなのか見ておいた方が良い。
情報収集をするのはボク。その情報を基に話し合いをして方針を決めるのはもっちーと桔梗の役割。うん、難しい事は全部2人に投げてしまおう。
むむ……しかしこの拠点。防衛能力が低すぎる気がする。
木材のみで防壁を作ってる。しかも、なんだか頼りない感じ。木の杭を打ち込んでロープで結んでと、本当に一番簡単な作り方。これだと燃やしてしまえば一発で崩壊してしまう。
「……突破は楽」
問題は突破の後。あの狂ったように戦う女の子が出てきたら面倒臭い。
今はレベル差で何とかなる気もするけど、それでも手を焼く相手なのは間違いないと思う。だってボク達側には前衛が居ないから、彼女を止める人物が居ない。
となると、桔梗に全部丸投げ案件? 落とし穴とか壁でなんとかなるのかな。
他の人はどうだろう? 戦闘職も生産職もそれなりに居る様に見える。というか、男女のバランスが良い。多分だけど同数かな? これなら、どちらが主権を握るか! なんて馬鹿な真似はしないと思う。
んー違う? どちらかと言うと、まともな大人が男女1人ずつ居るというのが大きい?
見た感じだけど、男の人と女の人がバランスよく指示を出している様に見える。クラスメイトも彼等に話しかけて行動してるし、その顔が絶望とかマイナスな感情を持っているようには見えない。
これは交渉が可能?
まともな相手なら、いきなり戦闘になるなんて事は無いのでは。うーん……ボクでは判断出来ないかな。とりあえず、この光景をそのままもっちー達に伝えよう。
そう思って視界を元に戻すと、なにか皆がニコニコとした表情を浮かべている。
「……あ、皆採取?」
「そうだよ。ほら、良い物が一杯取れたよ!」
「……むむ……ちゅー太が活躍?」
「そりゃもう! 良い物があるって案内してくれていたからね」
アロエを発見した後も、ちゅー太は大活躍をしたらしい。
見ると沢山の植物達が……あ、これ美味しい奴だ。そう思ったボクは、もっちーが「食べる事が……」というワードを発したのを聞いて、美味しい奴に〝ファイア〟の魔法を使う。そしてソレを軽く炙って、おもいっきり齧り付いた。
「……もきゅもきゅ」
「ゆ、雪……いきなり食べるとか、大丈夫なの?」
「……もきゅ」
美味しいから問題無い! と、エリカに返事をしながらソレを食べる。
えっと、この植物って何て名前だったっけ? まぁ良いか。美味しいし。
あ、そう言えばこれってもう一つ面白い能力を持っていたっけ。たしか、えっと、どの子なら出来るかな。
ひとつひとつ触れてみながら確認をし、手ごたえのあった子を発見。
ボクはその子を手に、エリカの目の前でその子をこすり上げる。すると、その子はボフッ! と音をたてながら爆発した。
「……もこもこ」
凄いもこもこ! 手が完全に綿毛で埋まってしまっている。こ、これは幸せなふわふわだ。
そんな幸せに包まれていると、もっちーがボクの方を見て目を丸くしながら「何が……って、冬川さん何してるの?」と聞いてきた。幸せなもこもこですが? と返す訳にもいかないので、何をしたかを説明しておく。
「……こすってみた」
ボクがそう答えると、桔梗がソレを捕捉するように「ガマの穂ってこすると爆発するのよね……でも、音はしないはずなんだけど」と言う。
ん。そう言えば、この子はガマって言うんだった。それで、確かに爆発をするけど、もっとこう柔らかくモモモっとあふれる感じだったハズ。
「手にダメージは無いみたいだけど」
エリカが確認するようにボクの手を見ながらそう言った。だからボクはこう返す。
「……寧ろ幸せ」
「もっふもふね」
ボクの手を掴んで確認するエリカの手も、当然だけどモフモフに埋もれる。二人一緒にもふもふ天国。
そんな僕達の様子をみたもっちーが何かブツブツと言いながら考えている。
聞こえてくるワードに「布団」だの「枕」だのがあった。はっ! 確かにこの子達を布でくるめば最高なのでは。きっと、幸せな眠りが待っているに違いない。
美味しくて、もこもこで、幸せな植物。
他にも色々と美味しそうな植物が一杯で……確かにこれはエリカの言う通り良い物が一杯だ。
あ。そうだ、ボクの手に入れた情報の話もしないと。
そう思って皆に声を掛けようとしたら、先にもっちーが「って、しまった。新装備のチェックをしてない」と言うモノだから、みんな揃って「「「あっ!」」」と返してしまった。
ボクも思わず「……倒す?」なんて言ってしまったけど。これ、ボクが情報の話をするタイミングを逃しちゃった。
装備の性能テストが終わってから、改めて話を振った方が良い? うーん、忘れないようにしないと。
ブックマークに評価などなど! ありがとうございますです(o*。_。)oペコッ