朝のひと時
「錬金術で何を作ろう?」
なんて事を、ハンモックから降りながらそんな一言を呟いてしまった。うん、いい感じに脳内が錬金術で満たされているな。
これは、次々と色々なモノが作れそうな気がするよ。
『景……錬金術も良いのですが、もう少し彼女達の利用方法を考えたらどうでしょう?』
『おまえなぁ……彼女達の仲は良好とも言える状況だぞ? 下手に此方から指示なんて出さなくても良いんだよ!』
『いえいえ。人は言葉にしないと理解出来ない生き物です。しっかりと対話をする事が必要でしょう』
『お前の言う〝対話〟は〝強制〟とか〝命令〟とか〝脅迫〟だろうが……そんな対話はいらねーんだよ』
バチバチと睨み合う天使と悪魔。
だから毎回思うんだけど、なんで君達って見た目と逆な事を言っているのかな? そして、何気に毎回同じことをするって事は、結構君達の仲って悪くはないでしょ。
『『ありえません(ねーよ)!!』』
ほら。息もぴったりじゃないか。
そんな事を思ったら、天使と悪魔は無言で睨み合いを開始した。
うん、静かになったな。てか、実際にはこの二人? の仲ってめっちゃいいのでは? と疑ってすらいるけど……ソレは置いておくとして。
この静かになったタイミングで、さっさと朝の準備とかを済ませてしまおう。脳内で騒がれた状態で朝食とか、美味しい物も微妙になっちゃうしね。
朝の支度を終えた頃、既に女子達は広間へと集まっていた。むむ、今日は彼女達の方が早かったようだ。
「おはよう! 朝食の準備できてるよ」
「……おはもっちー」
「おはよう。今日は皆の方が早かったかぁ」
「おはよう望月君。朝食を食べながらになるけど、今日の予定を聞いても良いかしら?」
もとより俺も皆の行動を聞くつもりだったしな。だから全く問題なんて無いけど……言うて、俺の行動なんてもう固定状態だよ?
あ、でもそう言えば昨夜思った〝水の大量確保〟だけは話し合いをしておかないとね。
「やる事は錬金術一択かな。ただ、少し考えている事が有るんだけど、皆にも知恵を出して貰って良いかな?」
「オッケーだよ。てか、何を悩んでるのかな? 望月君なら簡単に解決しちゃいそうだけど」
「春野さんは一体どんな評価を……と、まぁそれは聞かないけど。えっと、悩んでいるのは水の大量確保について。今はアイテムチェストを利用して大量に確保をしているけど、今後はそれだと追いつかないと思うんだ」
「あー……そうね。農地も拡張したいものね。そうなると、確かに現在のやり方では追いつかないわ」
「うん。それに色々な道具を作るって考えると、動力源も欲しいなって。水車なり蒸気なりを利用するってのは一番手っ取り早いでしょ?」
「……発電?」
「いや、もっと原始的な方法。歯車を回してそれを直接利用する」
脱穀・製粉・機織り・旋盤と、回転を利用するだけで色々な事が可能になるからね。
確かに錬金術で一発では有るんだけど、それは魔力と時間を使う事になるから自動化できるならやってしまいたい。
とは言え、その為には水が全く足らないよ……と、夜中に考えちゃったんだよね。
「なるほど。それで水ね」
「そうそう。もし蒸気が利用可能になったら、それこそお風呂やサウナなんかも……」
「「「水を確保しましょう!」」」
「……水浴びだけはつらい」
おおう……声が揃ったなぁ。
確かに、お風呂無しは辛いよなぁ。今は雨季だからジメジメするってのもあるけど、もし冬季があるとしたら水を浴びろと? もしくは、水で濡らしたタオルで拭けと? そんなの辛すぎるよな。
そう考えると、お風呂は必須! ではあるんだけど……此処まで食らいつくとは。やっぱり女の子って事なのかな。
「石鹸は作ってくれたからあるけど! やっぱりお風呂が無いのは辛いもんね!」
「体を洗うならって話じゃん。風呂は必須だよ」
「でも今までは水の確保が大変だったから、お風呂を作るなんて事が出来なかったのよね……もし水を確保出来るのであれば真っ先に欲しい施設の一つだわ」
「……ちゅん吉の行水」
「ぴちゅ!?」
本当に食いつきは良いんだけど、問題はその水をどうやって確保するかなんだよね。
「盛り上がっているところ悪いけど、その水をどう確保するかで悩んでるんだけど?」
「あ……そうだったわね。えっと、それは川から水を引いてくるとかでは駄目なのかしら?」
「要塞化した拠点内に穴をあける事になるかな。かなり考えた設計にしないと厳しいかと。人やモンスターの侵入経路になりかねないよ」
「なるほどなぁ。そうなるとやっぱり井戸か?」
「あ、でも井戸だとそこまで大量の水を汲めないよ?」
「……ポンプ」
「今作るとしたら手押しポンプになるわね。それだと、全く水量が足らないかしら……必要な分を確保しようと思ったら、かなりの時間ポンプと格闘する事になるわ」
むむむ……と全員が頭を抱えた。
やっぱりそうだよなぁ。水の確保ってかなり厳しいよね。これが海辺に居た場合でも、常に蒸留水を作るような施設をいくつも用意するか、水の量産だけで錬金術を費やす事になってしまう。
本当に……モンスターさえいなければ! って話なんだけど、居るのだからどうしようもないよね。
「鉄柵とかでは駄目なのかな?」
「モンスターの攻撃力に耐えられるかとか、戦闘職の力があれば曲げられるよね?」
「確かに……そうなると一本一本の鉄の棒を太くする必要があるわね……ただそうなると鉄の量に問題が出るといったところかしら」
「そんな感じかな。今の量だと全く足らなくなるかな」
どれだけの太さにする必要があるかは分からないけど、最低でも腕ぐらいの太さがないと安心は出来ないからね……でも、その太さで鉄の棒を作るとなると、鉄の量が足らなさすぎる。そして、鉄を取りに行くとしても材料集めだけで何日掛かるのやら。
「日にちは掛かるかもしれないけど、安全と水の確保を考えたらやる必要があるわね」
「となると、ゴーレムと戦った場所で作業する日々になるのかな?」
「魔法でポーンっと鉄だけ回収出来ない?」
「やれたとしても、結局運ぶ必要があるのよ? それに、どれだけ纏まって確保出来るかもわからないわよ」
「……探すところからスタート」
女子の皆さんはやる気満々だ。
なんだろう……少し罪悪感を感じるなぁ。これ、どうみても風呂で釣ったような状態だよね。
『そうです。景、その行動が正しいのです』
『何言ってんだ! こんなの偶々の結果だろうが。景にはあの子達を釣るつもりなんて無かっただろうが!』
『いいえ、結果が全てなのですよ? ならば、この結果を導き出した景は……』
『だまらっしゃい! 全く……少しでも思う所があるなら別の物で返してやれ。そうするのが筋ってもんだろう? ケッケッケ!』
静かになったと思った天使と悪魔が元気になったなぁ。
とは言え、確かにそうだよなぁ。結果としては風呂で釣った事に変わらないのだから、これは別の何かを用意するべきかな。
しかし何が良いか思いつかない……あれかな? 花の香りがする石鹸とか? 前に作ったのは無臭だったしね。
それに、中級になった事で品質にも変化が有るかもしれない。今あるのは全て低品質だったハズだから、もしかしたら普通レベルを狙えるかも。
よし、これはもう錬金術で色々作るしかないでしょう! って、結局は錬金術な日々になるって事だね。そう考えると、作るモノが多少増えたってだけかぁ。……釣った事に対しての筋がこれで良いのかな? と思わなくもないけど、それ以外なんも思いつかないからなぁ。分からないからと女子に聞くのはちょっと違うだろうしね。
あぁ、そうだ。ベッドとかの寝具関連も優先的に作る事にしようか。うん、物量攻撃で行く事にしよう!
ブックマークや評価などなど、ありがとうございますなのです(o*。_。)oペコッ
結局は物に頼る景君でした。まぁ仕方ないよね! コミュ力0レベルな訳だし。あ、でも一応女子達に対しては1レベルか2レベル程はあがっているかも?
ただまぁ、結局のところ物で釣っているって事になるんだよなぁ(ボソ