何を作ろう?
拠点に戻った後。さてそれでは、錬金術を開始しましょう……という流れに直ぐなる訳では無かったりする。当然だけど、やるべき事が一杯あるからね。
「えっと、鶏達は……あー、良かった。ちょっと不貞腐れているけど生き残ってるね」
「卵はダメだろうけど。やっぱり餌を多めに置いておいたのは正解だったみたいね」
「……水場も」
ただ、これ以上この拠点を放置していたらどうなったか分からなかった。
餌が無い! と鶏達が暴れ、小屋を破壊して脱走していたかもしれないし、小屋の中でぐったりと横たわっていたかもしれない。
餌箱を見る限り、今日明日の分ぐらいは残っているみたいだけど……本当にぎりぎりだったと言った感じかなぁ。
後、水が大丈夫だったのは、丁度雨季と言う事もあって雨水の収集装置が役に立っていたからだね。良かったよ作っておいて。
では農地はどう? と思って見に行くと……雑草がこんにちわと顔を出している。
「当然と言えば当然かな」
「さっさと抜いておきましょうか」
それをちゅー太にやらせるのはありだろうか? なんてちらりと足元を見てみる。
「ちゅちゅ!?」
「……一匹じゃ無理」
そりゃそうか。単体じゃ流石に時間が掛かり過ぎるのも当然だよね。
「分身とか出来たら良いのにね」
「……ちゅー太?」
「ちゅちゅ!!」
出来ないの? という視線がちゅー太に集まり、ちゅー太は「無理無理!」と言わんばかり、両前足や尻尾をぶんぶんと振る。
残念。出来たら色々と楽だったのになぁ。
そんな感じで、無人にしていた拠点のあちらこちらをチェックして回った。
鶏や農地以外にも、家や壁に作った装置などのチェックも必要だからね。だから、拠点内を隈なく歩き回る訳だけど……。
「チェックしながらだから結構時間が掛かったなぁ」
とまぁ、全てのチェックが終わる頃には、登っていた太陽も沈みかけており、俺は自室にてばたんきゅーとハンモックの上に倒れた。……うん、錬金術をやる時間なんて無かったよ。
一応手分けしてのチェックではあったんだけどね。俺にしか出来ない事とか女子にしか出来ない事もある訳だし、雑草の排除も少しはやっておいたからね。そりゃ時間が掛かるよ。
とは言えなんだろうね? こう、戻って来た! という気持ちになる。
やっぱり頑張って作った拠点や家と言う事もあって、ここがもはや地元みたいな感覚になっているのかも。……そんなに長い時間居た訳じゃないんだけどね。
「さて、錬金術で物を作る訳だけど。一体何から手を出すべきかな」
鉄や魔石を扱う事が可能になった。だから色々とモノづくりの幅が広がったのは間違いない。
とは言え、多分だけど刃物関連はやっぱり切る事の出来ないモノになる予感はする。だって鉄を扱えるようになったとは言え、それは鉄の質を向上させるという話であって、刃を立たせるといった方向では無いと思うんだよね。説明的に。
となると、鉄は何方かというと棒とか板を作る方向で考えた方が良いかもしれない。
「ただ、一応は切る事が出来ないって訳じゃないんだけど……」
重さと硬さに任せて押しつぶすというか、押し切るというか……どう考えてもスマートじゃない方法なんだけどね。出来ない事は無いんだけど、それを道具や武器として使えるかと言えば微妙。
前に作った裁断機だけど、道具としてはあれが一つあれば十分かな。武器に関しては……諦めよう。
ただなぁ。そうなると鉄の斧とかそういった物も作れ無さそうだよね。何せ鉄の斧より石の斧の方が鋭利なんだよ。どうするよ? って話だよこれは。
あぁ、あれかな? 錬金術で砥石的な物でも作れば良いのかな。でも鉈とか斧とか、鈍である状態から研ぐのって相当大変だよね。一体どれだけの種類の砥石を用意したら良いんだろう? 後、研ぐのにどれだけ時間が必要なのかって話もあるし。
「あ、でも自動で研げたら良い?」
回転する砥石を作って、そこに鉈や斧を当てておく。別に鋭利という状態にする必要は無い。あくまで石斧よりも鋭ければいいのだから。
しかし自動で回転するとなると……水力か、もしくは陶芸とかで使うような足踏みペダル式か。何か動力源が必要だし、その動力源から生まれたパワーを移動させる物も必要になる。特に歯車とかはしっかりと作らないといけないよね。
あぁ、色々と思いつきはするけども、何から手を付けたらいいのか悩ましすぎるよ。
だって他にも作ろうと思ったものは沢山あるから。
武器・ポーション・爆弾の作成とその強化・農地用の肥料などなど……本当に必要な物が沢山あるんだよね。そして、その中から優先順位を付けろといってもかなり難しい。
一応、一番最後に回すとしたら武器かな? ってぐらい。武器は一応だけど現状のモノでも使えない訳じゃないからね。まぁ、一番手掛けたくてうずうずとはしているけども。
楽をする為にも、最初に色々な装置を作っておくのが良いかなぁ。
工業系のゲームとか、まずは基礎となる装置をどんどん作るのが最初だしね。粉砕する装置とか、発電する装置とか。
そう考えると、やっぱり動力源の確保が最初? でもそうなると、川から水を引いてくる必要があるんだけど……それはちょっと大変すぎる。いつかはやらないといけない事だけど。
となると、足踏みペダル? 人力な動力だけど一番楽に作れるんだよね。他だとどうだろう……。
「蒸気……は、水の量が足らないかなぁ」
火属性の魔石やらモンスターの素材があるから、熱源だけなら何とかなりそうな気がするんだよね。それに、発電する訳でも無いから、作り方としては其処まで難しくは無いはず。錬金術があるしね。
蒸気機関車と言えば、あの巨大で複雑そうな物をイメージするかもしれないけど。初期の頃のモノであれば、もっとコンパクトで単純だし。可能性が無い訳じゃないと思う。
とは言え、どう考えてもぶち当たる問題は水なんだよね。あぁ……水だ。水が欲しい。思わずマイム・マイムを踊りたくなるレベルで。
ただなぁ……本当に水路は色々と大変なんだよなぁ。
作るのもそうだけど、維持管理がまた……。常にチェックをしないといけないし、下手をしたら水路が進入路になるからね。それの対策も必要になる。これが普通の環境だったら鉄柵だけで良いかもしれないけど、モンスターが居る世界だからね。鉄柵だけで大丈夫かな? って思ってしまう。
人もそうだ。スキルや魔法があるから、鉄柵の破壊ぐらいはやってみせる事が出来ると思うんだ。そして、水中からの行動だから、侵入に気が付くまで時間が掛かってしまう。
これが、普通に壁を壊されての侵入だったら音ですぐに分かるんだけどね。水中での破壊だから、音での察知は期待出来ないかな。
あぁ、やっぱり問題が山積みだ。どうやったら水を確保出来るだろう? やっぱり井戸を掘って、ポンプで引き上げるのがベストかなぁ。あ、でもポンプに使う材料が……銅と錫が発見さえできていれば良かったのに。
あ、でもそれだと手押し式になるから、結局は動力が足らないじゃん。自動で水を引き上げてくれたら楽なのに。
なんだろうね。色々と出来る事が増えたってのに、その分だけ問題点も増えてしまったよ。
何とかして解決したいんだけど。誰かいい案をくださいとお願いするしかないかなぁ。というか、誰かというより女子達にも話を振ってみようか。
一人で考えていても、思考が行き詰まるだけだしね。もしかしたら、画期的といえる案が意外な人から飛び出てくるかもしれない。
そうと決まったら、今日はこの懐かしく感じるハンモックでゆっくりと眠るとしよう。……あ、ずっとハンモックのままもあれだから、ベッドも作らないとなぁ。って、また作りたい物が一つ増えちゃったよ。
ブックマークに評価などなど、いつもありがとうございます!!
思考の沼へと嵌って行く景君。
しかし、もうすっかりと女子を頼る事を覚えた様で……最初に比べると成長が見て取れます。
このまま景君には真っ直ぐ修正されて行って欲しいモノですね。