閑話・ロスト
「あらら……ネズミちゃんは全く姿を見せないわねぇ。逃げられちゃったのかしら」
ちょっと脅かし過ぎてしまったかしら。残念、仲良く出来たらと思っていたのだけど。
でも良いわ。こうして顔を見せないという事は、最低でも敵対するという事はしないという事の現れでしょう。ならば警戒する必要も無い。
「そういえば、生産職の子達はどうしているかしら?」
「えっと、鍛冶職の矢萩君と木工職の金剛君なら、今頃それぞれの仕事をしていますよ。とは言っても、鍛冶は現状やる事が無いと矢萩君は嘆いていますが」
「そうよねぇ……鍛冶に必要な鉄や銅が無いモノね」
「えぇ、ですので現状は石を削ってナイフや斧等を作っていますね」
石の道具を作る。ただそれでも、他の人が作る道具よりも矢萩君が作った物の方が性能が高い。やはりこれは、職業による補正と言うモノが有るからなのでしょう。
「他の働き蟻達はどうなのかしら? あ、働き蟻と一緒にしたら蟻に失礼ね」
「奴等は毎日せっせとココヤシを拾っていますよ。後は釣りでしょうか」
「レベルがあまり上がらないのであれば問題無いわ」
「ねーねー……やっぱり捨ててしまおうよー。あんなの飼っていても後々面倒なだけだって」
「確かに面倒ではあるけれど、でも今は手の数が足らないのよ。少しでも使えるようであれば使わないと……」
正直、金魚の糞をしていた奴等をそのままのさばらせるのは、私だってどうかと思うわ。でも、使える者は使わないと、今後直ぐに行き詰ってしまう。下手をしたら、何も出来ずに全滅してしまうことだってあるでしょう。
そう考えると、あのネズミちゃんが消えてしまったのはとても痛いのだけど……仕方ないわよね。
「何とか農業なりなんなりを出来るようにして、安定した食料調達が出来るようにならないと……」
「でもでも、農業が出来そうな物って何も無いよ?」
「そうですね。今の所木の実ぐらいしか発見出来ていないのは痛いですね」
鑑定の力を持ってしても、何処に何があるかまでは分からない。私の力は見つけてから真価を発揮するタイプ。だから正直、現状では特に出来る事なんて何も無いのよね。
「レベリングだけど、奴等を除いて全員でパーティーを組んでいるからか、余り上がらないのよね」
「しかし戦闘職が居ない以上、こうして皆で協力するしか……」
「戦闘職はばかばっかだし! まぁそれでもぉ? 今は私達の方がレベルは上になったけど!」
私達女子3人と雌犬1匹。それに先ほど言った生産職の男子2名でパーティーを組んでレベルを上げている。
だからなのか、経験値の入りは低くレベルが上がる速度も早くはないのだけど、それでも確実に成長はしている。そしてそのお陰もあって、今では馬鹿達よりも数レベル程上になる事が出来た。……馬鹿達には狩りの制限もしているのも理由の一つなのだけど。
「そろそろ私達のパーティーに入れ、偶に狩りをやらせても良いと思うのだけど……まだ早いかしら?」
「せめて全員のレベルが5ぐらいは差が欲しいかと」
確かにそうね。私達はあいつ等の策略で全員微妙と言える職に就かされた。
私は鑑定士。使えなくはないけど、先ほど言ったように分からない物は分からないので微妙と言える職業。見つけた素材が使えるかどうか、食べられるかどうかを見極めるぐらいしかやる事が無い。
茜さんは〝侍女〟と言うジョブ。メイドの事なんだけど……何でこんなジョブを選ばされたのか本当に謎。とは言え、彼女の性格的にはある意味合っていると言えば合っている。今も私を的確にサポートしてくれているのだから。そう言った意味では秘書みたいな存在でもあるかしら。
皐月さんは〝ダンサー〟で踊りを踊る事で何か効果を発揮する子。元々は彩音さんと組ませる予定で選んだジョブらしいのだけど……彩音さんは既にこの地を離れている。そして私は、その判断は正しかったと思っているのだけど、それは今更。
しかし、なんで其処まで仲が良かった訳では無い皐月さんと彩音さんを組ませようとしたのか……見た目かしら? 見た目よね。
そして雌犬こと……名前なんだったかしら? 今は従順な子だけど、ある意味元凶だった子。因みに彼女のジョブは〝おはな士〟。一体なんのジョブかしら? と、謎ジョブを選ばされていたのだけど、何となくその内容が分かったわ。
これ、頭の中が〝お花〟畑になりつつも、誰かと〝話〟をするって事よね。ある意味最悪なジョブじゃないかしら……だから、あんな事件を起こしたのだろうと思うのよね。
だってそうでしょう? ある意味〝挑発〟を行うような真似を素でやってしまうという事なのだから。……出来れば、ジョブが変えられる何かが欲しい所よね。でないと、何時までも彼女に人の言葉を話させてあげられないもの。
私達の現状とジョブを確認した所で、今一度あのネズミちゃんと会う方法が無いか考えてみる。
「やっぱり難しいわよね」
「探し出すジョブが有りませんからね……あの腰巾着どものジョブは戦闘職と料理人ですから」
「料理人に料理させられないのは辛いわよね。料理馬鹿の癖に、最初からあいつ等につくなんて……」
「馬鹿だから? 馬鹿だもん。と言うより、アイツはアレについたから料理人になれたってのもあるかも!」
「確かにそうね……しかもその馬鹿料理人は、未だにネズミちゃん達を探して彷徨っているわね」
もしかしたら、もう既に森の中で息絶えているかもしれないわね。
料理人だから戦闘職でもないのに、戦闘になりそうな森の中で生活している。どう考えても生存出来るとは思えないわね。
そして、彼の助けとなりそうな戦闘職三人組はというと、今は私達の元で馬車馬の如く働いているのよね。見捨てられたというかなんというか……なんで料理人の癖に、あの屑共に忠誠心を捧げているのかしらね。
「そう言えば、料理人でおもいだしたのだけど。あの屑達は……」
「どうなったのか分かりませんね」
「死んだ? 死んでない? でも、普通に考えたら死んでる!」
謎なのよね。
地下室を作って其処へ閉じ込めた。そして、その地下室に近づく者がいたり、地下室から出ようものなら直ぐにわかる様に細工をした。
でも、そんな細工が反応する事もなく、足跡などの痕跡が残る事もなく、あの糞達は二日前にその姿を忽然と消した。地下室に服を残して。
「まるで、最初から存在していなかったかのように消えてしまったのよね……」
「モンスターっぽい?」
「服だけ残してと言うのも不気味ですよね」
死んだ事でドロップ品を残して消えてしまった。そうとしか思えない現象に私達は恐怖を覚えた。
だってそうでしょう? もし逃げたのなら、なんで服だけを残す必要があるのかしら。
もし死を偽装したいのなら、死骸なり血なりが残っていないのはオカシイ。ただ逃げるだけなら、服を脱ぐ必要性は無い。
「どう考えても突然消えたとしか思えない……」
今も調査はしているのだけど、何も痕跡が残っていない為に調査続行は不可能ではないかと思っている。
「あの料理人が連れ出すのも無理ですしね。ジョブ的に考えても料理人では不可能でしょう」
「他に味方がいるとか?」
「誰と何処で接触したのかと言う話になりますね。鏡花が言うネズミちゃん達の陣営であれば、間違いなく料理人の言葉はスルーするでしょうし。もし他の陣営が居るのであれば、私達と接触しているはずです」
ミステリーと言わざる得ない。
もしかしたら、この様な島だからこそ起きた現象という可能性もある。
「死んだら死体すら残らない可能性がある……か」
まだ屑達が死んだとか限らないけど、限りなく死んだ可能性は高いと思う。だって、毒を受けてそのまま放置していたのだから。寧ろ死んでいない方がおかしいかもしれない。
やはり、もう少し早くレベルアップを行って、他の陣営と接触する必要もありそうね。とは言え、他の陣営がどんな人物かというのもしっかりと〝みて〟おかないとダメね。
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ロスト。えぇ、色々な意味でロストしましたね。
ネズミちゃんこと、景陣営の所在地や情報がロスト。料理人の消息がロスト。屑三人衆の姿? 亡骸? がロスト。とロスト祭りです。
そして最後の〝みる〟が漢字で無いのは、色々な意味を含めているから。
視認・観察・看破と本当に色々な意味合いを含んで彼女は言っていますので、当てる漢字が定まらず、結果〝みる〟と言った形に。